昇華(読み)ショウカ

デジタル大辞泉 「昇華」の意味・読み・例文・類語

しょう‐か〔‐クワ〕【昇華】

[名](スル)
固体が、液体を経ないで直接気体になること。樟脳しょうのうナフタリンドライアイスなどでみられる。→凝華
物事が一段上の状態に高められること。「作品への執念が芸術昇華される」
精神分析の用語。性的エネルギーが、性目的とは異なる学問・芸術・宗教などの活動に置換されること。
[補説] と逆の、気体から固体への相転移を指す場合もあるが、これは近年「凝華」に改められつつある。
[類語]蒸発気化凝縮融解凝固凝華固化液化

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「昇華」の意味・読み・例文・類語

しょう‐か‥クヮ【昇華】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 固体が液体にならないで、直接気体になること。また、気体から再び固体になることもいう。常温では、ドライアイス、樟脳などにみられる。
    1. [初出の実例]「硫黄は〈略〉。蓋器に煆ば五百六十度の熱を以て昇華す」(出典:舎密開宗(1837‐47)内)
  3. 低位の欲望(性的エネルギー)が高位の芸術的活動、宗教活動などに無意識的に置換されること。
    1. [初出の実例]「すべてかういふ浄化転移の心理は、〈略〉学者は之に名を附けて昇華作用(サブリメイション)とでも云ふだらうが」(出典:近代の恋愛観(1922)〈厨川白村〉四)
  4. 物事が一段と高尚な域に高められたり、より普遍的・抽象的なものになったりすること。
    1. [初出の実例]「すべて一流の喜劇の滑稽は必ずここまで昇華されている」(出典:ドン・キホーテ(1944)〈中村光夫〉二)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「昇華」の意味・わかりやすい解説

昇華 (しょうか)
sublimation

固体が液体を経ずに直接に気化して気体になる現象およびその逆に気体から直接に固体になる現象の両方をいう。温度-圧力面での状態図では,気相(気体)と固相(固体)の境界線は昇華曲線と呼ばれ,通常は三重点より低温・低圧側に位置する。昇華曲線上では,気相と固相が(液相を伴わずに)安定に共存するが,このときの蒸気圧昇華圧と呼ばれる。気相の圧力がこの昇華圧より低い間,固相は昇華をし続ける。昇華は一次相転移であり,昇華の間,温度は一定に保たれ,固化の場合は潜熱の放出,気化の場合は潜熱の吸収が起こる(この熱を昇華熱と呼ぶ)。したがって昇華現象を利用すると,物質をぬらすことなく冷却できる(これを無湿冷却という)。常温常圧下で昇華するものとしては,ショウノウヨウ素二酸化炭素(ドライアイス)などがある。ドライアイスは無湿冷却で,約-80℃の低温が得られ,各種の方面で利用されており,演劇の舞台などで霧や雲を作るのにも用いられる。この霧や雲のように見えるのは,昇華によって発生した二酸化炭素の蒸気が,空気中の水蒸気を冷却して凝結させた微小水滴である。
執筆者:


昇華 (しょうか)
sublimation

精神分析の用語。精神分析の説く本能衝動はひじょうに可塑的であって,本来の対象および手段とは別な対象および手段によってもある程度満足させることができる。たとえば失恋におわった初恋の人への慕情をその人とどこか似ている別の人に向ける場合のように,抑圧された衝動を別の対象に向けるのが〈置換え(転位)displacement〉という防衛機制であるが,昇華は〈置換え〉の特殊な例であって,性的衝動とくに前性器的倒錯的衝動を芸術活動や知的活動など社会的に価値のあるものに向けることをいう。性的なものを性的でないものに変えるわけだから,昇華は〈脱(非)性化desexualization〉とも呼ばれる。たとえば糞便をもてあそびたい小児的性衝動が昇華されると絵画や彫刻などの芸術活動となり,母親の性器を見たい衝動が昇華されると知的好奇心,学問研究となる。S.フロイトは性衝動の昇華をもっぱら問題にしたが,強圧的な父親への憎悪が昇華されて人民を弾圧する暴君を打倒する革命運動となるというような攻撃衝動の昇華も考えられる。
防衛機制
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「昇華」の意味・わかりやすい解説

昇華(精神分析)
しょうか
sublimation

精神分析の用語。性衝動を本来の目標から社会的・文化的により価値の高い目標に向け換えることをいう。衝動に対し抑圧などの防衛法を用いると、抑圧されたものが意識に逆戻りするのを防ぐための逆備給(反対充当ともいう)に心的エネルギーを消費しなければならないが、昇華では心的エネルギーを社会的に有用な活動に用いることができるようになる。フロイトの衝動論によれば、衝動は性的目標を達成しようとするものであるが、芸術的創作とか知的活動のようなものは、性的目標を達成しようとするものではない。このような非性的なものをどう説明するかは、フロイトにとって理論的に解決しなければならない難問であるが、これを昇華という概念で解決しようとしている。どうしてこのような昇華がおきてくるかについては、かならずしも明白ではなく、対象リビドー自我リビドーに変換されるときに昇華がおこるような説明が試みられたりしている。理想化、反動形成、抑圧などは昇華とどんな親近性をもっているか問題のあるところである。

