抜ける(読み)ヌケル

デジタル大辞泉 「抜ける」の意味・読み・例文・類語

ぬ・ける【抜ける】

[動カ下一][文]ぬ・く[カ下二]
中にはまっていたものや、ついていたものが離れて取れる。「歯が―・ける」「栓が―・ける」「髪の毛が―・ける」
中に満ちていたり含まれたりしていたものが外へ出る。「タイヤ空気が―・ける」「気の―・けたビール」「臭みが―・ける」
押している状態のまま、押す力が消える。「ブレーキが―・けて空走する」
ある傾向習慣・くせや力などがなくなる。「怠けぐせが―・けない」「疲れが―・ける」「腰が―・ける」
本来あるべきもの、必要なものが漏れたり欠けたりしている。「名簿から名前が―・けている」「主語が―・けている」
(「脱ける」とも書く)
㋐それまでいた場所や、属していた組織・仲間から離れる。「座敷を―・ける」「組合を―・ける」
㋑しばらくの間だけ自分の部署を離れる。「仕事を―・けて人に会いに行く」
㋒ある場所・状況から逃れ出る。脱する。「危ないところを無事に―・ける」「最悪の状況から―・ける」
㋓言いつくろって責任を免れる。言い逃れる。
左様そう―・けてはいけぬ、真実の処を話して聞かせよ」〈一葉にごりえ
その所を通って向こう側へ出る。一方の側から他方の側へ通って出る。通り抜ける。「打球右中間を―・ける」「トンネルを―・ける」
(多く「ぬけた」「ぬけている」の形で)知恵が十分に働かない。気がきかずぼんやりしている。足りない。「あの人はどこか―・けている」「の―・けた話」
(「ぬけるような」「ぬけるように」の形で)隔てがなくなり、どこまでも続いている。透き通っている。「―・けるような青空」「―・けるように白い肌」
10 他が及ばないほどすぐれている。ひいでる。抜きんでる。
つかさ位高くのぼり、世に―・けぬる人の」〈・絵合〉
[用法]ぬける・おちる――「名簿に君の名が抜けて(落ちて)いたよ」「この記事には大切な部分が抜けて(落ちて)いる」など、あるべきものが欠けている意では相通じて用いられる。◇「抜ける」は、中にあるものがなくなる、外に出る意に重点がある。「くさみが抜ける」「魂が抜けたよう」「気の抜けたサイダー」「歯が抜ける」など。◇「落ちる」は付いていたものが取れる意に重点がある。「洗うと色が落ちる」「き物が落ちる」「がんこな油のしみがきれいに落ちた」などと使う。
[類語]去る離れる退しりぞ退める離脱する脱退する引退する辞任する離任する手を引く身を退く骸骨を乞う退会退団退部脱会脱党離党杯を返す

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「抜ける」の意味・読み・例文・類語

ぬ・ける【抜】

  1. 〘 自動詞 カ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]ぬ・く 〘 自動詞 カ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] 突き破って向こう側へ出る。また、ある位置や標準の上に出る。
    1. こちら側からあちら側へつらぬき通る。比喩的に、道が通じる、あるものの間を通って向こうへ行くなどの意にも用いる。
      1. [初出の実例]「春風に普請のつもりいたす也〈惟然〉 藪から村へぬけるうら道〈支考〉」(出典:俳諧・続猿蓑(1698)上)
      2. 「建物の下を潜って向へ抜ける」(出典:倫敦塔(1905)〈夏目漱石〉)
    2. 他より優れる。ひいでる。ぬけでる。
      1. [初出の実例]「心いられせですぐされたるなん、すこし人にぬけたりける御心とおぼえける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)藤裏葉)
      2. 「ぬけたる器量の人なり」(出典:愚管抄(1220)六)
    3. 優れたものとして選び出される。
      1. [初出の実例]「江の島も跡を出す気の汐干潟といふ句がぬけたのサ」(出典:洒落本・美地の蛎殻(1779))
    4. 他より先に進む。また、出世する。
      1. [初出の実例]「群にぬけて追うてゆく」(出典:平家物語(13C前)八)
    5. 城などが、攻められて落ちる。
      1. [初出の実例]「其の容易に抜けざるを察して攻撃を止めければ」(出典:経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後)
    6. 一定の金額以上になる。また、利益をあげる。
      1. [初出の実例]「浮世風呂もこれで三編。板元の金設(かねもうけ)、又ずっしりとぬけました」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)三)
  3. [ 二 ] はまっているもの、付いているものがとれてなくなる。
    1. はまっていたものが、そこから離れとれる。
      1. [初出の実例]「太刀をぬいて戦ふに〈略〉目ぬきのもとよりちゃうど折れ、くっとぬけて」(出典:平家物語(13C前)四)
      2. 「flask(フラスコ)の栓などが抜(ヌケ)たるにあらずや」(出典:内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉七)
    2. 特に、からだについている、毛、歯などがとれる。
      1. [初出の実例]「毛のよくぬくるしろがねの毛抜き」(出典:枕草子(10C終)七五)
    3. 勢いや力などがなくなる。また、ある習慣、性質や熱、味、香などが消える。また、備わっていたもの、あるべきものがなくなる。「かぜが抜ける」
      1. [初出の実例]「腰やぬけたりけん、高這(たかばひ)にして三方へ逃げ散る」(出典:義経記(室町中か)五)
      2. 「兎角に内地のみを目当にして、取引したる癖は今尚ぬけず」(出典:内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉八)
      3. 「次第次第力衰へ勢抜くるを見るよりも」(出典:いさなとり(1891)〈幸田露伴〉六七)
    4. ある場所から逃げ去る。のがれ出る。ぬけだす。また、抜け参りをする。
      1. [初出の実例]「ここにあってはあしかりなんと思ひ給ひて、足にまかせてぬけ給ふ程に」(出典:平治物語(1220頃か)中)
      2. 「いそがしき中をぬけたる涼かな〈游刀〉」(出典:俳諧・続猿蓑(1698)夏)
    5. うまい言いわけをして追及をのがれる。言いぬける。
      1. [初出の実例]「『八卦に問はれよ』といふ。山伏聞て『されば八卦で見たれば、その方に問ふてゆけとあるほどに、それで問ひます』とぬけられた」(出典:咄本・軽口御前男(1703)二)
      2. 「左様ぬけてはいけぬ、真実の処を話して聞かせよ」(出典:にごりえ(1895)〈樋口一葉〉二)
    6. 仲間からはずれる。また、あるべきものが脱落したり、すべきことを忘れたりする。もれる。「五字抜けている」
      1. [初出の実例]「ぬけるとは、わするること」(出典:新撰大阪詞大全(1841))
    7. 知恵がたりないさまである。間抜けである。
      1. [初出の実例]「少ぬけたるおとこ」(出典:咄本・当世軽口咄揃(1679)二)
      2. 「人のよい、悪く言へば少し抜(ぬ)けて居るやうな処が見えて」(出典:女難(1903)〈国木田独歩〉五)
    8. 取引市場で、利益を得た買い玉を転売して逃げ退く。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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