農産物に関し,その種類,形態,品質,さらには包装,量目等について,あらかじめ定められた基準に適しているかどうかを,産地や市場で検査することをいう。これには,(1)食品としての農産物に対し,消費者の生命・健康の保持という見地から行われる検査,(2)商品としての農産物に対し,その標準化をすすめて取引の円滑・公正化をはかろうとする見地から行う検査,がある。(1)は生産加工過程,品質等に関して法律が定めた基準を満たしているかどうかをみる検査であり,〈食品衛生法〉(1947公布)に基づいて一般に保健所が卸売市場や小売店等の加工食品,生鮮食品に対して行っている。とくに農業生産と関係の深いこの種の検査は,〈と畜場法〉(1953公布)による獣畜およびその肉等の検査である。同法は,屠(と)畜場以外での獣畜(牛,馬,豚,ヤギ,メンヨウ)の屠畜を禁止しているが,さらに屠畜場において獣畜およびその肉に対し特定の疾病に関する検査を義務づけている。(2)の場合は,農産物の標準化をすすめるため,その種類,形態,品質等に関する標準(規格とよばれるが,農産物では複数の階級から構成される場合が多い)が定められ,それに合致するかどうかをみる検査が行われる。規格や検査方法は生産者団体等が自主的に定めることが多いが,政府が価格支持等で市場に介入する場合,商品生産の初期において政府が政策的にその改善をはかる場合,また輸出農産物に関する場合等は,政府が法令等に基づいて規格や検査方式を定める,さらにはみずから検査を行うときがある。
日本近代の農産物検査は,米が流通市場に出回るようになり,産地別に銘柄と格付けがなされるようになったことに始まる。大正初期には米産地の郡農会・町村農会などで検査が行われていたが,中期には府県庁が府県営で行うようになり,また全国的に米穀検査が行われるようになった。その後,麦など検査品目も増え,また米穀の国家管理強化の流れのなかで,1942年以降は食糧管理法による国営検査に移行した。現在は,農産物検査法(1951公布)に基づいて政府が行う検査,〈農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律〉(1950年公布の農林物資規格法を70年に改称)に基づき,法令に定められた規格・格付機関により行われる検査,政府が行政指導の一環として定めた規格等により生産者団体等の民間機関が行う検査,がある。第1の農産物検査法は,第2次大戦前に政府が流通合理化や食糧管理のため行った強制検査を受けて1951年に制定されたもので,現在米麦類の強制検査,豆類・雑穀・いも類・工芸作物等の任意検査,それ以外の品目に関する都道府県からの依頼検査を行っている。第2はいわゆるJAS(ジヤス)(日本農林規格)制度であり,これによって加工食品等の飲食料,油脂,非食料の農林物資で,登録格付機関(公益法人等が多い)により格付けされたものは,JASマークを表示できる。なお,93年の法改正で,農林物資そのものの特色だけでなく,その生産方法の特色にもJAS規格が与えられるようになった(特定JAS規格)。第3の形で検査されているのは青果物,畜産物等である。青果物や鶏卵は農業協同組合等の生産者団体が生産物を各規格に分類する形で格付けを行っているが,牛・豚の枝肉は社団法人日本食肉格付協会が格付けを行っている。
執筆者:吉田 忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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