(読み)ハ

デジタル大辞泉 「巴」の意味・読み・例文・類語

は【巴】[漢字項目]

人名用漢字] [音]ハ(呉)(漢) [訓]ともえ
〈ハ〉中国四川省東部の異称。「巴蜀はしょく
〈ともえ(どもえ)〉水が渦巻いた模様。「卍巴まんじともえ葵巴あおいどもえ
[名のり]とも
[難読]巴布パップ巴奈馬パナマ巴比倫バビロン巴里パリ巴爾幹バルカン

ともえ【巴】[謡曲]

謡曲。二番目物平家物語などに取材。武者姿で現れた木曽義仲の愛妾巴御前の霊が、義仲とともに討ち死にできなかった無念を語る。

とも‐え〔‐ヱ〕【×巴/×鞆絵】

ともに形が似ているところからという》
湧き出した水がうずを巻いて外へめぐるような形・模様。
物が円形を描くように回るようす。「三者が―となって戦う」
紋所の名。1図案化したもの。巻く方向によって左巴・右巴があり、その数によって一つ巴・二つ巴三つ巴などという。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「巴」の意味・読み・例文・類語

とも‐え‥ヱ【巴・鞆絵】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 尾を長く引いた曲線の円頭を大きく表現した文様の名称。俗に波頭(なみがしら)を図案化したといい、弓具の鞆(とも)の形象に酷似することによる呼称。その形が左巻きか右巻きかによって左巴、右巴があり、円頭の組み合わせによって二つ巴、三つ巴がある。ともえの丸。ともえ波。
      1. [初出の実例]「五節には、『白薄様、ごぜむじの紙、巻上の筆、鞆絵かいたる筆の軸』なむど、さまざま面白事をのみこそうたひまはるるに」(出典:平家物語(13C前)一)
    2. 巴の文様を描いた軒や床の板の木口の部分。
      1. [初出の実例]「其東西北面懸亘帽額鞆絵、木工寮作舞台、左右衛門進柳梅」(出典:江家次第(1111頃)一〇)
    3. 巴の文様を描いた網代の車。
      1. [初出の実例]「ともゑの車などつたへたりける中納言左衛門督通季のすぢ也」(出典:愚管抄(1220)六)
    4. まるく一方に回る様子をたとえていう語。
      1. [初出の実例]「ともゑにまはれば、ともゑにをっかけ」(出典:浄瑠璃・松風村雨束帯鑑(1707頃)龍神風流)
    5. 紋所の名。を図案化したもの。その数によって一つ巴、二つ巴、三つ巴の別があり、その形が左巻きか右巻きかによって左巴、右巴の別がある。左三つ巴、釣巴、抜け巴、板倉巴など種々ある。巴の紋。巴波の紋。
      1. 左三つ巴@抜け巴@釣巴@板倉巴
        左三つ巴@抜け巴@釣巴@板倉巴
      2. [初出の実例]「一院彌御心武く成らせ給ひて、先づ巴の大将を討たばやと仰せられければ」(出典:承久記(1240頃か)上)
    6. ともえがわら(巴瓦)」の略。
      1. [初出の実例]「草の波巴に変るはんぜうさ」(出典:雑俳・柳多留‐四三(1808))
    7. 三者が、入り組んだ状態になること。
      1. [初出の実例]「もし千代子と高木と僕と三人が巴(トモヱ)になって恋か愛か人情かの旋風(つむじかぜ)の中に狂ふならば」(出典:彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉須永の話)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ]ともえごぜん(巴御前)」のこと。
    2. [ 二 ] 謡曲。二番目物。各流。作者不詳。木曾の僧が近江国粟津の原に休んでいると、里の女が来て神前で涙を流す。僧が不審に思ってことばをかけると、女は木曾義仲がここで討死しこの神にまつられているいわれを語り姿を消す。僧はここで夜を明かして読経すると、巴御前の亡霊甲冑(かっちゅう)姿で現われ、義仲の最期のさまを語り、義仲とともに討死できなかった執心を晴らしてほしいと僧の回向を願って消える。「平家物語」「源平盛衰記」に材をとり、女修羅物としては唯一のもの。
    3. [ 三 ] 日本舞踊の一流派の屋号の一つ。初世家元は巴光之助。坂東の流れをくむ。四世で廃絶

巴の補助注記

左巴、右巴の巻く方向は、時代や家などによって異なる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「巴」の意味・わかりやすい解説

