翻訳|plutonium
ある種のウランに中性子を吸収させることで作られる放射性物質。質量や性質が異なる「同位体」が多く確認されている。中でもプルトニウム239は核分裂により膨大な熱エネルギーを放出するため、原爆や原発で利用される。日本では、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して、再利用するプルサーマル発電を行っている。
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周期表第ⅢA族に属するアクチノイド元素の一つ。1940年アメリカのシーボーグG.T.Seaborg(1912-99),マクミランE.M.McMillan(1907-91),ケネディJ.W.Kennedy(1916-57)らが,サイクロトロンによって重水素で238Uを衝撃してつくられる238Npのβ崩壊ではじめて得た。
92番ウラン,93番ネプツニウムがそれぞれ太陽の惑星である天王星,海王星にちなんだものであることから,その外側の冥王星Plutoにちなんで命名された。発見後232から246までの同位体が認められており,いずれも放射性である。最長寿命は242Puで,半減期は3.76×105年。古くは天然には存在しないとされたが,1942年シーボーグらによってウラン鉱中に微量存在することが明らかにされた。これは鉱物中で238Uが中性子を吸収して生ずるものと考えられる。
これは238Uが存在するとき原子炉中でも起こる反応で,プルトニウムの人工製造用として重要であり,現在までにトン単位の量が生産されている。銀白色金属。空気中で加熱すると酸化される。水素とは常温で反応して水素化物をつくる。塩酸,希硫酸,過塩素酸に溶け,硝酸,濃硫酸には溶けない。
ウラン系燃料の原子炉では,再処理によって生成する239Puが大量に取り出されている。金属とするのには,フッ化物,塩化物,酸化物などをアルカリ金属,アルカリ土類金属などで還元するか,溶融塩電解による。
3,4,5,6価の化合物が知られており,3価化合物が最も安定。かなり多くの化合物がつくられており,ハロゲン化物,酸化物,水素化物,窒化物,炭化物,ケイ化物,ハロゲノ錯塩その他が知られている。
239Puは,核分裂反応による重要なエネルギー源であり,また原子爆弾や水素爆弾の材料としても使われる。中性子源としても用いられる。
執筆者:中原 勝儼
軽水炉の燃料内にできたプルトニウムは核分裂するので,新しい燃料にプルトニウムを含まない軽水炉でも燃料寿命の後期では,生成したプルトニウムの核分裂によるエネルギーが発生エネルギーのある程度の部分を占めることになる。さらに,積極的にプルトニウムを利用するには,軽水炉の使用済燃料を再処理してプルトニウムを抽出し,高速増殖炉の燃料とする(核燃料再処理,核燃料サイクル)。高速炉でのプルトニウムの使用形態はUO2,PuO2の混合酸化物としてである。単体のプルトニウムは融点912.5℃までの間に6種の相変態があり,この相不安定性のために金属のまま核燃料とする考え方はない。プルトニウムの酸化物PuO2はUO2と似た性質をもち,混合酸化物としたときの燃料の使用時のふるまいはUO2燃料に似ている。
執筆者:大久保 忠恒
プルトニウムは毒性の大きな物質として知られるが,それはプルトニウムの出すα線の性質と体内に入ったプルトニウムの滞留時間の長さに起因する。同じことは他の超ウラン元素にもあてはまるが,原子力発電に伴うプルトニウムの発生・利用量の多さがこの元素の毒性問題を深刻にしている。
おもに問題なのは発癌効果で,1μg(放射能は約0.06μCi。キュリーCiは放射能の単位で,1Ci=3.7×1010Bq)以下の239Puを投与されたラット,ビーグル犬などに肺,骨,皮膚などの癌が発生することが実験的に確かめられている。人体に不溶性粒子(酸化プルトニウム)を吸入すると主として肺に,可溶性プルトニウムを摂取すると骨と肝臓に集まり,それぞれの臓器の癌の原因となる。239Puに対する空気中および水中の許容濃度は,それぞれ6×10⁻13および5×10⁻5μCi/cm3で,これに相当する一般人の肺の最大許容負荷量(体内とりこみの許容量)は1.6nCi(2.6×10⁻8g)と小さい。しかし,これら国際放射線防護委員会などの勧告値よりいっそう大きなリスクを指摘する説もある。
プルトニウムはまた核兵器材料で,高純度プルトニウムは5~10kgで原子爆弾となり,また水素爆弾の引金となる。インドが1974年に平和目的の原子力施設を利用してプルトニウムを製造・抽出し,核爆発を成功させて以来,プルトニウムの核拡散問題に対する世界的な認識は厳しくなった。この問題と毒性の厳しさから,プルトニウムをエネルギーとして利用すべきか否かをめぐって大きな論争がある。
執筆者:高木 仁三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Pu.原子番号94の元素.人工放射性超ウラン元素.電子配置[Rn]5f 67s2の周期表3族アクチノイド元素.質量数228~247の20種の同位体核種が知られている.1940年に,G.T. Seaborg(シーボーグ)グループがカリフォルニア大学バークレー校の60 in サイクロトロンで加速した重水素核 D+ でウラン 238U を衝撃して,238U(d,2n)238Np β崩壊→ 238Pu のように質量数238の核種を得た.ウラン天王星,ネプツニウム海王星についで冥王星(プルトー)から命名された.
