1956年(昭和31)、公共企業体等労働関係法(公労法)の改正により設置された行政委員会。略称、公労委。1986年、日本国有鉄道(国鉄)等の民営化により公労法が国営企業労働関係法(現、行政執行法人の労働関係に関する法律)に改称されたことに伴い国営企業労働委員会(国労委)に改組され、さらに1988年、中央労働委員会に統合されて廃止された。
国鉄、日本専売公社(専売公社)、日本電信電話公社(電電公社)の旧三公社および郵政省郵便事業(郵政)、国有林野事業(林野)、大蔵省印刷事業(印刷)、同省造幣事業(造幣)、アルコール専売の旧五現業を含む公共企業体(公企体)等の労働争議の調整や不当労働行為の審査などを行っていた。労働省(現、厚生労働省)の外局で、中央・地方労働委員会と同様、労働者、使用者、公益の三者をそれぞれ代表する委員から構成されていた。行政改革により1982年10月、アルコール専売事業が公労法の適用から除外されたのを皮切りに、1984年専売公社、1985年電電公社が、ついで1987年国鉄が民営化されるに至り公共企業体が消滅したことに伴い、公労法は1986年、国営企業労働関係法に改称され、公労委も国営企業労働委員会(国労委)に改組された。国労委は公労委同様、紛争の斡旋(あっせん)、調停、仲裁にあたるとともに、不当労働行為の審査にあたることになったが、労働委員会制度の効率的運営・機能の強化を図るという1983年の臨時行政調査会最終答申の指摘を受けて、1988年6月、「労働組合法の一部を改正する法律」が制定され、これに伴い国営企業労働関係法の一部が改正されて国労委は廃止、中央労働委員会と統合されることとなった。中央労働委員会は国営企業に係る不当労働行為事件の処理等をするために審査委員会を設けることができ、また、あらたに設けられた国営企業等担当委員が中央労働委員会における国営企業に係る紛争調整等の事務についてその処理にあたることになった。なお、郵政・印刷・造幣3事業は、2001年(平成13)1月総務省郵政事業庁、財務省印刷局、同造幣局の所管となり、2003年4月にはそれぞれ日本郵政公社、独立行政法人国立印刷局、独立行政法人造幣局となった(日本郵政公社は民営化され、2007年10月から日本郵政グループ)。また2013年、国有林野事業が国営企業ではなくなったため、国の現業もすべて廃止されている。
[寺田 博]
マッカーサー書簡に基づいて制定された公共企業体労働関係法は、労使関係の調整機構として仲裁および調停の二つの機関を設け、仲裁機関としては公共企業体仲裁委員会を中央に一つ、調停機関としては国有鉄道調停委員会と専売公社調停委員会をそれぞれ中央と地方に設置した。1952年(昭和27)に「公共企業体等労働関係法」に改正されて適用が三公社五現業に拡大されたことにより、仲裁委員会は公共企業体等仲裁委員会に名称が変更され、各調停委員会も統合されて公共企業体等調停委員会となり、中央、地方に置かれた。さらに1956年の法改正では、それまで調停、仲裁の二本建てであった調整機関が統合一元化されて公共企業体等労働委員会となり、地方には公労委の内部機構として地方調停委員会が常置された。
[寺田 博]
公労委は、一般の労働関係を対象とする労働組合法の労働委員会が三者同数で構成されているのとは異なり、公益委員7名、労働者委員、使用者委員各5名をもって構成された。仲裁委員会および調停委員会は事件ごとに組織され、仲裁委員会は公益委員のみで、また調停委員会は公・労・使各3名以内で構成された。公益委員は、労働大臣が使用者委員および労働者委員の意見を聞いて作成した委員候補者名簿に記載されている者のうちから、衆議院・参議院両院の同意を得て、内閣総理大臣が任命することになっていた。労使委員は、内閣総理大臣が公共企業体等または組合に対してそれぞれ候補者の推薦を求め、その推薦のあった者のうちから任命した。公益委員の任命について労使委員の任命と異なった手続を必要としたのは、公益委員の職務権限の重要性と特殊性およびその中立性確保からの要請であったが、両議院の同意を得ることが逆に公益委員の選出に対する不当な政治的介入になる恐れも指摘されていた。各委員の任期は2年。
[寺田 博]
