立回り(読み)タチマワリ

デジタル大辞泉 「立回り」の意味・読み・例文・類語

たち‐まわり〔‐まはり〕【立(ち)回り】

あちこち歩き回ること。また、ある所に立ち寄ること。「立ち回り先」
振る舞い。特に、自分が有利になるような行動。「如才ない立ち回り
演劇映画などで、切り合いや殴り合いなどの場面。殺陣たて
つかみ合ったり、殴り合ったりするけんか乱闘。「町なかではでな立ち回りを演じる」
能で、大鼓小鼓や太鼓を加えた囃子はやしに笛のあしらいで、シテ舞台を静かに一巡する所作
[類語](3ちゃんちゃんばらばらちゃんばら切り合い切り合う剣劇殺陣たて一上一下いちじょういちげ/(4喧嘩いさか争い紛争闘争大立ち回り抗争暗闘争闘共闘ゲバルト

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改訂新版 世界大百科事典 「立回り」の意味・わかりやすい解説

立回り (たちまわり)

演技用語。タテともいい,〈殺陣〉を当て字する用例は歴史が新しい。劇中,捕物や殺し場などで演ずる太刀打や争闘技をいう。古来一座には専門の立師(たてし)がいて立回りの型を考案し俳優に教えるが,その型をタテという。後世にいたって立回りを見せることを主眼とする剣劇が流行した。歌舞伎の立回りはごく様式的なものから写実的なものへと,時代の要請に応じて変遷したが,それぞれに,時代,お家,世話の種別となって行われ,ほかに舞踊劇中で演ずる〈所作立(しよさだて)〉また〈だんまり〉などもある。手法は細分すれば200種類にも及び,それらを組み合わせて成立する。起源は明確でないが,すでに1655年(明暦1)8月江戸山村座で《曾我十番切》に甲冑をつけた14,15人が立回りを演じ評判となり,〈見物群集して容易には這入り難し〉(《寛文日記》)という大入りをとっている。のち安永(1772-81)ごろには,現在に伝わる基本型が完成されたと見られる。下座音楽も主として〈六つの花〉〈ドンタッポ〉〈忠弥〉などに限られ,かどかどではツケ(役者の演技を印象づけるため,舞台上手で板を二本の柝(き)ではげしく打つ演出)が打たれ,投げられたり切られた者はとんぼ宙返り)を返る技術を必要とする。

 歌舞伎で刀を用いた立回りの型には以下の種類がある。〈山形〉=刀をふりかぶって山形なりに切りおろす。〈柳〉=甲が上から切りおろすのを乙が下にいて受ける。〈文七〉=相手の両脇を交互に突く。〈胸どめ〉=甲が切ってくるのを乙が刀の峰で胸のところで受ける。〈霞〉=甲乙が後ろ前に位置し,乙は下にいて,甲乙が右左と交差して刀を一文字に流す。〈唐臼(からうす)〉=双方が刀を上段に構え右足から入れ違いながら切りおろす,これを2度くり返す。〈切り違え〉=双方背中合せとなり,右左と互い違いに切り払う。〈腕止め〉=乙が切ってくる手を甲が左手で押さえ,右で刀を振りかぶる。乙は下からそのひじを支えて留める。〈膝づめ〉=甲乙が上で1度刀を合わせ,互いに右足で蹴り上げながら腰を落として片膝立ちになり,一刀ごとに足を交互にかえつつ切り結ぶ。〈鬼飛び〉=甲乙が間隔をおいて開いた形から,切りこんで互いに頭上を払いながら飛び違う。〈天地〉=双方の刀を上と下とで打ち合わせる。〈陰陽の見得(または上下のきまり)〉=甲が上に刀をふりかぶって立ち,乙は片足を蹴り出して左手を前にきまる。

 ほかに見得の種類として,シテには〈かつぎ〉〈脇構え〉〈八双〉〈片手上段〉があり,ウケには〈ウケの構え〉〈裏向き八双崩し〉などがある。また槍,薙刀,棒,梯子,戸板,突棒,さす又,袖がらみ,十手,捕縄などの道具を用いての技があり,大勢の動きとしての〈棹〉〈千鳥〉〈大回り〉〈蛇籠(じやかご)〉〈将棋倒し〉などの名称がある。身体技としては〈三徳〉などの〈とんぼ〉のほかに,〈ヒョックリ〉〈にせ宙〉〈後返り〉〈俵転がし〉〈平馬(へいま)返り〉〈死人返り〉〈四ツ目〉〈味噌すり〉〈むかで〉〈鉄砲立ち〉〈ギバ〉〈野猿返り〉等々がある。
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百科事典マイペディア 「立回り」の意味・わかりやすい解説

立回り【たちまわり】

たて

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立回り」の意味・わかりやすい解説

立回り
たちまわり

殺陣

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世界大百科事典(旧版)内の立回りの言及

【働事】より

囃子と所作からなる囃子事小段のうち,演者(立役(たちやく),立方(たちかた))が舞台上で表現する所作に,ある程度表意的な要素が含まれるものを働事という。能の働事には,笛(能管),小鼓,大鼓で奏する〈カケリ(翔)〉〈イロエ〉〈切(きり)組ミ〉と,太鼓の入る〈舞働(まいばたらき)〉〈打合働(うちあいばたらき)〉〈イノリ〉,両様の〈立回リ〉の7種がある。〈カケリ〉は武士の霊や狂女などが興奮状態を示すもので,《俊成忠度(しゆんぜいただのり)》《浮舟》《隅田川》《蟬丸(せみまる)》などに用いられる。…

【歌舞伎】より

…江戸末期の〈生世話〉も徹底した写実主義の演劇になったわけではなかった。たとえば,正面を向いてする演技,見得立回りだんまりといった様式,大道具,小道具,化粧,扮装などは,いずれも絵画的もしくは彫刻的な景容の美しさを目標とし,下座の音楽や効果,ツケの類は写実性をめざすものではなく,情緒的な音楽性をねらい,あるいは擬音を様式化して誇張したものである。どんな場面の,どんな演技・演出も,舞台に花があり,絵のように美しい形に構成されていなければならない。…

【倭仮名在原系図】より

…通称を《蘭平物狂(らんぺいものぐるい)》というように,これが一つの見せ場であるが,筋の上では蘭平こそ伴義雄で,陰謀のための偽狂乱である。与茂作実は行平の臣の計略で素姓を見破られた蘭平は,大勢の捕手を相手にたたかうが,現行演出では,この立回りが眼目で,数多い歌舞伎のタテの中でも最もスケールの大きい,手のこんだものとして有名。蘭平が,はしご,井戸の釣瓶,石灯籠などを使ってさまざまなテクニックを見せるタテは,《千本桜》の竹藪の小金吾,《双級巴(ふたつどもえ)》藤の森の石川五右衛門とともに,大立回りの三大代表作とされる。…

※「立回り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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