寄託(読み)キタク

デジタル大辞泉 「寄託」の意味・読み・例文・類語

き‐たく【寄託】

[名](スル)
物品などを他人に預け、その処置や保管を頼むこと。「故人の蔵書を市に寄託する」
当事者の一方(受寄者)が相手方(寄託者)のために保管することを約束して、ある物を受け取ることによって成立する契約。
[類語]供託預ける託するゆだねる任せる預託信託委託委任付託言付ける頼む

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精選版 日本国語大辞典 「寄託」の意味・読み・例文・類語

き‐たく【寄託・寄托】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 人やものを他人にあずけ、その処理、保管などをたのむこと。自分の身を他に委ねる時にもいう。委託。
    1. [初出の実例]「寄託浮査玉都、海神投与一明珠」(出典菅家文草(900頃)六・水仙詞)
    2. [その他の文献]〔蜀志‐李厳伝〕
  3. 他にことよせること。
    1. [初出の実例]「事に寄托して自家の志を歌ふ」(出典:比興詩を論ず(1905)〈角田浩々歌客〉一)
  4. 物の保管を他人に頼み、相手がこれを受け取ることによって成立する契約。
    1. [初出の実例]「寄託は当事者の一方が相手方の為めに保管を為すことを約して或物を受取るに因りて其効力を生ず」(出典:民法(明治二九年)(1896)六五七条)

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改訂新版 世界大百科事典 「寄託」の意味・わかりやすい解説

寄託 (きたく)

当事者の一方が相手方のために保管をすることを約して,ある物を受け取ることによって効力を生ずる契約(民法657~666条)。物の受取により契約の効力が生ずるところから,寄託契約は要物契約に属している。民法上の寄託は,好意的に行われることが多いところから無報酬を原則とするものとされ,経済的にさほど重要な役割を果たす契約とはいえない。これに対し,商法上の寄託(商事寄託)は営業として行われて重要な経済的機能を発揮し,またこれを発展させた倉庫営業の制度もある。寄託の一種に属する後述の消費寄託は,銀行の預金契約にみられるように重要な意義を有する。

 寄託の効果として,受寄者には,以下のような義務がある。第1に,受寄者には,受寄物の保管義務がある。すなわち,受寄者は,寄託者の承諾がなければ受寄物を使用し,または第三者にこれを保管させることができない(658条1項)。受寄者が第三者に受寄物を保管させることができる場合には,受寄者は物を保管する第三者の選任および監督についてのみ責任を負い,この保管者は,本人および他人に対しては,受寄者と同一の権利義務を有する(同条2項)。第2に,受寄者には注意義務があるが,無償受寄者の注意義務は軽減される。すなわち,無報酬にて寄託を受けた者は,受寄物の保管につき自己の財産におけると同一の注意をする責めに任ずる(659条)。委任において,受任者が善良な管理者の注意(善管注意)義務を負うのに比べ,無償受寄者の注意義務は軽減される。この義務すら尽くさなかったときには,重大な過失があるとされる。有償受寄者の注意義務は,一般原則に従い善管注意義務とされる(400条)。また商事寄託においては,無償の場合でも善管注意義務が要求される(商法593条)。第3に,受寄者には通知義務がある。すなわち,寄託物につき権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し,または差押えをしたときは,受寄者は,遅滞なくその事実を寄託者に通知することを要する(民法660条)。第4に,受寄者には,委任における受任者と同様,受取物引渡し等の義務がある(665,646条)。第5に,受寄者は,委任における受任者と同様,金銭消費の場合の責任がある(665,647条)。

 つぎに,受寄者の権利としては,第1に,委任におけると同様,特約に基づく報酬請求権がある(665,648条)。第2に,受寄者は,委任におけると同様,費用前払請求権(665,649条),費用償還請求権(665,650条1項),代弁済請求権(665,650条2項)を有する。第3に,受寄者は,寄託者に対して損害賠償請求権を有することがある。すなわち,寄託者は,寄託物の性質または瑕疵(かし)より生じた損害を受寄者に賠償することを要する。ただし,寄託者がその性質もしくは瑕疵を知らないことに過失がなかったとき,または受寄者がこれを知っていたときはこの限りでない(661条)。