244Pu がもっとも長寿命で半減期8.00×107 y(α崩壊).もっとも重要な 239Pu は半減期2.411×104 y(α崩壊).238U の中性子照射により,2回のβ崩壊を経て
238U→ 239U→ 239Np→ 239Pu
のようにして得られる.α粒子エネルギーは5.155~5.105 MeV.分岐率3×10-10 % で自発核分裂も起こす.100万kW 級発電炉1基で 238U から年間約200 kg 生成する.核分裂に対する臨界質量は圧縮度でも異なるが,反射体なしで10 kg 程度,核弾頭には2~4 kg の兵器級プルトニウム(93% 239Pu)を搭載しているといわれる.銀白色の金属.密度19.84 g cm-3(α態25 ℃)で非常に重い.融点641 ℃,沸点3232 ℃.第一イオン化エネルギー5.8 eV.常磁性.金属は複雑な結晶構造転移を示し,合計六つの変態がある.α(単斜晶系)122 ℃ 以下,β(体心単斜)122~200 ℃,γ(斜方晶系)200~310 ℃,δ(面心立方構造)310~452 ℃,δ′(正方晶系)452~480 ℃,ε(体心立方構造)480 ℃ 以上.熱伝導性,電気伝導性は高くはない.比抵抗145 μΩ cm.金属はPuF4,PuO2,PuCl3をCaなどのアルカリ土類金属で還元すると得られる.濃塩酸,希硫酸,過塩素酸に可溶.酸化数2~7の酸化状態が知られ,もっとも安定な酸化状態は4.酸化数2はPuH2,PuOなどが報じられている.高酸化数の化合物ほど加水分解しやすく,自己の放出するα線で酸化還元反応を受けやすい.ハロゲン化物,硝酸塩以外は水に難溶.水溶液は酸化数に応じて,鮮やかな色を帯びる.PuⅢ(青紫色),PuⅣ(黄褐色),PuⅤ O2+(桃色),PuⅥ O22+(桃橙色),PuⅦ O53-(青色),PuF3(紫色),PuF4(赤褐色),PuF6(赤褐色),ほかのハロゲン化物,PuO,PuO2(黄褐色),Pu2O3(黒色),硫化物,窒化物などが知られる.