巴(模様)
ともえ

鞆絵(ともえ)とも書く。丸い頭にC字形の尾をつけた幾何学模様。元来渦巻から展開した模様と思われる。象形文字の蛇がしだいに変化してできた形という説もある。わが国ではこれを鞆(弓を射るとき用いる具)の形に見立て、鞆絵、巴とよんでいる。これを三つ組み合わせ丸紋風に構成したものが「三つ巴文」であるが、巴にはこのほか、一つ巴から九つまでの巴があり、さらに、これに剣や雲などを添えて、きわめて多種な模様、紋章を生み出している。これは中国、朝鮮はもとより、中央アジア、スキタイ、ギリシアなど広い地域に分布する模様である。わが国では弥生(やよい)時代にすでにこの形をとる青銅製の飾り金具があるが、模様として流行するのは平安時代からで、国宝・阿弥陀聖衆来迎図(あみだしょうじゅらいごうず)(和歌山、有志八幡講十八箇院(ゆうしはちまんこうじゅうはっかいん))の大太鼓(だだいこ)や、国宝・平家納経(厳島(いつくしま)神社)の見返しにこれが描かれている。鎌倉時代以後はおもに武家の間で、これを家紋とするものが多く現れるようになった。

村元雄]


巴(能)
ともえ

能の曲目。二番目・修羅(しゅら)物。五流現行曲。女武者をシテとする唯一の女修羅である。出典は『平家物語』の「木曽(きそ)の最後の事」。木曽から出た僧(ワキ。ワキツレを伴うことも)が琵琶(びわ)湖のほとり粟津(あわづ)の原に着く。神社に詣(もう)で涙を流す里の女(前シテ)に僧はことばをかけ、木曽義仲(よしなか)を祀(まつ)る場所であることを知る。女はわが身を亡者と告げ、入相(いりあい)の鐘の音とともに消える。読経する僧の前に、武装りりしい巴御前(ともえごぜん)(後(のち)シテ)が現れ、夫であり主君である義仲の、粟津での無念の最期、女ゆえに死出の供を許されなかった悔しさを語る。重傷の義仲に自害を勧め、薙刀(なぎなた)を振るって敵を蹴(け)散らす巴の武勇を再現し、遺言のままに形見を持ち、故郷へ落ちて行った後ろめたさを語り、執心への回向(えこう)を頼んで終わる。終曲部で武装を解き、姿をやつして戦場を去る場面も印象的で、愛情と武勇の二つが融和した佳作。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「巴」の意味・わかりやすい解説

巴 (ともえ)

能の曲名。二番目物修羅物。作者不明。シテは巴の霊。木曾の国の僧(ワキ)が近江の粟津(あわづ)に着くと,社の前で涙を流している若い女(前ジテ)がいる。言葉をかけると,これは木曾義仲を祭った社だから,あなたも同国の人なら経を手向けなさいといって消え去る。僧が弔っていると女武者(後ジテ)が現れ,義仲に仕えた巴御前の霊であることを明かし,義仲の戦いぶりや死の前後のようすを物語る(〈クセ〉)。義仲が敗戦の混乱で乗馬を深田に踏み込み,動けなくなっていたのを,自分がここの松原に伴ってきて自害を勧め,寄せ手を追い散らして時をかせいだ(〈中ノリ地等〉)。戻ってみると義仲はすでに最期を遂げていたので,自分は形見の品を持って,遺言どおりに木曾に帰ったと物語り,なお弔いを頼むのだった。

 現行の修羅物の中で唯一の女武者物である。義仲への思慕を描くなかで,女らしい薙刀(なぎなた)さばきを見せるというのがこの能の趣向である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「巴」の意味・わかりやすい解説

巴【ともえ】

紋章の一種。水の渦巻とも,雲文,雷文の変化したものともいう。ふくれた部分を首,細い部分を尾と呼び,二つ巴,三つ巴,組巴,対巴など各種ある。家紋としては,公家では西園寺家武家では宇都宮・小山・結城氏に始まると伝え,鎌倉以降武家で盛行。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【髪洗い】より

…ために毛が地についたままゆれて,髪を洗っているようにみえるところからこの名がついた。毛をぐるぐるとまわす型は〈巴(ともえ)〉と呼ばれる。なお,獅子の髪洗いは,たとえば長野県更埴市雨宮(あめのみや)の神事に,獅子が橋から水面すれすれに宙吊りになって獅子頭を振りまわす儀式(橋がかり)があることから,神事の獅子をめぐる民俗の反映が考えられている。…

【巴蜀】より

…中国,四川省をさしていう語。巴とは現在の重慶を中心として,嘉陵江流域を含む四川省東部をさし,蜀とは成都盆地を主地域とし,岷(みん)江流域に広がる西部をさす。元来はいわゆる西南夷系統に属する異民族の住地であったが,その中で巴と蜀はさらに民族・文化系統を異にした。…

※「巴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android