邯鄲(能)(読み)かんたん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「邯鄲(能)」の意味・わかりやすい解説

邯鄲(能)
かんたん

能の曲目。四番目物。五流現行曲。作者不明。中国の『枕中記(ちんちゅうき)』の話を紹介した『太平記』が原典であろう。人生に迷う青年盧生(ろせい)(シテ)が、邯鄲の宿で女主人(アイ)の勧めるままに、一生を夢みるという仙人の枕(まくら)を試みる。臥(が)したとたんに勅使(ワキ)が彼を起こし、帝王の位が譲られたことを告げる。宿の寝室はそのまま玉座となり、美童や多くの廷臣が居並ぶ。盧生は50年の歓楽を舞う。一畳台に4本の柱と屋根のついた狭い作り物のなかで、のびのびと帝王の栄華を舞う至難の演技である。人々が消え、ふたたび枕する盧生。その瞬間に女主人が粟(あわ)の飯が炊けたことを告げる。盧生は50年の栄華も一炊(いっすい)の夢と悟って帰っていく。テーマ、演出ともに傑出する能の名作。長唄(ながうた)、常磐津(ときわず)、箏曲(そうきょく)、地歌(じうた)など、後世邦楽に多くの派生曲がある。ジャック・コポーがこの能の翻案・上演を企画したこともあり、三島由紀夫はその『近代能楽集』の最初の作品として『邯鄲』を書き、文学座によって初演(1950)された。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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