翻訳|yeast
通常の生育状態が主として単細胞で,出芽または分裂により増殖する菌類の総称。酵母菌ともいうが,いずれも分類学上の用語ではない。子囊胞子を形成するサッカロミケスSaccharomyces,ピキアPichia,ハンゼヌラHansenula,デバリオミケスDebaryomycesなどは子囊菌類に由来し,冬胞子(テリオスポアーteliospore)を形成するロドスポリディウムRhodosporidium,レウコスポリディウムLeucosporidium,その半数体のロドトルラRhodotorula,スポロボロミケスSporobolomycesなどは担子菌類に由来すると考えられている。また,胞子を形成しないため,その由来の明らかでないカンジダCandidaのような無胞子酵母がある。細胞はおおむね円形ないし楕円形で,楕円形の場合短径が約3~4μm,長径が8~10μmである。
出芽によって増殖する場合,出芽する場所の一定していないサッカロミケスのような酵母と細胞の両極より出芽するハンゼニアスポラHanseniasporaやクレッケラKloeckeraのような酵母がある。またカンジダのように偽菌糸や隔壁のある真正菌糸をつくるものがある。菌糸状の細胞が切断して生じる単細胞を分節胞子という。スポロボロミケスは細胞の表面から特殊な突起状の細胞を出し,その先端に生じた胞子は水滴がはじけるような機構で飛散する。このような胞子を射出胞子という。子囊菌類由来の酵母は細胞どうしの接合により子囊のなかに子囊胞子を形成し,その数は1~4個であるが,ある種の酵母では16個以上つくることがある。この場合,ホモタリズムとヘテロタリズムが知られている。胞子の形状は球状,帽子状,土星状などあり,分類の指標となっている。担子菌類由来のロドスポリディウムでは接合型の異なる半数体細胞が接合し,担子菌類特有のカスガイ連結をとおして核が移動し,カリオガミー(核の合一)ののち,減数分裂をおこない,プロマイセリウム(前菌糸体)に4個の半数体細胞(小生子)が生じ,生活環が完成する。生活環の明らかでない無胞子酵母ではその類縁性を研究するのが困難であったが,最近では接合型の発見とともにDNAの塩基組成,DNA分子間の相同性,呼吸に関係するキノンの構造,各種酵素の電気泳動パターンにより類縁を研究する化学分類学の技法が発達し,この分野からの情報が無胞子酵母の類縁性の研究に役だっている。
酵母の生化学的特徴はアルコール発酵に見られ,古くからブドウ酒,ビール,日本酒などの酒類の醸造に用いられている。また,発酵にともない炭酸ガスを生成するので,この性質はパンの製造に用いられている。パン酵母(イースト)を用いたブドウ糖の解糖系の研究は有名である。酵母には多数の種類があるので,サッカロミケスのようにアルコール発酵をして,醸造に用いられるものも,ロドトルラのようにアルコール発酵をしない酵母もある。酵母菌体はタンパク質やその他の栄養成分に富むので,食糧,飼料として注目されている。古くは第1次世界大戦のさい,ドイツが酵母菌体より人造肉をつくった。また,亜硫酸パルプ廃液はキシロースなどの糖類を含むので,これらの糖類を利用する酵母を用いる菌体生産が実用化されている。最近では,炭化水素やメタノールのような物質からの微生物タンパク質single cell protein(SCP)の生産が研究されている。酵母菌体より核酸を抽出し,加水分解し,核酸調味料を製造する技術は日本の研究者により開発,実用化された。
酵母は自然界に広く分布しているが,一般に糖分を含む試料より多数分離される。果実,野菜,発酵食品,ナチュラルチーズなどはよい分離源であるが,土壌,河水,海水などからも分離される。カンジダ・アルビカンスCandida albicansはいわゆるカンジダ症の原因菌で,本症の患者の粘膜,皮膚などから分離される。現在酵母のカテゴリーに入るものは約60属,約450種が知られている。
→菌類
執筆者:椿 啓介+駒形 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
菌類の一種で,形状は丸みを帯び,大きさが6~7 μm の真核生物.生活環の大部分が単細胞であり,主として出芽によって増殖する.真核生物のモデルとして,突然変異体を利用した遺伝学的解析に広く用いられている.糖質をアルコールと二酸化炭素にかえる発酵能を有するものが多く,古くから酒,しょう油などの醸造や,パンの製造などに用いられている.ビタミンB群が多く含まれるので,健康食品としても扱われている.酵母の分類には不確かなところもあるが,およそ40属350種類が同定されている(菌類全体の0.8% 弱に相当する).Saccharomyces属は古くから発酵醸造に用いられている.通常は出芽によって増えるが,次のような有性生殖を行う場合もある.まず,細胞が接合し,ついで減数分裂を行って4個の子のう胞子をつくる.この過程を利用すると4分子解析が可能で,遺伝学のよい材料となっている.このほか,Schizosaccharomyces pombeのように,出芽ではなく,隔壁を形成して分裂することにより増殖するもの(fission yeast),カンジダ症を引き起こすCandida属,発酵能を欠くDebaryomyces属など多様な酵母が存在する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
イーストともいい、酵母菌類に属する菌。古くは酒のもろみ(諸味)中でアルコール発酵のもと(原因)となったものを酒母(しゅも)とよんだが、明治以後これを広く解釈して醸母(じょうも)とよぶようになった。アルコール発酵の原理が解明され、いつしか酵母というようになった。
[曽根田正己]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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