 寄託物の返還の時期については,当事者が時期を定めていないときは,受寄者はいつでもその返還をすることができる(663条1項)。返還時期の定めがあるときは,受寄者は,やむをえない事由があるのでなければその期限前に返還をすることができない(同条2項)。返還場所については,保管をすべき場所とされるが,受寄者が正当の事由によりその物を転置したときは,現在の場所において返還することができる(664条)。

 最後に特殊な寄託として消費寄託がある。すなわち,受寄者が契約により受寄物を消費することができる寄託を消費寄託といい,消費貸借に関する規定を準用する(666条本文)。その結果,受寄者は,種類,品等および数量の同じ物をもって返還すればよい。ただし,消費貸借の場合と異なり,消費寄託においては,契約に返還の時期を定めていないときは,寄託者は,いつでも返還を請求することができる(同条但書)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「寄託」の意味・わかりやすい解説

寄託
きたく

当事者の一方(受寄者)が相手方(寄託者)のために保管することを約して、ある物を受け取ることによって効力を生じる、要物・不要式・無償・片務の契約をいう(民法657条)。ただし諾成的寄託(合意のみで目的物の引渡しを必要としない)の成立も可能であり、また、報酬の特約がある場合には、有償・双務の契約となる。

 寄託により、受寄者は目的物を保管する義務を負う。保管にあたって負う注意義務について、有償寄託の場合には善良なる管理者の注意(同法400条)、無償寄託の場合には自己の財産におけると同一の注意(同法659条)である。また、受寄者は、寄託者の承諾がない限り保管を第三者にさせることはできない(同法658条1項)。また、寄託物について権利を主張する者が受寄者に訴えを提起したなど、一定の場合には通知義務を負い(同法660条)、委任の場合におけると同様、金銭その他の物および消費金支払い義務を負う(同法665条・646条・647条)。そして寄託が終了したときには寄託物を返還しなければならない。他方、寄託者は費用前払い義務、立替え費用および利息の償還義務、債務弁済および担保供与の義務を負い(同法665条・649条・650条)、有償寄託の場合には、さらに報酬を支払わねばならない。

淡路剛久

消費寄託

受寄者が目的物そのものを返還するのではなく、同種・同等・同量の物を返還する場合(銀行の貸付など)を消費寄託という。不規則寄託ともよばれる。寄託の一種ではあるが、消費貸借に類似しているので、返還時期(寄託者はいつでも返還を請求できる)の点を除いて、すべて消費貸借の規定が準用される(同法666条)。なお、商法の寄託は商事寄託とよばれる。

[淡路剛久]

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図書館情報学用語辞典 第5版 「寄託」の解説

寄託

個人や団体が,その所有するコレクションの適正な維持管理が困難になった場合に,図書館や文書館などに保管と管理を委託する形で長期間貸与すること.寄贈の場合とは異なり,所有権の移転は行われない.通常は寄託資料の保管と管理を委託する代わりに,それらの資料を一般の利用に供するが,貴重書や文書類などが寄託される場合には公開に一定の制限が付けられることもある.

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百科事典マイペディア 「寄託」の意味・わかりやすい解説

寄託【きたく】

当事者の一方(受寄者)が,相手方(寄託者)のために物を保管することを約し,それを受け取ることによって成立する契約(民法657条以下)。原則として無償であるが,特約で有償とすることもできる。目的物の返還時期を定めた場合でも,いつでもその返還を請求できる。寄託のうち最も重要な倉庫業については商法に特則がある。→消費寄託
→関連項目供託保護預り

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「寄託」の意味・わかりやすい解説

寄託
きたく
deposit

当事者の一方 (→受寄者 ) が相手方 (寄託者) のために物を保管することを約する契約 (民法 657) 。受寄者が目的物を受取ることによって成立するものとされる (→要物契約 ) 。保管料を支払う必要があるかどうかは特約によるが,保管料の支払われる場合の保管義務のほうが重い。寄託者は,目的物の返還時期が定められている場合でも自由に返還請求ができる。なお,商人が受寄者である場合には,重い保管義務の規定がある (商法 593) 。商法上の寄託として倉庫営業につき詳しい規定が設けられている。

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普及版 字通 「寄託」の読み・字形・画数・意味

【寄託】きたく

身を寄せる。漢・東方朔〔七諫、諫〕列子、身を隱して窮處す、世、以て寄託すべき(な)し。

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