法哲学(読み)ほうてつがく(英語表記)philosophy of law

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

法哲学(学問分野)
ほうてつがく
philosophy of law

法学および哲学の一部をなす学問分野。法理学とよばれることもある。法哲学は、実定法の一般理論を研究する狭義の法理学と、「法の究極にあるもの」を考察する狭義の法哲学からなる。
(1)法理学(狭義) 法領域や個々の実定法体系を超えて、法的諸概念や法の体系性を一般的に考察する学問分野。イギリスの分析法学、ドイツの一般法学などがその有力な学派で、20世紀においてはケルゼンらの純粋法学のほか、ソ連のパシュカーニス、イギリスのハート、アメリカのフリードマン、イスラエルのラズなどによって発展をみた。ドイツでは「法の一般理論」allgemeine Rechtslehre、イギリス、アメリカでは「法理学」jurisprudenceとよばれるのが普通である。おもな主題は、法の定義、国家の定義、法と国家の関係、法律行為、権利・義務などの法概念の定義、実体法と手続法、成文法と慣習法、国際法と国内法の関係、法秩序の構造、戦争や革命の法的構成、法解釈の性格、法学の方法などである。このような考察は当然「法の究極」の問題と結び付いているから、次の(2)の領域に連なっている。
(2)狭義の法哲学 「人間は、はたして、なぜ、またどのような条件のもとで法に従うべきか」という問題が、法哲学の根本問題であるが、これは哲学の根本問題にかかわりがあり、古来大思想家たちがさまざまな思想や理論を展開してきた。プラトン主義、アリストテレス主義、トマス主義、カント主義、ヘーゲル主義、マルクス主義、経験主義、実存主義などの諸々の哲学上の潮流がおのおのの法哲学をもつといわれる。主要な主題としては、法と人間性、道徳、宗教、習俗、歴史、実力、言語などとの関係などのほか、とくに正義の概念、正義の客観性や考察が重要である。これについては、永久不変の正義の存在を主張する自然法論と、これを否定する法実証主義の対立が最大の論点の一つで、代表的な自然法論者としては、キケロ、トマス・アクィナス、グロティウス、ロック、カントなど、法実証主義者としては韓非子(かんぴし)、エピクロス、オースティン、ケルゼン、ハートなどがあげられる。
(3)法思想としての法哲学 学問分野としてでなく、法についての一定の反省を伴った見方を法哲学とよぶことがある。たとえば「紛争はできるだけ平和的に解決すべきだ」とか、「自動車が通っていなくても、赤信号では横断歩道を渡らない」とかいう考え方も、一種の「法哲学」とよばれることがある。また「古代ローマ人は実力主義の法哲学を奉じていた」とか、「伝統的中国人を、『法は必要悪だ』とする法哲学の持ち主だ」などというのもそれである。このような「法哲学」は学問的法哲学の素材となる。
(4)日本の法哲学 前述の(3)のような意味での法哲学は江戸時代以前にもあり、儒学者や国学者は法についての知的反省を伴った思想を展開していたが、学問的法哲学の発端は、西周(にしあまね)、津田真道(まみち)が、幕末にオランダに留学して、西洋の自然法論や功利主義に接してから始まる。穂積陳重(ほづみのぶしげ)が1881年(明治14)東京大学に「法理学」の講座を開設したが、これが大学講座の初めで、穂積は進化論哲学に従って、法の発展を説く法理論を講じた。大正期より京都帝国大学で恒藤恭(つねとうきょう)が、新カント主義哲学の影響下で法哲学を講じ、昭和期に至って尾高朝雄(ともお)が初め京城帝国大学で、続いて東京帝国大学でドイツ法哲学の諸潮流を統合した法哲学を説いた。第二次世界大戦後には日本法哲学会が結成され、多数の研究者がさまざまな潮流の法哲学を研究している。[長尾龍一]
『碧海純一著『新版法哲学概論』(1973・弘文堂) ▽矢崎光圀著『法哲学』(『現代法学全集2』1975・筑摩書房) ▽加藤新平著『法哲学概論』(『法律学全集1』1976・有斐閣)』

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