体内に脊椎を終生もたない動物の総称。原索動物が一時的にも脊索を体の背部にもつことで脊椎動物といっしょにされて脊索(せきさく)動物Chordataという1門にされることもあるが,一般的に原索動物は無脊椎動物に含められている。
現在,無脊椎動物は約95万種が知られていて,そのうち75万種が昆虫を含む節足動物である。ちなみに脊椎動物は約5万種にすぎない。
生物のもっとも古い化石は約32億年前の先カンブリア時代の地層から発見されており,約6億年前の古生代の初めには筆石動物を除いた他のほとんどすべての無脊椎動物群が出現していた。しかし,それらの動物は現在まで存続したわけではなく,三畳紀ころに地球の南半球は大氷河期に入って寒冷化し,北半球は乾燥化して多くの種類が絶えたが,ジュラ紀からは再び繁栄しはじめた。カンブリア紀にもっとも繁栄した三葉虫も三畳紀には絶滅した。しかし,カブトガニやオキナエビスガイなどをはじめ現在〈生きている化石〉と呼ばれている種類は,このような時代にも絶滅をまぬがれて生存してきたものである。多種多様の無脊椎動物を外部形態,内部形態,発生などの諸特徴から分類して,原生動物門(原生動物界とすることもある),海綿動物門,腔腸動物門(刺胞動物門)などのように20内外の門に大別している。しかし,いくつの動物門に分けるのが妥当かは,まだ見解が統一されているわけではない。
無脊椎動物には体がただ1個の細胞からできている原生動物と多くの細胞から構成されている多細胞動物とがあり,原生動物から多細胞動物が生じたことは確かなことである。しかし,どのような原生動物から,どのような多細胞動物が生じたかについてはいくつかの説があって,まだ意見が一致していない。また原生動物の中で葉緑素などの色素体をもち,植物的な栄養摂取を行っている植物性鞭毛虫は,植物と動物との両方の特徴を兼ね備えている。
多細胞動物で原生動物,中生動物,海綿動物(カイメン),腔腸動物,有櫛(ゆうしつ)動物の各動物門を除いたすべての動物門は発生における特徴と幼生の形態から前口動物Protostomiaと後口動物Deuterostomiaとに2大別される。前口動物とは卵の発生過程で原口が幼生の口になり,後に肛門ができる動物群であり,後口動物は原口が肛門になり,後に口ができる動物群である。
前口動物でおもな動物群には,ウズムシ,ジョウチュウ(条虫)などを含む扁形動物,ワムシ,カイチュウ(回虫),ハリガネムシなどの袋形(たいけい)動物,貝類,イカ,タコを含む軟体動物,ゴカイ,ミミズ,ヒルなどを含む環形動物,カニ,エビ,昆虫類を含む節足動物などがみられる。一方,後口動物にはウニ,ヒトデ,ナマコなどを含む棘皮(きよくひ)動物,ギボシムシの半索動物,ホヤ,ナメクジウオを含む原索動物などがみられる。各動物の系統的な位置関係については〈動物〉の項の系統図を参照されたい。
脊椎動物と類縁性のある無脊椎動物は,発生中における中胚葉の形成や生化学的な面から棘皮動物,半索動物,原索動物などが考えられる。そして,これらのうち浅海にすんでいる原索動物のナメクジウオは外形が魚に似ていて,ひれがあり,脊索と平行して脊髄が縦に走っており,頭部の発達が悪いなど,魚類のなかの原始的な類である円口類のヤツメウナギやメクラウナギと特徴が似ているところからもっとも有力視されている。
無脊椎動物には人間社会に有用,または有害な種類が多い。有用種は数多いが,海綿動物のモクヨクカイメンは浴用や掃除用に,腔腸動物ではアカサンゴなどが装飾品に用いられ,ビゼンクラゲなどは料理に用いられる。軟体動物のイカ,タコ,各種の貝類などは重要な水産資源となっている。またアコヤガイやクロチョウガイは真珠の養殖貝として重要である。節足動物のカニ,エビ類,棘皮動物のウニ類もまた水産上重要な産物である。一方,有害なものも多く,原生動物の胞子虫類のマラリア病原虫は人体にマラリアを起こさせ,これは昆虫のハマダラカが媒介する。腔腸動物のクラゲ類で刺胞毒の強いカツオノエボシ,アマクサクラゲなどのクラゲ類が水泳中に害を与えることが多い。扁形動物の吸虫類,ジョウチュウ類は人間や家畜に寄生して,種々の病気を起こさせ,線形動物のセンチュウ(線虫)類でカイチュウ,コウチュウ(鉤虫),フィラリアなどは人体や動物に寄生し,クキセンチュウ,ネコブセンチュウなど多くの種類は植物の組織内に入って大きな害を与える。昆虫類では,さまざまな農業害虫があって被害を与える。また他物に付着して生活する海産動物のなかで,フジツボ類,コケムシ類,カンザシゴカイ類,ムラサキイガイなどは船底に付着し,船足をおそくさせたり,冷却水路を狭めたりして,大きな被害額に及ぶことがある。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物界は便宜的に脊椎動物と無脊椎動物の二つに分けられ、脊柱や内骨格をもっていない動物群はすべて無脊椎動物に含まれる。脊椎動物全体の種の数は約4万1600で、無脊椎動物のそれは約101万6000であるから、全動物種の96%が無脊椎動物に入る。このため、無脊椎動物は、単細胞の原生動物から多細胞の海綿、軟体、節足、原索動物などの多くの門に分けられ、形態や発生なども著しい多様性がみられ、共通する特徴によって一つの門にまとめることはできない。ホヤやナメクジウオなどが属している原索動物は、終生または発生の一定時期に、体の背側中央を前後に走る脊索(弾力性に富む棒状の支持器官)があるが、ほかの無脊椎動物にはみられない。脊椎動物が発生の特定時期に脊索を生じることから、原索動物は無脊椎動物から脊椎動物への進化の経路を考えるうえで重要視されている。動物界全体の系統を考えるとき、脊索をもつ脊索動物(原索と脊椎動物)とこれをもたない無脊索動物に区別するほうが有意義であると思われるが、いまだに古くから使われている無脊椎動物という名称を用いることも多い。
[片島 亮]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…植物では呼吸根のような特殊化したものがあるが,一般には通気組織と気孔が空気の通路となっており,とくに呼吸器官と呼べるものはない。
[無脊椎動物の呼吸器官]
無脊椎動物で分化した呼吸器官にはえら,気管,肺があるが,特別の呼吸器官をもたないものも多く(腔腸動物,扁形動物,袋形動物,触手動物,棘皮(きよくひ)動物など),これらでは体外,体内の表皮を通して呼吸が行われ,とくに触手などの薄くなった表皮に集中する。軟体動物のえらは,基本的には体側壁が外套腔(がいとうこう)内に突出したくしえら(櫛鰓)で,入鰓(にゆうさい)血管と出鰓血管が通る扁平な軸部に薄いえら板(鰓板(さいばん))がくしの歯状に列生して呼吸上皮を形成している。…
…これをデールの原理Dale’s principleというが,近年,多数の伝達物質ないしその候補が報告されており,この法則の修正を求める説も現れはじめている。【水野 昇】
【神経系の系統発生】
[無脊椎動物の神経系]
進化の初期の段階で出そろった無脊椎動物の神経細胞には,突起の少ない細胞と分泌性細胞が多い。無脊椎動物の神経系はいずれも外胚葉に由来するが,散在神経系と集中神経系の二つの様式がある。…
※「無脊椎動物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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