(読み)ホコ

デジタル大辞泉 「矛」の意味・読み・例文・類語

ほこ【矛/×鉾/×戈/×鋒/×戟】

両刃の剣に柄をつけた、刺突のための武器。青銅器時代鉄器時代の代表的な武器で、日本では弥生時代銅矛・鉄矛がある。のちには実用性を失い、呪力じゅりょくをもつものとして宗教儀礼の用具とされた。広く、攻撃用の武器のたとえとしても用いる。「―を向ける」
弓のから弓幹ゆがら
1を立てた山車だし。特に京都祇園会ぎおんえ山鉾やまぼこ。ほこだし。 夏》「―処々にゆふ風そよぐ囃子はやしかな/太祇
[類語]なぎなた

む【矛】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉) ボウ(漢) [訓]ほこ
〈ム〉武器の一種。ほこ。「矛盾
〈ボウ〉ほこ。「矛戟ぼうげき
〈ほこ(ぼこ)〉「矛先玉矛たまぼこ
[名のり]たけ

ぼう【矛】[漢字項目]

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精選版 日本国語大辞典 「矛」の意味・読み・例文・類語

ほこ【矛・戈・鉾・鋒・戟】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 敵を突き刺すのに用いる長柄の武器。戦闘用の兵仗と装飾用の儀仗とがある。兵仗は平安時代の末から長刀(なぎなた)、鎌倉時代の末から鑓(やり)に代わり、儀仗は検非違使の矛をはじめ神事芸能の採物(とりもの)祭祀の儀場の威容を示すものとなった。
    1. [初出の実例]「亦、大臣の遣はせる群卿は従来(もとより)厳矛〈厳矛、此れをば伊箇之保虚(いかしホコ)と云ふ〉の中取りもてる事の如くにして奏請(ものまう)す人等(とも)なり」(出典:日本書紀(720)舒明即位前)
    2. 「一人は鉾(ホコ)を以て付きつらぬきて」(出典:米沢本沙石集(1283)二)
    3. [その他の文献]〔書経‐武成〕
  3. 枝についたままの果実。あるいは、果実などを串刺(くしざし)にした形をいうか。
    1. [初出の実例]「則ち齎(もてあか)る物は非時の香菓八竿(やホコ)八縵(やかけ)なり」(出典:日本書紀(720)垂仁後紀(熱田本訓))
  4. をかたどり、刃をつけず、装飾を施すなどしたもの。神事や祭礼、特に御霊会(ごりょうえ)に用いる。また、それを立てた山車(だし)。特に、京都の祇園会に巡行する山鉾(やまぼこ)
    1. [初出の実例]「簓(ささら)八撥なんどと申すことは、あの鉾のもと囃す京童の芸でこそ候へ」(出典:謡曲・丹後物狂(1430頃))
  5. 弓幹(ゆがら)末弭(うらはず)に近い先端部をいう。
    1. [初出の実例]「波の荒き所へ弓のほこを指し入て」(出典:源平盛衰記(14C前)四一)
  6. たかほこ(鷹槊)」の略。
    1. [初出の実例]「日来所繋置鷹、〈略〉倶解条於架(ほこ)。同収旋於」(出典:尺素往来(1439‐64))
  7. 陰茎をいう。

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普及版 字通 「矛」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 5画

[字音] ム・ボウ
[字訓] ほこ

[説文解字]

[字形] 象形
長い柄のあるほこの形。〔説文〕十四上に「矛(しうぼう)なり。兵車につ。長さ二。象形」とあり、長さ二丈四尺のものは夷矛、枝刀のあるものを戟(げき)という。この矛を台座につけ、兵車上にたてて巡撫することを、正(いつせい)・省という。金文の〔宗周鐘〕に「王(はじ)めて・武のめたまへる疆土を省す」とみえる。

