精選版 日本国語大辞典「東」の解説
ひがし【東】
[1] 〘名〙 (「ひむかし・ひんがし(東)」の変化した語)
※海道記(1223頃)序「勢多の橋を東に渡れば」
※俳諧・続明烏(1776)春「菜の花や月は東に日は西に〈蕪村〉 山もと遠く鷺かすみ行〈樗良〉」
② 東方から吹いてくる風。東風。こち。
※更級日記(1059頃)「さし渡したるひたえのひさごの、〈略〉西ふけば東になびき、東ふけば西になびくを見て」
③ インドや中国からみて東方にある国。すなわち、日本。
※読本・椿説弓張月(1807‐11)残「身を投ふして数回、東(ヒガシ)のかたを拝し給へば」
④ 京都、大坂に対して、鎌倉や、江戸をさしていう。
※雑俳・削かけ(1713)「さすがじゃはまつはひがしへながれても」
⑤ 相撲などの番付で、右側の称。「西」より上位とされる。
※虎明本狂言・飛越(室町末‐近世初)「後には大ずまふになった所で、ひがしのかたから、ちひさひおとこが出て」
⑥ 歌舞伎劇場で、江戸では舞台に向かって右側、京坂では左側の称。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立「又東に而『勘解由の次官師方参向』と呼ぶ」
⑦ 義太夫節の豊竹派の称。竹本派を「西」というのに対していう。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「豊竹越前掾の方、若太夫・梺太夫・駒太夫のたぐひを東といふ」
[2]
[一] (江戸城の北の吉原、南の品川、西の新宿に対して) 江戸、深川の遊里をいう。
[二] 京都賀茂川の東、四条辺をいう。男色、女色の遊所が多い。
[七] 広島市の行政区の一つ。市の中央部やや東寄りに位置する。昭和五五年(一九八〇)成立。
ひんがし【東】
〘名〙 (古くは「ひむかし」で「日向し」の意という) =ひがし(東)(一)
※万葉(8C後)一・四八「東(ひむかし)の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ」
※土左(935頃)承平五年一月二六日「かぢとりしてぬさたいまつらするに、ぬさのひむかしへちれば」
[語誌](1)方位を表わす「東」について、上代に仮名書き例はない。「万葉集」の「東」はアヅマと訓むとともに、四音としてヒムカシ、ヒムガシとも訓む。仮名書きは、「二十巻本和名抄‐五」の官名に「東市司〈比牟加之乃以知乃官〉」、同じく畿内郡に「東生〈比牟我志奈里〉」、また挙例の「土左日記」が古い。中古の仮名文学では「ひうがし」「ひんがし」「ひむかし」などが見られるが、「ひがし」の確例が見られるのは「名語記」(一二七五)である。
(2)万葉仮名による表記例は先述の「二十巻本和名抄」よりさかのぼれないため、上代特殊仮名遣におけるヒの甲乙は不明。第二音節はムが古形。第三音節の清濁も不明であるが、「観智院本名義抄」では濁音符が付されたものと付されていないものの両方がある。
(3)「古事記伝」の語源説によると、古形はヒ甲類で第三音節は清音。シは、「にし」「あらし」などのシかと考えられる。このシには風の意があり、そうすると、元来は東風を表わす語であったということになる。「更級日記」の「西ふけば東になびき、東ふけば西になびくを見て」の「東」がその例かとされるが、漢字表記のため語形は不明。
(4)ヒムカシは、撥音化したヒンガシを経て、中世頃にはヒガシになったと推定される。「東大寺要録‐二・供養章第三」には「比美加之(ヒミカシ)」の例がある。撥音の異表記としては時期が早過ぎるため、転訛例とするのが妥当と考えられる。
(2)万葉仮名による表記例は先述の「二十巻本和名抄」よりさかのぼれないため、上代特殊仮名遣におけるヒの甲乙は不明。第二音節はムが古形。第三音節の清濁も不明であるが、「観智院本名義抄」では濁音符が付されたものと付されていないものの両方がある。
(3)「古事記伝」の語源説によると、古形はヒ甲類で第三音節は清音。シは、「にし」「あらし」などのシかと考えられる。このシには風の意があり、そうすると、元来は東風を表わす語であったということになる。「更級日記」の「西ふけば東になびき、東ふけば西になびくを見て」の「東」がその例かとされるが、漢字表記のため語形は不明。
(4)ヒムカシは、撥音化したヒンガシを経て、中世頃にはヒガシになったと推定される。「東大寺要録‐二・供養章第三」には「比美加之(ヒミカシ)」の例がある。撥音の異表記としては時期が早過ぎるため、転訛例とするのが妥当と考えられる。
とう【東】
〘名〙
② 古く声調を示す語で、下降調に当たるものをいう。声点の位置は平声軽。
とう【東】
姓氏の一つ。
ひむかし【東】
〘名〙 ⇒ひんがし(東)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報