精選版 日本国語大辞典 「狐」の意味・読み・例文・類語
きつね【狐】
〘名〙
① イヌ科の哺乳類。体長七〇センチメートルくらい。体は細く、尾は太くて長く房状。口が突き出て、耳は三角形で大きく先がとがる。毛色はふつう橙褐色だが、赤、黒、銀、十字の四色相がある。夜行性で、ネズミやウサギなどの小動物を捕食し、巣穴は自分でも掘るがアナグマの巣などを利用することもある。古くから狐火や狐つきなど説話や迷信が多く、稲荷神の使いなど霊獣ともされ、また、ずる賢い性質で、人をだますなどともいわれる。皮は毛が厚く美しいので、えり巻きや敷物などにする。ヨーロッパ、アジア、北アメリカに分布し、日本では各地の低山や草原に単独または一対ですむ。あかぎつね。きつ。とうめ。きつに。おこんさん。《季・冬》
※新訳華厳経音義私記(794)「上扈反、倭言岐都禰(キツネ)」
※源氏(1001‐14頃)蓬生「もとより荒れたりし宮のうち、いとどきつねのすみかになりて」
② 狐が悪賢く、人をだましたり、人にとりついてまどわすといわれるところから、それにたとえていう。
(イ) うそつき。また、悪賢い人。ずるい人。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「げにいづれかきつねなるらんな、ただはかられ給へかし」
※評判記・そぞろ物語(1641)「江戸よし原のわか狐に、まよはぬ人あるへからず」
(ニ) (したたかでずるく、遊客にこびへつらうというところから) 「たいこもち(太鼓持)①」の異称。
※浮世草子・嵐無常物語(1688)上「狐(キツネ)の甚六が夜道をつれまして」
③ 狐に似た顔つき。また、その人。目がつりあがり、口のとがった顔をいう。
④ 「きつねつき(狐憑)」の略。
⑤ 狂言に用いる面の一つ。狐の顔にこしらえたもので、「釣狐」に使用し、その面の下に白蔵主(はくぞうす)の面をつけられるようにしてある。〔わらんべ草(1660)〕

⑥ 「きつねいろ(狐色)」の略。
⑧ 「きつねけん(狐拳)」の略。
※洒落本・青楼五雁金(1788)一「『サア一つけんいこう』〈略〉『きつねでいこう』」
⑩ 「きつねうどん(狐饂飩)」「きつねそば(狐蕎麦)」の略。〔商業符牒袖宝(1884)〕
⑪ チガヤの穂が伸びて絮(わた)となったもの。つばな。
※俳諧・懐子(1660)一〇「狐の多き芝原の中〈松安〉 たくる迄ぬかぬつばなのほいなしや〈春可〉」
⑫ (狐を神使とするところから) 稲荷明神の戯称。
※雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一一「狐から上り天狗で日をくらし」
きつ【狐】
〘名〙
① 「きつね(狐)」の異名。
※水無瀬法楽百首(1495)「神垣にともす火みえていなり山きつなく杉の陰ぞ暮行く〈藤原実隆〉」
② 狐つき。
※浄瑠璃・大内裏大友真鳥(1725)四「どふでもきつにきはまった。あらだててばかされな」
[補注]「万葉‐三八二四」の「鐺子(さしなべ)に湯沸かせ子ども櫟津(いちひつ)の檜橋より来む狐(きつね)に浴むさむ」の「狐」を「きつ」と訓(よ)む説もあるが、疑わしい。
きつに【狐】
〘名〙 「きつね(狐)」の変化した語。
※良寛歌(1835頃)「猿(まし)と兎(をさぎ)と きつにとが 友を結びて」
くつね【狐】
〘名〙 「きつね(狐)」の変化した語。〔観智院本名義抄(1241)〕
※俳諧・鶉衣(1727‐79)前「くつねの皮の、ちぢの黄金にあたらざらめや」
けつね【狐】
〘名〙 狐(きつね)を上方でいう語。〔かた言(1650)〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報