ハクスリー(Thomas Henry Huxley)(読み)はくすりー(英語表記)Thomas Henry Huxley

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ハクスリー(Thomas Henry Huxley)
はくすりー
Thomas Henry Huxley
(1825―1895)

イギリスの動物学者。ロンドンで医学を修めたが、もともと物理学に関心があったために、生体機能の物理・化学的側面を扱う生理学に興味をもった。生計をたてるために海軍軍医となり、ラトルスネーク号でオーストラリア方面に航海し(1846~1850)、とくにクダクラゲ類について優れた研究を行った。帰国後、王立鉱山学校教授となり、化石の研究や生理学、比較解剖学に従事。王立学会員となり、1883年から同会長を務めた。腔腸(こうちょう)動物の内・外胚葉(はいよう)が、高等動物の内・外胚葉と相同であることを示し、またオーケンLorenz Oken(1779―1851)、ゲーテらの、頭骨脊椎(せきつい)骨の変形したものであるとする「頭骨脊椎骨説」の誤りを正した。C・R・ダーウィンとは、航海から帰国後まもなく知己となり、終生親交を結んだ。ダーウィンの『種の起原』(1859)が出版されるやただちにダーウィン説に賛同し、ダーウィン自身にかわってこの説の普及者となることを決意し、「ダーウィンのブルドッグ」とよばれた。とくに、1860年のイギリス学術協会において、ダーウィン説の反対論者であったウィルバーフォースSamuel Wilberforce(1805―1873)司教を論破したことは、その後の進化論受容に大きな影響を与えた。しかしハクスリーは、ダーウィン説を無批判に受け入れたわけではなく、その欠陥も鋭く指摘し、またダーウィンが避けた人間起源問題にも言及した。主著に『自然における人間の位置』(1863)、『進化倫理』(1893)などがある。

[八杉貞雄]

『T・ハクスリ著、佐伯正一他訳『自由教育・科学教育』(1966・明治図書出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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