現実主義[国際関係](読み)げんじつしゅぎ[こくさいかんけい](英語表記)realism

翻訳|realism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「現実主義[国際関係]」の意味・わかりやすい解説

現実主義[国際関係]
げんじつしゅぎ[こくさいかんけい]
realism

国際関係論において,世界政治における国家国益(→ナショナル・インタレスト),軍事力の役割を重視する理論。リアリズムともいう。現実主義の考え方によれば,国家とは,無政府状態の国際体系のなかに存在し,究極的にはおのおのの能力や権力を頼りに国益を追求するものである。権力闘争は人間の本性の一部であるため,国も,敵対的な存在に対して同盟連合を形成して集団の力の最大化をはかろうとする。無政府状態の国際体系の特徴である国益同士の衝突が起こった場合に対立が生じるが,政策的処方によって回避することもできる。現実主義論者は,集権的な政治権力を欠いた国際体系における国家間の相互作用に着目して国家の行動を説明するとともに,国際関係における本質的な不安定化要素を改善するための政策的処方(特に国家間の勢力均衡)を示すことができると主張する。国際体系において無政府状態が生じるのは,国際政治論理は,主権によって統制される国内政治の論理とは往々にして異なるためである。
現実主義は 20世紀半ばに現れ,その端緒となったのはイギリスの歴史家,国際政治学者のエドワード・ハレット・カーである。カーは自由主義的国際主義者が主張する国際連盟などの国際機関の創設による進歩は可能だとする理想主義的な考え方を批判し,国家の行動の決定において権力,勢力および自己利益の追求が永続的役割を担っていることを重視した(→権力政治)。この考えは第2次世界大戦後,アメリカ合衆国政治学分野において確立され,ドイツ生まれの国際政治学者ハンス・モーゲンソーをはじめとする研究者の手により大きく発展した。彼らは自由主義的国際主義者に批判的な立場をとり,政治制度,国際体系の構造には,進歩や改革へのさまざまな障害が本質的に備わっていると主張した。
アメリカの政治学者ケネス・ウォルツに代表される新現実主義ネオリアリズム)は,伝統的現実主義の主要な知見の一部を近代社会科学の用語と手法で解釈しようとする試みであった。ウォルツは,国際関係,特に大国の行動にみられる重要な特徴の大部分は,国際体系の無政府的構造という観点からだけで説明できると主張した。さらに,最も安定した体制は二極体制,すなわち二つの大国間の均衡であるとした。ウォルツの流れをくむ防御的現実主義者は,国家は安全保障を追求する傾向があるため,安定した国際均衡バランスをとることによって可能であると主張した。これに対し,攻撃的現実主義者は,国家は安全保障よりも権力や勢力の最大化を目指すため,均衡の実現は困難であるとの立場をとった。新現実主義は,歴史学社会学哲学の知見を軽視している,国際関係における体制転換について説明できないなどとして批判もされてきたが,今日も国際関係論における有力な研究領域として存続している。(→構成主義

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