異性(読み)イセイ(その他表記)isomerism

翻訳|isomerism

デジタル大辞泉 「異性」の意味・読み・例文・類語

い‐せい【異性】

男女雌雄の性が異なること。特に、男性から女性を、女性から男性をさしていう。「異性との交際」⇔同性
性質が違うこと。また、その性質。
異性体の関係にあること。
[類語]性別セックスジェンダー性的男女両性雌雄同性

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精選版 日本国語大辞典 「異性」の意味・読み・例文・類語

い‐せい【異性】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 他のものと違った性質をもっていること。また、そのもの。⇔同性
    1. [初出の実例]「彼此各々(おのおの)異種、異性、殊状、殊品ならむこと、是皆決定し難からざるの道理なり」(出典:異人恐怖伝(1850)上)
  3. 男(雄)と女(雌)の性が違っていること。また、そのようなものどうし。特に、男が女を、女が男をさしていう語。⇔同性
    1. [初出の実例]「意もろき異性(イセイ)を風前の鵞毛とせんとするにひとし」(出典:春迺屋漫筆(1891)〈坪内逍遙〉壱円紙幣の履歴ばなし)
  4. 化学で、分子式は同じであるが、構造の異なる物質が二種以上存在する現象。異性体。

異性の語誌

の用法は明治期に始まる。単なる「性質を異にする」意から男女の区別を表わす用法に転じたのは、明治期に語基「性」が英語 sex あるいは gender の訳語として定着したためと考えられる。


い‐しょう‥シャウ【異性】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏語。二十四不相応行法の一つで不和合性のこと。因縁の和合によってものが成立する場合、その和合をさまたげるもの。また、その能力、性質。
  3. ばけもの。へんげ。

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改訂新版 世界大百科事典 「異性」の意味・わかりやすい解説

異性 (いせい)
isomerism

分子式あるいはそれに対応する化学式は同じであるが,構成する原子の立体的な配列その他が異なるため,物理的および(または)化学的物質が異なる化学種が二つまたはそれ以上存在するとき,これらはたがいに異性体isomerであるといい,またこの現象を異性という。

 異性現象の発見は有機化学の発展に大きな貢献をした。19世紀の最初の四半世紀の間に元素分析の技術は向上し,今日の分子式に相当するものがかなり正確に求められるようになってきた。1826年J.vonリービヒは,雷酸銀の分析結果がF.ウェーラーのシアン酸銀の分析結果と一致することに気づいた。当時の化学者は無機化合物との類推から,有機化合物においても一定の分析結果は一定の化合物に対応すると考えていた。しかし,再検討の結果,この二つの化合物が誤差の範囲で組成は同一なのに,まったく性質が異なる化合物であることが明白となった。

 30年J.J.ベルセリウスは,酒石酸とラセミ酸とが同一組成をもつことを確認したうえで,これらを包括するいくつかの概念,すなわち同一分子式をもつ〈異性〉,同一組成をもつが分子量が異なる〈異量polymerism〉(たとえばエチレンC2H4とブチレンC4H8),同じ組成をもつが異なる構成部分をもつ〈メタメリズムmetamerism〉などを定義した。当初はこれらのすべては広義の異性とみなされたが,しだいに狭義の異性の概念が用いられるようになった。

 異性の起源に関しては,すでにゲイ・リュサックは元素の結合のしかたの違いであることを指摘していた。原子説がしだいに浸透し,F.A.ケクレとクーパーA.S.Couper(1831-92)の炭素の原子価説(1858)が発表され,炭素の原子量に関する不一致が解決される見通しが立ち(1860,カールスルーエの国際化学会議),ゲイ・リュサックの予言はしだいにはっきりした形で認識されるようになった。61年A.M.ブトレロフは,一つの化合物には一つの化学構造が,その化学構造には一つの原子配列が対応すると述べ,はじめて〈化学構造〉という語を定義した。この考えの正しさは,考えられる異性体のすべての合成の成功によって確認された。

 このようにして異性体の化学は,はじめ有機化合物を中心として発展したが,この間無機化合物の構造や異性についての考察がなかったわけではない。たとえばCoCl3・4NH3プラセオ塩:緑色とビオレオ塩:紫色)やCo(NO23・4NH3クロセオ塩とフラボ塩)などの異性体については,有機化合物の類推から鎖状構造によって説明されていたが正しい発展はみられなかった。しかし93年,逆に無機錯体の異性現象を理解することを出発点としたウェルナー配位理論が提出され,その正しさが認められるようになると,配位の概念による立体構造が明らかになり,その結果さらにまた各種の異性現象が見いだされるようになった。かくして異性現象は無機化合物,有機化合物をとわず広く見いだされるものであるが,多くの種類があり,その原因を生ずる原子配列の形式その他によって分類されている。しかしそれらの名称は,見いだされた当時の習慣的なものが残っていてかなり便宜的なものもあり,またその結果無機化合物,有機化合物での用語あるいは内容が異なっている場合もある。