公労委は、労働委員会と同様に判定的・準司法的機能と調整的機能をあわせもつ。判定的・準司法的機能としては、非組合員の範囲の認定、労働組合の資格審査および資格証明、不当労働行為の審査があり、これらはもっぱら公益委員のみが権限を有した。調整的機能としては、労使紛争の斡旋、調停、仲裁があり、仲裁は仲裁委員会が行ったが、労働関係調整法の任意仲裁とは異なり強制仲裁制度がとられ、仲裁裁定は最終的決定として当事者双方を拘束したことから、調整的権限といえるか問題があった。
公企体等における労使関係の調整機関として、労働委員会とは別個に特別の公労委制度が設けられたのは、公労法が、公企体等職員の団結権、団体交渉権を大幅に制限し、争議行為を全面的に禁止していたことによる。公労委は争議行為禁止の代償措置を講ずるものとして、労働委員会制度に比べはるかに強い調整的権限としての強制仲裁裁定制度を有していた。強制仲裁は、(1)公労委が斡旋または調停を開始したのち2か月を経過してなお紛争が解決しない場合において、関係当事者の一方が公労委に仲裁の申請をしたとき、(2)公労委が斡旋または調停を行う必要があると決議したとき、(3)主務大臣が公労委に仲裁の申請をしたとき、に行われた(33条)。
仲裁裁定は書面に作成され、労働協約と同様に当事者を拘束したことから紛争解決の直接的効果を生じた。したがって当事者双方は最終的決定として仲裁裁定に服従しなければならず、政府もまた、裁定を実施するようできる限り努力する義務を負った(35条)。
しかし公労法は、予算上または資金上不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については政府を拘束せず、国会の所定の行為がなされるまではそのような裁定に基づいていかなる資金といえども支出してはならないと規定(16条)していたことから、1949年(昭和24)の国鉄に対する第1回裁定以来、現実には裁定が完全に実施されない状況が続き、仲裁裁定の不履行額は巨大なものとなった。こうして、労使紛争の最終的解決手段となるべき仲裁裁定が、逆にその完全実施を要求する労働組合の実力行使を招く結果となり、それが労働組合のストライキ権回復闘争へと展開したのである。
仲裁裁定が実施されるようになってからもその内容は低く抑えられ、あるいは裁定実施の可否が政治的取引に用いられるなどしたことから、仲裁裁定は争議行為禁止の代償措置たりえないとの批判も強く、第三者機関としての公労委のあり方も公企体等職員の争議権保障との関係で問われてきた。しかし、労働基本権保障という根本的な問題の解決をみないまま公企体等は民営化され、公労委は国労委に改組された。そして、その国労委もわずか2年で中央労働委員会と統合され、廃止された。
[寺田 博]
『峯村光郎著『法律学全集48Ⅱ 公共企業体等労働関係法 公務員労働関係法』新版(1972・有斐閣)』▽『国営企業労働委員会事務局編『公共企業体等労働委員会の回顧』(1988・労務行政研究所)』▽『道幸哲也著『労使関係のルール――不当労働行為と労働委員会』(1995・労働旬報社)』▽『労委協会編『労働委員会関係法規集』(1999・労委協会)』
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…国営企業の労使関係を規律する法であって,国企労法と略称する。国営企業とは,(1)郵便,郵便貯金,郵便為替,郵便振替および簡易生命保険の事業,(2)国有林野事業,(3)日本銀行券,紙幣,国債,印紙,郵便切手,郵便はがき等の印刷事業,(4)造幣事業の4事業を行う国の経営する企業をいう。このうち(1)は郵政事業と略称する。国営企業は国の現業部門である。国営企業に勤務する職員は,一般職の国家公務員である。国企労法は,国営企業の職員の労働条件に関する苦情または紛争の友好的かつ平和的調整を図るように団体交渉の慣行と手続とを確立することにより,国営企業の正常な運営を最大限に確保し,公共の福祉を増進し,擁護することを目的としている。…
…労働大臣の所轄で,東京に設置)がある。そのほかに,船員については,船員地方労働委員会(運輸大臣の所轄で,各海運局ごとに設置)と船員中央労働委員会が,また,公共企業体等の労使関係を対象とするものとして公共企業体等労働委員会(公労委)がある。これら各委員会の機構,権限については若干の相違がみられる。…
※「公共企業体等労働委員会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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