電流を一方向にだけ通ずる作用をいう。そのような機能をもつデバイスを整流素子,一つの装置としてまとめられたものを整流装置,さらに一般的に整流素子を主体としたものを総称して整流器という。この定義からわかるように,整流は交流電力から直流電力を得る場合や変調信号の包絡線成分をとり出す場合に用いられる。
整流作用は水銀蒸気中のアーク,同期接点,多結晶および単結晶の半導体の境界層,あるいは接合において生じ,それぞれ水銀アーク整流器,接触変流器,金属整流器,半導体整流器として用いられてきたが,信頼性,性能,コストの点で現在ではシリコン半導体のp-n接合を用いたダイオードのみが主に用いられている。
半導体のp-n接合は図1に示すような整流特性をもつ。すなわちp層が正の方向(順方向という)に電圧を印加すると電流が流れ,逆向き(逆方向)には流れない。このようすを詳しく眺めると,順方向に電圧を印加している状態ではA点で示すように接合の性質で決まるわずかの電圧が残っている。この電圧を立ち上り電圧VTHといい,シリコンダイオードでは0.8V程度である。電流を増していくとA→Bのようにわずかな抵抗特性を示して素子端の電圧は増加する。しかしこの値はふつうは小さいので,ほぼ立ち上り電圧と電流の積で素子内部での損失が決まり,これが整流の効率を与えるとともに,半導体が許容温度内(シリコンでは接合温度が120℃以下)で動作できるように,放熱体でこの発生熱を外部に逃がさなければならない。逆方向に電圧をかけるとわずかの漏れ電流が流れる。この電流は電圧が大きくなると少しずつ増加する。逆方向電圧がある値VRBを超えると接合での電子なだれ崩壊やトンネル現象によって急激に電流が増加し素子は破壊に至る。VRBは逆降伏電圧と呼ばれ,素子の使用される最大電圧を決める。現在では素子の流しうる電流は2000A,耐えられる逆電圧は数千V級のダイオードまで作られている。ダイオードに印加している電圧を順方向から逆方向に急激に切り換えても,電流はすぐには逆方向の漏れ電流のレベルにはならない。素子の中の少数キャリアが再配置される逆回復現象と呼ばれる期間は,逆方向に外部回路で制限される電流を流すことになるから注意が必要である。
整流素子を使って交流から直流に電力を変換する回路である。単相の交流回路に接続される場合を図2に示そう。交流電圧e(t)が正の半波のときは,ダイオードD1→抵抗R→ダイオードD2とつながる回路にD1D2について順方向の電圧が印加されるので電流が流れる。次にe(t)が負の半波に入るとD3→R→D4の回路に電流が流れるから,抵抗にはつねに一方向の電流が流れ直流が供給される。各ダイオードは半周期のみ直流を流す。交流側にはD1D2,D3D4のどちらの組が電流を流すかによって両方向に電流が流れるのでIaは交流となる。こうして交流電源から直流が抵抗に得られる。しかし実際の応用では1-1′の間に直流負荷をつなぎ,1-1′から内側を見た場合に等価な直流源として働くようにしたいことが多い。電流源を得たい場合にはAと1の間に十分に大きいインダクタンスを挿入すればよい。このときにはIDは完全な直流になるが,Iaは方形波状となる。電圧源を得たい場合には1-1′間に大きなキャパシタンスを接続すればよい。このときにはIDはパルス状となり,Iaも高調波をたくさん含んだ波形となる。
整流回路にはこのようなブリッジ回路のほかに半波整流回路,センタータップ付全波整流回路,倍電圧整流回路などがある(図3)。機能的には差がないが,使用される素子の要求条件や交流波形のひずみなどが異なる。
整流素子としてサイリスターを使用することもできる。この場合にはサイリスターのゲート電流を加える位相φを制御することによって,図4に示すように直流出力の大きさを変えることができる。このような回路はサイリスター整流回路と呼ばれる。ゲート電流を流す位相φを別の直流信号と結びつければ,サイリスター整流器は非常に利得の大きい直流増幅器ともみなせる。
直流電力を必要とする負荷の代表的なものは電解装置とアルミ精錬装置である。どちらも低電圧大電流の直流を必要とし,交流の波形ひずみを少なくするため多相の整流装置を用いている。都市近郊の電気鉄道は直流電化されているが,電力を供給する変電所ではサイリスター整流装置が使われる。いろいろな産業応用で使われる直流電動機の駆動電源も整流装置,あるいはサイリスター整流装置である。より電力レベルの低いものではバッテリーの充電器や各種通信・情報装置の電源がある。後者は電圧が低いが安定化されている必要があるので精密な制御を伴う。
執筆者:正田 英介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
交流を直流に変換すること。整流は、電流を一方向にしか流さない性質をもったダイオード等の回路素子を用いて行い、その機能を実現するものを整流器とよぶ。整流素子にて電流の流れる方向を順方向、流れない方向を逆方向とよぶ。交流電圧の極性が、順方向の期間は、電流は整流素子を通って負荷に流れるのに対し、逆方向の期間は、電流は流れない。したがって負荷には一定方向の電流が流れる。単一の整流素子を介すると負荷を流れる電流は交流の半周期だけになる。整流素子を2個使うと、負荷には交流の全周期にわたって電流を流すことができる。前者を半波整流、後者を全波整流という。このほかにも、整流素子を4個使用した単相ブリッジ整流回路、三相交流を整流するための三相半波整流回路、三相ブリッジ整流回路などが目的に応じてくふうされ使われている。どの回路でも交流から変換されて出てくる出力は一定の大きさの直流ではなく、脈流であるので、多くの場合、トランジスタやコンデンサーを組み合わせたリップルフィルターや、定電圧IC(IC=集積回路。入力、出力、グランドの3端子から構成された3端子レギュレーターがよく使われる)を通して出力に含まれている交流成分を除去して直流にする。直流は直流発電機や電池などによっても得られる。しかし、これらは運転や保守に手間がかかるために、多くの場合、交流を整流して直流を得る方法がとられている。
[布施 正・吉澤昌純]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…蒸留塔の大きさや還流比などは原料混合液の性質に基づいて計算され,決定されるようになっている。 なお,還流を行いながら蒸留を繰り返す分離操作を特に精留rectificationと呼ぶが,工業的には蒸留といえばほとんどの場合精留を意味する。また,適当な温度間隔をもって2種以上の成分の留出液を分け取る蒸留法を分留fractional distillationという。…
※「整流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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