精選版 日本国語大辞典 「宜」の意味・読み・例文・類語
よろし・い【宜】
〘形口〙 よろ
し 〘形シク〙 古代では「よし」が積極的な判定を下すのに対して、「よろし」は消極的で、「よし」よりも低い評価を表わす。

① 好ましい。心にかなう。満足できる。
※古事記(712)上・歌謡「沖つ鳥 胸(むな)見る時 羽叩ぎも 此し与呂志(ヨロシ)」
② 適当である。ふさわしい。正しい。→よろしく。
※弁中辺論延長八年点(930)中「此が中に応(ヨロシキ)が如く、其の義を顕示すべし」
③ 凶に対して、吉である。
※蜻蛉(974頃)下「この十九日、よろしき日なるをとさだめてしかば」
④ まずまずの程度である。十分ではないが、まあよい。悪くない。
※土左(935頃)承平五年一月一八日「この歌どもを、すこしよろしと聞きて」
※浮世草子・西鶴織留(1694)六「相応の所へよろしく仕付事のならぬ者」
⑤ 特に、身分・家柄・経済状態・教養などがまずまずの程度である。
※枕(10C終)五七「若くよろしき男の、下衆女の名よび馴れていひたるこそにくけれ」
⑥ 特に、健康の状態がまずまずの程度である。病気が小康状態である。
※源氏(1001‐14頃)若紫「かの山寺の人はよろしくなりて、いで給ひにけり」
⑦ 平凡である。なみ一通りである。
※大和(947‐957頃)一六八「妻は三人なむありけるを、よろしくおもひけるには、なほ世に経じとなむ思ふと、二人にはいひけり」
⑧ 静まるようである。おさまりそうである。
※今昔(1120頃か)一四「法花経講ぜさせなど為る程、地獄の熖宜く見ゆ」
⑨ 是認できる。許可できる。さしつかえない。
※浪花聞書(1819頃)「よろしいよって よひから也」
⑩ 相手の言ったことを了解、了承した時、また、満足ではないが、それで仕方がないと容認、また、放任していう語。わかった。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「よろしい分りました」
[補注](1)連用形「よろしく」に見られる、いくつかの特殊な意味、用法は副詞として別項で扱った。
(2)動詞「よる(寄)」からヨラシという形容詞が派生し、それがヨロシに変化したもので、その方へ近寄りたいというのが原義だという説が有力である。
(2)動詞「よる(寄)」からヨラシという形容詞が派生し、それがヨロシに変化したもので、その方へ近寄りたいというのが原義だという説が有力である。
よろし‐げ
〘形動〙
よろし‐さ
〘名〙
よろしく【宜】
〘副〙 (形容詞「よろしい」の連用形から。「宜敷」はあて字)
① (漢文訓読で「宜」の字を「よろしく…べし」と読むところから) そうすることが当然であったり、必要であったりするさまを表わす語。すべからく。まさに。ぜひとも。必ず。
※法華義疏長保四年点(1002)四「宜しく、之に順同すべしといふぞ」
② その場の成り行きや雰囲気に適合するようにするさまを表わす語。よいほどに。ほどよく。適当に。
※自画像(1920)〈寺田寅彦〉「絵具の方ですっかり合点してよろしくやってくれるのを」
③ 特に、歌舞伎脚本のト書に用いて、その場にふさわしい適当な演技での意にいう。
※歌舞伎・韓人漢文手管始(唐人殺し)(1789)二「二重舞台千嶋正が後ろに、伴蔵、丈助始近習の侍大勢並び、いづれも宜敷」
④ 好意や案ずる心を他に伝言してもらう時にいう挨拶の語。また、人に何かを頼んだりする時に添える語。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「乍恐縮かの猫へも宜しく御伝声奉願上候」
⑤ 上に記述された内容を受け、いかにもそれに似て、いかにもそれらしくの意を表わす語。
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉九「高麗人(こまびと)よろしくてふ麦藁帽子で、ジット頭を制へつけて」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「どうした、土左的宜敷(ヨロシク)といふ顔色だぜ」
よろしき【宜】
〘名〙 (形容詞「よろし」の連体形から) ちょうどよい程度、状態。
※増鏡(1368‐76頃)七「よろしきをだに、人の親はいかがは見なす」
よろ
し【宜】
〘形シク〙 ⇒よろしい(宜)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報