 有機化合物では異性体の分類のしかたは必ずしも一義的ではないが,主要なものとして次の三つがあげられる。

(1)構造異性 エチルアルコールジメチルエーテル

(2)幾何異性 フマル酸マレイン酸

(3)光学異性 D-乳酸とL-乳酸。このうち(2)(3)は原子の配列順序は同一であるが,その空間的関係が異なるものを問題にしており,これらをまとめて立体異性とよぶ。このほか互変異性,配座異性,回転異性,原子価異性などの異性が知られているが,これらのあるものは同一現象の別の表現である。

 無機化合物では,配位子の違いによるイオン化異性,また同じ配位子でも配位原子の違いによって生ずる結合異性などがあるが,最も重要なのは,配位子は同じであるがその立体配置が違うために生ずる立体異性すなわち幾何異性と光学異性である。

 イオン化異性は,組成は同じであっても構成するイオンの違う異性である。たとえば[CoCl(NH35]SO4(赤紫色)と[Co(SO4)(NH35]Cl(ばら赤色)のようにイオンが配位しているかいないかによって生ずる異性現象で,錯塩ではごく普通にみられる。これが配位子がイオンと水分子の場合,たとえば[Cr(H2O)6]Cl3(紫色),[CrCl(H2O)5]Cl2・H2O(青緑色),[CrCl2(H2O)4]Cl・2H2O(緑色),[CrCl3(H2O)3]・3H2O(緑褐色)などはすべて異性体で,これらはイオン化異性の特殊な場合と考えられ,水和異性といっている。同じようにイオン化異性の特殊な場合には,配位異性(たとえば[Cu(NH34][PtCl4]と[Pt(NH34][CuCl4]など)や重合異性(たとえば[Co(NO23(NH33],[Co(NH36][Co(NO26],[CO(NO2)(NH35][Co(NO24(NH322,[Co(NO22(NH343[Co(NO26],[Co(NO2)(NH353[Co(NO262その他などがすべて異性体)などがある。

 結合異性は,配位子の配位形式が二つ以上ある場合(たとえばNO2⁻は-NO2と-ONO,NCS⁻は-NCSと-SCNなど),[Co(ONO)(NH352⁺と[Co(NO2)(NH352⁺が異性体となる場合がある。これは古く構造異性,塩異性などとよばれていたことがある。

 幾何異性はシス-トランスcis-trans異性ともよばれたことがあり,図2のようなシスおよびトランス,facおよびmerなどの組合せがある。

 光学異性はたとえば[Co(en)33⁺などで図2のような場合にみられる。
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化学辞典 第2版 「異性」の解説

異性
イセイ
isomerism

】分子式は同じであるが,構造が異なるため,物理的または化学的性質の異なる物質が,2種類以上存在する現象をいい,この関係にある化合物を異性体という.異性現象は,1823~1824年ころにF. Wöhler(ウェーラー)とJ. Liebig(リービッヒ)が,性質の異なるシアン酸銀と雷酸銀をそれぞれ独立に研究し,いずれも同一の分子式で表されることを発見したのが最初である.異性体は,構造異性体と立体異性体に大別される.構造異性体は,原子の結合順序が異なる異性体で,さらに炭素鎖異性体,位置異性体,官能基異性体,互変異性体,その他に分類される.立体異性体は,原子や原子団の立体配置の違いにもとづく異性体(光学異性体,幾何異性体)と,立体配座の違いにもとづく異性体(配座異性体,回転異性体)に分けられるが,常温で別々に単離できない配座異性体は,異性体のなかに入れないことがある.【】[別用語参照]核異性

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百科事典マイペディア 「異性」の意味・わかりやすい解説

異性【いせい】

分子式や化学式は同じだが,構成する原子の立体的な配列などが異なるため,物理的あるいは化学的性質の異なる物質が二つ以上存在するような現象を異性といい,それぞれの物質を互いに異性体という。無機化合物,有機化合物のいずれにも多くの異性現象がみられ,構造異性互変異性立体異性幾何異性光学異性)などがあるが,その他錯化合物には多くの種類の異性(イオン化異性,配位異性など)がみられる。

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