日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポーラログラフィー」の意味・わかりやすい解説
ポーラログラフィー
ぽーらろぐらふぃー
polarography
電解質溶液中で微小な滴下水銀電極を指示電極とし、対極として表面積の大きい非分極性の電極を用いて電気分解を行い、微小電極にかけた加電圧とそのときに流れる電解電流の関係を解析して、被検物質の、化学種の状態や電気化学反応、定性と定量分析、諸定数の測定などをする方法。滴下水銀電極のかわりに静止した電極や回転する白金電極など他の微小電極を用いる方法もあるが、一般に滴下水銀電極を用いる方法のみをポーラログラフィーとよび、その他の微小電極を用いる場合も含めてボルタンメトリーと総称している。
[高田健夫]
歴史
この方法の創始者はチェコスロバキアのヘイロウスキーであり、同時に当時ベルリン留学中の志方益三(しかたますぞう)との共同研究によって電流‐電圧曲線の自動記録装置(ポーラログラフpolarograph)が発明され(1925)、その応用が急速に広がった。ポーラログラフを用いて測定することから電流‐電圧曲線のことをポーラログラムpolarogramとよび、またこれからポーラログラフィーという名称が使われるようになった。
溶液内の物質に関して種々の情報を与える優れた方法であり、研究の盛んな分野の一つとなっている。これらの功績に対して1959年ヘイロウスキーにノーベル化学賞が与えられた。日本においては専門の学会としてポーラログラフ学会があり、学術雑誌『ポーラログラフィー』がある。
[高田健夫]
測定法
適当な電解槽に試料溶液を入れ両電極を挿入する。滴下水銀電極はガラス毛管の下端から数秒に一滴程度の速度で水銀の小滴が滴下するようになったものである。一方、対極には十分広い電極表面積をもったカロメル電極や水銀池電極を用いる。これらの間に連続的に増加する電圧をかける。こうすると加電圧が変化し電解電流が流れてもこの対極の電位はほとんど変化せず、したがって加電圧の変化がそのまま対極を基準とした滴下水銀電極の電位変化を示すことになる。この対極のように、それを通して電流が流れてもその電位がほとんど変化しない電極を非分極性の電極とよび、このような電極を対極として用いて電解を行うのがポーラログラフィーの大きな特徴である。電解によって流れる電流は、おもに被電解物質の電極表面への拡散による拡散電流と、イオンが電場によって移動する泳動電流であるが、本法においては後者によって運ばれる電流を無視させることが望ましい。このため測定電位範囲で電解されない電解質を加える。これを支持電解質、あるいは自身が直接電解に関係しないという意味で無関係塩とよんでいる。加電圧が被電解物質の分解電圧に達するまでは電解電流はほとんど流れないが、分解電圧に達すると電解電流が急激に増大する。しかし、電解電流が増大してある限界値になると、加電圧の増加に対して電流値が増大しないようになる。したがって得られる電流‐電圧曲線は階段状になり、この階段の高さが拡散電流であり、拡散電流の大きさは被電解物質の濃度に比例するので、これを測定することから物質の定量分析ができる。また、電流値が拡散電流の半分に達したときの水銀滴下電極の電位を半波電位とよび、これはその電解条件下での被検物質に特有の値となり、これを測定することにより定性分析ができる。
このように直流加電圧を徐々に変化させて電流‐電圧曲線を測定する方法を直流ポーラログラフィーとよび、この方法がポーラログラフ法の基本となるが、その後の発展で、低周波交流や高周波交流を重畳させたり、加電圧を急速に変化させたり、その他種々の方法が行われるようになっている。
[高田健夫]
『武者宗一郎著『ポーラログラフィー』(1961・東京化学同人)』▽『H・H・バウアー著、玉虫伶太・佐藤弦訳『電極反応――エレクトロディスク概説』(1976・東京化学同人)』