デジタル大辞泉 「巴」の意味・読み・例文・類語
は【巴】[漢字項目]
〈ハ〉中国四川省東部の異称。「
〈ともえ(どもえ)〉水が渦巻いた模様。「
[名のり]とも
[難読]
左巴、右巴の巻く方向は、時代や家などによって異なる。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
鞆絵(ともえ)とも書く。丸い頭にC字形の尾をつけた幾何学模様。元来渦巻から展開した模様と思われる。象形文字の蛇がしだいに変化してできた形という説もある。わが国ではこれを鞆(弓を射るとき用いる具)の形に見立て、鞆絵、巴とよんでいる。これを三つ組み合わせ丸紋風に構成したものが「三つ巴文」であるが、巴にはこのほか、一つ巴から九つまでの巴があり、さらに、これに剣や雲などを添えて、きわめて多種な模様、紋章を生み出している。これは中国、朝鮮はもとより、中央アジア、スキタイ、ギリシアなど広い地域に分布する模様である。わが国では弥生(やよい)時代にすでにこの形をとる青銅製の飾り金具があるが、模様として流行するのは平安時代からで、国宝・阿弥陀聖衆来迎図(あみだしょうじゅらいごうず)(和歌山、有志八幡講十八箇院(ゆうしはちまんこうじゅうはっかいん))の大太鼓(だだいこ)や、国宝・平家納経(厳島(いつくしま)神社)の見返しにこれが描かれている。鎌倉時代以後はおもに武家の間で、これを家紋とするものが多く現れるようになった。
[村元雄]
能の曲目。二番目・修羅(しゅら)物。五流現行曲。女武者をシテとする唯一の女修羅である。出典は『平家物語』の「木曽(きそ)の最後の事」。木曽から出た僧(ワキ。ワキツレを伴うことも)が琵琶(びわ)湖のほとり粟津(あわづ)の原に着く。神社に詣(もう)で涙を流す里の女(前シテ)に僧はことばをかけ、木曽義仲(よしなか)を祀(まつ)る場所であることを知る。女はわが身を亡者と告げ、入相(いりあい)の鐘の音とともに消える。読経する僧の前に、武装りりしい巴御前(ともえごぜん)(後(のち)シテ)が現れ、夫であり主君である義仲の、粟津での無念の最期、女ゆえに死出の供を許されなかった悔しさを語る。重傷の義仲に自害を勧め、薙刀(なぎなた)を振るって敵を蹴(け)散らす巴の武勇を再現し、遺言のままに形見を持ち、故郷へ落ちて行った後ろめたさを語り、執心への回向(えこう)を頼んで終わる。終曲部で武装を解き、姿をやつして戦場を去る場面も印象的で、愛情と武勇の二つが融和した佳作。
[増田正造]
能の曲名。二番目物。修羅物。作者不明。シテは巴の霊。木曾の国の僧(ワキ)が近江の粟津(あわづ)に着くと,社の前で涙を流している若い女(前ジテ)がいる。言葉をかけると,これは木曾義仲を祭った社だから,あなたも同国の人なら経を手向けなさいといって消え去る。僧が弔っていると女武者(後ジテ)が現れ,義仲に仕えた巴御前の霊であることを明かし,義仲の戦いぶりや死の前後のようすを物語る(〈クセ〉)。義仲が敗戦の混乱で乗馬を深田に踏み込み,動けなくなっていたのを,自分がここの松原に伴ってきて自害を勧め,寄せ手を追い散らして時をかせいだ(〈中ノリ地等〉)。戻ってみると義仲はすでに最期を遂げていたので,自分は形見の品を持って,遺言どおりに木曾に帰ったと物語り,なお弔いを頼むのだった。
現行の修羅物の中で唯一の女武者物である。義仲への思慕を描くなかで,女らしい薙刀(なぎなた)さばきを見せるというのがこの能の趣向である。
執筆者:横道 万里雄
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…ために毛が地についたままゆれて,髪を洗っているようにみえるところからこの名がついた。毛をぐるぐるとまわす型は〈巴(ともえ)〉と呼ばれる。なお,獅子の髪洗いは,たとえば長野県更埴市雨宮(あめのみや)の神事に,獅子が橋から水面すれすれに宙吊りになって獅子頭を振りまわす儀式(橋がかり)があることから,神事の獅子をめぐる民俗の反映が考えられている。…
…中国,四川省をさしていう語。巴とは現在の重慶を中心として,嘉陵江流域を含む四川省東部をさし,蜀とは成都盆地を主地域とし,岷(みん)江流域に広がる西部をさす。元来はいわゆる西南夷系統に属する異民族の住地であったが,その中で巴と蜀はさらに民族・文化系統を異にした。…
※「巴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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