[訓義]
1. ほこ、長い柄のほこ、枝刀のあるほこ。
2. おかす。
3. 字はまた鉾に作る。

[古辞書の訓]
名義抄〕矛 テボコ・ホコ

[部首]
〔説文〕に矜など五字、〔玉〕になお約二十字を加えるが、ほとんどその用例をみない字である。

[声系]
〔説文〕に矛(ぼう)声として(茅)・柔・楙・袤・など七字。また楙(ぼう)声・(ぼう)声の諸字を収める。柔は声系の異なる字である。

[熟語]
矛戈矛戟矛弧矛叉・矛矛矢・矛端・矛頭矛櫓矛楯・矛盾
[下接語]
夷矛・戈矛殳矛矛・楯矛・杖矛・銛矛・操矛・霜矛・蛇矛・長矛・飛矛・舞矛・利矛

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「矛」の意味・わかりやすい解説


ほこ

鉾、戈、戟、槍、桙とも書く。古代から平安末期に至るまで用いられた、双刃(もろは)の突き刺しのための長柄(ながえ)の武具。古墳などに広幅で刃もない青銅製の非実用のものが副葬され、かつ記紀に天沼矛(あまのぬぼこ)の島生みの伝説があるように神秘的・宗教的な性格もあった。同じく記紀にみえる比々羅木(ひひらぎ)の八尋(やひろ)矛、赤矛、黒矛などは木製で、呪術(じゅじゅつ)的な象徴的武具であったことを物語る。このため長く神前や宮門を飾る威儀の具として、盾と組み合わされて用いられた。奈良春日(かすが)大社に残る神宝の鉾(平安時代)や、『伴大納言絵詞(ばんだいなごんえことば)』や『文永加茂(ぶんえいかも)祭絵巻』にみる検非違使(けびいし)の放免の携帯する鉾、賀茂競馬に現在も用いられる儀仗(ぎじょう)の鉾など、その遺風である。

 奈良時代の実用具として正倉院(しょうそういん)に23口収蔵され、片鎌や後世の槍(やり)状の穂の形式が認められるが、原則として、穂に柄を付けるのに槍・長刀(なぎなた)のように中茎(なかご)をもってせず、穂袋に柄を差し込むのが特徴である。片手に盾を持ち、右手のみで鉾を操作するため、柄はあまり長くなく、かつ「鋭(と)き鉾の中執(と)り持ちて」(中臣(なかとみ)の寿詞(よごと))にあるように、柄の中ほどをとって突くことになる。このため石突(いしづき)を鋭利にしたり、柄に糸を巻いたもの(春日大社神宝)もある。このように片手操作を原則としたためか、戦闘が漸次、熾烈(しれつ)になる平安末期ごろから、両手で全力でなぎ切り、突くことのできる長刀や中世の槍に、その座を譲ることになる。

[齋藤愼一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「矛」の意味・わかりやすい解説


ほこ
halberd

鉾,桙,槍,戈,鋒,戟とも書く。地域,時代,用途などで形状は異なるが,一般に,長柄の先に諸刃 (もろは) の剣をつけた刺突用の武器。東洋では青銅器時代に中国などで考案された。大別すると,長さによって長鋒 (ちょうぼう) ,短鋒の別,刃の幅によって広鋒,狭鋒に分けられる。また厳密には「戈」は枝のあるもの,「戟」は2つの枝のあるもの,「鉾」は袋穂のあるものなどの種類があり,その他飾りのついたもの,祭礼,儀式用のものなどがある。日本へは弥生時代に銅製品が大陸から伝わり,古墳時代には鉄製品が現れた。武器としては鎌倉時代前期頃まで使用され,のちなぎなた (薙刀) に転身した。西洋の矛は槍と斧ととび口を合体した多目的の武器で,中世~近世に各種の矛が使われた。

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百科事典マイペディア 「矛」の意味・わかりやすい解説

矛【ほこ】

鉾とも書く。金属製の両刃の利器に長い柄を付けた刺突用の武器。日本では弥生(やよい)時代から鎌倉初期まで用いられた。→(か)/銅矛
→関連項目

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改訂新版 世界大百科事典 「矛」の意味・わかりやすい解説

矛 (ほこ)

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【銅矛】より

…矛は長い柄を装着する刺突用の武器のうち,柄を挿入する袋状の装置(銎(きよう))があるものを指す。銅矛すなわち青銅製の矛はまず中国で用いられるようになり,後に朝鮮・日本に伝わった。…

【武器】より

…すなわち,鎖帷子(くさりかたびら),鎖靴下,冑(兜),剣,槍,盾,棍棒,短剣,肩当,鉄靴,軍衣,下着,ズボン,靴下,帯,外套,毛皮の17品目だが,このうち槍と剣がおよそ8kg,兜と鎖帷子と盾だけで25kgを超えるから,明らかに防御の武器に重点がかかっている。
[歩兵の役割――弩と矛]
 騎士戦華やかな時代にも,歩兵が廃絶したわけではない。それどころか,補助兵力として不可欠だったほかに,攻城戦や籠城戦では決定的な役割を演じた。…

【槍∥鎗∥鑓】より

…長い柄をもった尖頭器。柄をさし込む部分が袋状になっているものは矛(ほこ)とも呼ばれる。
【先史・古代の槍】
 木製,竹製の槍は,古くから人類が武器として用いたにちがいない。…

※「矛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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