[外林大作・川幡政道]

『フロイト著、懸田克躬・吉村博次訳「ナルシシズム入門」(『フロイト著作集5』所収・1969・人文書院)』『エルンスト・クリス著、馬場礼子訳『芸術の精神分析的研究』(1976・岩崎学術出版社)』


昇華(化学)
しょうか
sublimation

固相物質が液相を経由しないで直接に気化する現象。その逆の過程、あるいは固体が気化したのちにまた固体となる過程も含めて昇華ということもあるが、後者の場合、金属などを高真空中で加熱蒸発させて別の場所に凝縮させることを蒸着という。

 大気圧下の常温付近では、樟脳(しょうのう)、ナフタレン、p(パラ)-ジクロロベンゼン、二酸化炭素(ドライアイス)、ヨウ素などが昇華性を示す。圧力を下げて温度を上げると、分子性結晶では昇華性を示すものが多い。蒸留と同じように、物質精製の手段として昇華を利用することも多い。ナフタレンとp-ジクロロベンゼン(商品名パラゾール)は、昇華性を利用した殺虫剤(防虫剤)に使われるが、共存すると互いに溶け合って常温では液体になるので、併用してはならない。

[岩本振武]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「昇華」の意味・わかりやすい解説

昇華(化学)【しょうか】

固体が液体の状態を経ずに直接気体になる現象。逆の過程をも含めていうこともある。固体はその表面から気化し,その蒸気圧がそのときの温度における飽和蒸気圧(昇華圧)に等しくなるまで昇華は進行し,その点で平衡に達する。常温下では,樟脳(しょうのう),ヨウ素,ドライアイス,ナフタリンなどでみられる。昇華に際して吸収または放出される熱量を昇華熱という。
→関連項目気化凝固凝固点蒸発ドライアイス反動形成

昇華(心理)【しょうか】

精神分析の用語。英語sublimation,ドイツ語Sublimierungなどの訳。フロイトによれば,性衝動を芸術創造や知的研究など,一般に社会的に価値のある行動に変化させる心の動きをいう。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「昇華」の意味・わかりやすい解説

昇華
しょうか
sublimation

固体が表面から気化して直接に気体となる現象。その逆過程 (固化) を意味する場合もある。常温・常圧で,ドライアイスやショウノウは融解して液体になることなく固体から直接に気体となる。昇華するのに必要な潜熱を昇華熱という。昇華は三重点の温度以下ではすべての固体で起るが,その温度における飽和蒸気圧 (昇華圧) が外気圧より大きいときにのみ昇華速度が大きい。昇華はヨウ素や硫黄の精製に利用される。

昇華
しょうか
sublimation

精神分析学用語。性的衝動ないしそのエネルギーを,性的でない,社会的に受入れられるような,なんらかの他の活動の形で表現するようにさせる無意識的過程。芸術,宗教などの文化現象もこの働きによるとする。さらに一般的には,低次の要求の満足を,より高次な要求の満足により置き換えることをさす。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

岩石学辞典 「昇華」の解説

昇華

固相から気相へ,あるいは気相から固相へ,液相を経ずに起こる物質の状態変化で,相転移の一種[長倉ほか : 1998].地質学では気体や蒸気の凝結によって固体鉱床が形成されることに用いられる.

出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報

化学辞典 第2版 「昇華」の解説

昇華
ショウカ
sublimation

固体が液体を経由せず,直接その蒸気にかわること,およびその逆.比較的蒸気圧の高い固体について見られる現象で,固体物質の精製にも利用される.ヨウ素の昇華は代表的な例である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

普及版 字通 「昇華」の読み・字形・画数・意味

【昇華】しようか

升華。

字通「昇」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

栄養・生化学辞典 「昇華」の解説

昇華

 固体の状態から直接気体の状態へ変化すること.例えば固体の二酸化炭素(ドライアイス)が気体になる現象.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の昇華の言及

【昇華】より

…精神分析の用語。精神分析の説く本能衝動はひじょうに可塑的であって,本来の対象および手段とは別な対象および手段によってもある程度満足させることができる。たとえば失恋におわった初恋の人への慕情をその人とどこか似ている別の人に向ける場合のように,抑圧された衝動を別の対象に向けるのが〈置換え(転位)displacement〉という防衛機制であるが,昇華は〈置換え〉の特殊な例であって,性的衝動とくに前性器的倒錯的衝動を芸術活動や知的活動など社会的に価値のあるものに向けることをいう。…

【気化】より

…物質が液体または固体から気体に変化する現象。液体から気体になることを蒸発,固体から気体になることを昇華と呼んで区別することもある。蒸発や昇華は液体や固体の表面からの気化であるが,液体の温度が上がり,圧力で決まる一定の温度(沸点)に達すると,液体の内部からの気化が起こる。…

※「昇華」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android