金属および化合物ともに有毒で骨,肺などの臓器に障害を与える.ただし,重金属としての毒性よりも放射能障害の可能性のほうがはるかに高い.不溶性の酸化物以外の 239Pu 化合物の空気中濃度限度7×10-7 Bq/cm3,排水中の濃度限度4×10-3 Bq/cm3(放射線障害防止令・同位元素の数量等を定める件).用途は核兵器および核燃料用.238Pu(α崩壊,半減期87.7 y)は宇宙用原子力電池に使われる.かつて月面探査のアポロ計画や人体に埋め込むペースメーカー用にも使用された.[CAS 7440-07-5][CAS 13842-83-6:PuF3][CAS 13709-56-3:PuF4][CAS 13693-06-6:PuF6][CAS 12035-83-5:PuO][CAS 12059-95-9:PuO2][CAS 12036-34-9:Pu2O3]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
アクチノイドに属する放射性元素の一つ。原子番号94、元素記号Pu。ウラン鉱物中にウラン238と自発核分裂で生成した中性子との反応で生じた質量数239の同位体がわずかに存在するが、その事実が知られる以前は完全な人工合成元素と考えられていた。人工元素として初めて肉眼で認識しうる量が生産された元素でもある。1940年カリフォルニア大学の研究グループがウラン238の重水素衝撃で質量数238の同位体を得たが、その後、原子爆弾開発計画によって原子炉中で大量に生産されるようになった。ウラン、ネプツニウムがそれぞれ天王星、海王星から命名されたのに倣い、冥王(めいおう)星Plutoから命名された。多くの同位体があるが、半減期の長いα(アルファ)崩壊核種が多く、質量数244のものの約8000万年が最長で、大量に生産される239のもので約2万4000年である。
[岩本振武]
銀白色の金属となる単体には結晶構造の異なる6種の同素体があり、そのうち2種は温度上昇で収縮する特異な性質を示す。自己の発する崩壊エネルギーで温度が自発的に上昇する危険性があるので、小塊にして冷却保存される。ウランに似て、+Ⅲから+Ⅴまでの酸化状態でさまざまな化合物をつくり、それらの物理・化学的性質も詳細に調べられている。
天然ウランの99.3%を占めるウラン238は現用核分裂炉では燃料とならないが、それが中性子を吸収して生成するプルトニウム239は広いエネルギー範囲の中性子と反応して容易に核分裂する核燃料であり、その効率からも、ウラン238の有効利用の面からも重要な核燃料である。現用炉の使用済み燃料からも再処理によって回収されている。一方、プルトニウムはもっとも危険な物質で、その原因は、核分裂が容易なこと、自発昇温性であること、α崩壊性であることなどにある。プルトニウムを扱うプラントでは、臨界量のプルトニウムが凝集しないように細心の注意が払われている。
[岩本振武]
プルトニウムの毒性は主として肝臓および骨髄造血部への濃縮保留とその場所でのα崩壊に起因する。α粒子そのものは健康な皮膚を通過しないが、含プルトニウム粉末・溶液は傷、消化器、呼吸器から体内に侵入する危険性がある。人体内許容基準はプルトニウム換算0.6マイクログラム、大気許容基準は30ピコグラム/立方メートルで、ほかのあらゆる毒物よりも低く設定されている。
[岩本振武]
プルトニウム
元素記号 Pu
原子番号 94
原子量 (239)※
融点 639.5℃
沸点 3200℃
密度 19.84g/cm3
※括弧内の数値は原子量ではなく、同位体質量数の一例
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
(2018-8-2)
…実際,このようにしてウランより重い元素が存在しうることが確かめられた。ウランより原子番号の一つ大きい元素はネプツニウム,二つ大きい元素はプルトニウムと名づけられた。1940年前後のことである。…
…たとえばアスタチンは1940年にビスマスとヘリウムイオンとの核反応で作られた質量数211のもの(211At)が最初に発見されたが,その後アスタチンのいろいろな同位体が天然の放射性元素であるポロニウムのいろいろな同位体からの分岐崩壊で生ずることがわかり,したがってアスタチンは自然界につねに微量に存在することが知られた。また超ウラン元素のうち最初に発見されたネプツニウム(ウランの中性子照射による239Np)やプルトニウム(ウランの重陽子D照射による238Pu)も,その後まもなく天然のピッチブレンド中に237Np,239Puのような同位体の形で存在することがわかり,これらはウランが宇宙線中の中性子によって自然に核反応を起こした結果であると考えられるようになった。このように人工元素の定義には明確でない点があるので,〈天然には現在のところまったく見いだされてないか,きわめてわずかしか見いだされず,その研究には主として人工的手段によって作り出したものが用いられる元素〉と考えたほうがよいであろう。…
※「プルトニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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