喧嘩(読み)ケンカ

デジタル大辞泉 「喧嘩」の意味・読み・例文・類語

けん‐か〔‐クワ〕【××嘩/××譁】

原義
[名](スル) 言い合ったり殴り合ったりしてあらそうこと。いさかい。「―をふっかける」「―するなら外でしろ」「口―」
[名・形動]騒がしいこと。また、そのさま。
「旅客人民共に群がり其―なること製鉄場にあるが如く」〈井上勤訳・月世界旅行
[類語](いさか争い言い合い口論衝突鞘当さやあいがみ合いつの突き合い内輪訌争こうそうめ事悶着もんちゃくいざこざごたごた出入でいトラブル紛争闘争立ち回り大立ち回り抗争暗闘争闘共闘ゲバルト暴力を伴うけんか取っ組み合いつかみ合い殴り合い組み討ち

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精選版 日本国語大辞典 「喧嘩」の意味・読み・例文・類語

けん‐か‥クヮ【喧嘩・諠譁】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 形動 ) さわがしいこと。やかましいこと。かまびすしいこと。また、そのさま。喧騒。
    1. [初出の実例]「中不得避諠譁、遇境幽閑自足誇」(出典:菅家後集(903頃)官舎幽趣)
    2. 「山響き草動て(へいきく)とののしり、喧嘩とかまびすし」(出典:将門記(940頃か))
    3. [その他の文献]〔史記‐叔孫通伝〕
  3. ( ━する ) 言い争ったり、腕力を用いて争ったりすること。口論や力ずくで争うこと。いさかい。あらそい。
    1. [初出の実例]「而比年諸国司等交替之時彼此相論。各是己言申請諠譁」(出典:類聚三代格‐五・大同二年(807)四月六日)
    2. 「古より今に至るまで、喧嘩(ケンクヮ)不慮に出来る事多といへども」(出典:太平記(14C後)二一)

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改訂新版 世界大百科事典 「喧嘩」の意味・わかりやすい解説

喧嘩 (けんか)

個人的な争いごとのうち,裁判にもちこまれないものをけんかという。国家間の争いなら戦争といい,経営者とそこで働く者の争いは普通に争議といわれている。けんかはまったく知らない者のあいだでの言い合い,殴り合いもあれば,親子,兄弟,夫婦,仲間その他のけんかもある。仲がよすぎてけんかをするのは兄弟や夫婦に多い。友人どうしでもけんかをするくせに仲がいいけんか友達もある。夫婦げんかは犬も食わないというのは,ほうっておけばひとりでに仲直りをしてしまうから,よけいなおせっかいはしないほうがいい,犬ですら夫婦げんかには関心をもたないという意味である。火事とけんかは〈江戸の華〉といわれたが,はでな騒ぎになるからだとされている。また火事があると復興に金をつかうので景気がよくなる,けんかも仲直りに飲食が付物なので飲食店がもうかる,それゆえ華にたとえたという説もある。江戸時代,江戸で働く者の中心は職人だった。職人は腕一本に名誉をかけて仕事をした。それゆえ商人よりは一般的に気性がはげしい。それで職人間にはけんかが多かった。小咄に,町内の若い衆が寄合いの席を借りに料亭へいくと,料亭の主人が,〈お膳はけんかの前にだしましょうか,あとのほうがいいでしょうか〉と聞くお笑いがある。それほどに明治,大正から昭和初期にかけて,都市に職人が多かった時代にはけんかも多かった。フランスでもパリの市民はけんか好きで,たわいないことで知らぬどうしでさえけんかをした。画家ゴーギャンはパリでけんかをして,足を傷つけられたのが原因でタヒチ島へ行ったのだし,ゾラの小説《居酒屋》中の女どうしのけんかもパリの人たちのけんか好きを証している。江戸時代から明治末ころまでは,少年,青年のレクリエーションとしてけんかをする風習があった。勝海舟の父の勝小吉は小身の旗本だったが,若者だったころ,たいくつだから隣町へ行ってけんかでもしてこようと,仲間とともに隣町へ行ったが,向こうが本気にして刀を抜いたので,けがでもさせてはたいへんだと思って,逃げて帰ったと《夢酔独言》に回想をのべている。

 けんかをしたがる者をけんか売りという。けんかをしかけられると買いたがるのはけんか買い。けんかなれがしている者をけんか師といった。自分も相手もけがをしないようにけんかをして,うっせきしていた気分を発散させるのがけんか師のこつだった。けんか両成敗というのは,理由を問わず,けんかをした者は両方ともよくない,とくに暴力沙汰になったとき,先に手をだした者が悪いとすることだった。武士間の定めとして15世紀中ごろ,室町時代中期に幕府が〈喧嘩両成敗法〉をきめたので,各大名のもとでもその決りが採用され,けんかをした者は重ければ所領没収,軽くても叱責(しつせき)とされた。江戸幕府ができてからはけんか両成敗は慣習上の定めになって法律化はされなかった。それが民間へも伝わったので,現代でもけんか両成敗という言葉は通用している。
執筆者:

子どもにはけんかは付物である。子どもはけんかを通じて自己主張して争い,けんかを通じて交わりを深め,集団をつくっていく。子どものけんかは3歳前後から始まり,10歳前後にもっとも激しくなり,13歳前後までつづく。子どもがけんかをよくするのは,子どもはそのときその場の自分のものの見方,感じ方,考え方,行動のしかたに強くこだわるからである。この自己中心性のために,子どもはそのとき,その場の自分を強く主張したり,他者や集団を自分本位的に理解して,争いを起こす。しかし,子どもはけんかを通じて他者や集団を知り,自分自身を知るなかで,自他の要求を対等に扱い,それらを正しく関係づけ,集団を自主的に統制することのできる自我をつくり出していく。つまり,子どもはけんかという行為を通じて自己中心性から抜け出していくのである。そうなるにつれて,けんかは徐々に話合いや討論に変わっていく。この意味では,けんかは子どもの発達の糧である。ところが,現代の社会は早くから子どものけんかを抑圧し,形式的な話合いを強要するために,けんかのできない子どもが増えている。このことは,子どもの自己中心性からの脱却をおくらせ,かえって自己中心性を肥大させている。このために,子どもの抑圧された攻撃性は対等のけんかというよりは,衝動的な一方的暴力,いじめ,迫害,集団的暴力などの形をとる傾向が強くなっている。
執筆者:

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世界大百科事典(旧版)内の喧嘩の言及

【正当防衛】より

…正当防衛は,ごく例外的には国家的法益や社会的法益を守るためにも許される。 けんかの場合は,もと判例は〈喧嘩両成敗〉の見地からおよそ正当防衛は認められないとしていたが,近年はけんかであっても場合によっては認めうるとしている。しかし,相手をことさらに挑発した場合には認められない。…

※「喧嘩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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