(読み)テン

デジタル大辞泉 「纏」の意味・読み・例文・類語

てん【纏】[漢字項目]

人名用漢字] [音]テン(漢) [訓]まとう まとい まつわる
まつわりつく。「纏繞てんじょう纏綿
身につける。身にまとう。「纏足半纏
[補説]「纒」は俗字。

まとい〔まとひ〕【×纏】

まとうこと。また、まとうもの。
馬印の一種。さおの頭に飾りをつけ、その下に馬簾ばれんを垂らしたもの。
江戸時代2にならって町火消しの各組のしるしとしたもの。

てん【×纏】

仏語。まつわりつくもの。煩悩ぼんのうのこと。纏縛てんばく

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精選版 日本国語大辞典 「纏」の意味・読み・例文・類語

まつわ・る まつはる【纏】

[1] 〘自ラ下二〙
① からみつく。ぐるぐるとまきつく。まとわる。→はいまつわるおもいまつわる
書紀(720)垂仁五年一〇月(北野本訓)「錦色小蛇(すこしきなるにしきをろち)、朕が頸(くひ)に繞(マツハル)
② いつも離れないでいる。つきまとう。まとわる。
※能因本枕(10C終)三〇六「まつはれ追従し、取り持ちてまどふ」
③ かかわり合う。かかわりなずむ。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「さらに一すぢにまつはれて、今めきたる言の葉にゆるぎ給はぬこそ」
[2] 〘自ラ五(四)〙
① からみつく。また、まきついてほどけなくなる。〔書陵部本名義抄(1081頃)〕
※読本・南総里見八犬伝(1814‐42)三「護身嚢(まもりふくろ)の長紐紊れて、道節が大刀の緒に、いく重ともなく夤縁(マツハリ)つつ」
② (一)②に同じ。
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉八「御身に夤縁(マツハ)る災難の減ずる事は」
③ ゆかりがある。関連する。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉五「頻に故人縁の纏(マツハ)る日かな」
[補注]上代には四段活用の確例はなく、平安後期ごろまで下二段活用だったと思われる。

まとい まとひ【纏】

〘名〙 (動詞「まとう(纏)」の連用形名詞化)
① まとうこと。また、まとうもの。
② 軍陣の用具の馬標(うまじるし)の一種。近世の戦陣で、主将の本営のしるしとして立てるもの。長い竿の先に種々の飾りをつけ、その下に馬簾(ばれん)を垂れる。
奥羽永慶軍記(1698)八「纏を先に押立て」
③ 江戸時代、町方の火消の各組が②に模して作り、組のしるしとして用いたもの。
洒落本・新吾左出放題盲牛(1781)侠八歯臍「半鐘の丸漬か纏のばれんの浸し物」
④ 「まといもち(纏持)」の略。

まとま・る【纏】

〘自ラ五(四)〙
① 個々ばらばらにあるものが集まって一つになる。一つに統(す)べ合わされる。全体で一つのかたまりとなる。一括される。ある程度の量になる場合にいう。
歌舞伎絵本合法衢(1810)大切「まとまった三十両」
② 話し合いがつく。当事者の間、または周囲の皆が了解するに至る。意見、考えが一致する。特に、縁談・商談などが成立する。
花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉上「一度の集会で御相談の十分に纏(マト)まることは六ケ敷からうかと思ひます」
③ 一つのものとして完成する。整理がつく。できあがる。
滑稽本・八笑人(1820‐49)二「早く来てくれねへか。もうすこしでまとまる所だ」

まとわ・る まとはる【纏】

[1] 〘自ラ下二〙
① =まつわる(纏)(一)①
狭衣物語(1069‐77頃か)一「がはがは、そよそよと、裾ども取り広げ、紐どものまとはれたりける」
② =まつわる(纏)(一)②
更級日記(1059頃)「姉おととの中につとまとはれて」
[2] 〘自ラ四〙 =まつわる(纏)(一)②
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉一七「犬の〈略〉纏(マト)はるも心細き限りなり」

まと・める【纏】

〘他マ下一〙 まと・む 〘他マ下二〙
① 個々のものを一つにくくる。集めて一つにする。統括する。〔名語記(1275)〕
② 一つのものとして完成させる。また、意見、考えなどを一つに整理する。
※他人の顔(1964)〈安部公房〉灰色のノート「結末をまとめるのに要するだろう日数の」
③ 懸案や紛争などを解決させる。まるく納める。また、特に縁談・商談などをうまく成立させる。
雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下「話を纏めるまではお春さんを外へ出して置く方が善からふ」

まつわ・す まつはす【纏】

〘他サ四〙
① まつわるようにする。まといつく。また、まつわりついて束縛する。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)一〇「有情の、生死の苦穢に縛(マツハサ)れたるを」
② 気に入りの者、愛する者などを絶えずそば近くにつきまとわせる。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「『さてなほひさしくや、宮は見奉らざらんずる』『などてか、ただ暫しなり』と聞え給にも、いと哀に、まつはし奉り給へるに」

まとわ・す まとはす【纏】

〘他サ四〙
① まといつくようにする。まきつかせる。からませる。まつわす。
※蜻蛉(974頃)下「助をあけくれよびまとはせば」
② そばから離れずつきまとうようにする。絶えずそばにつき添わせる。まつわす。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「この殿をばててぞとて、むつまじうまとはし奉り給ふ」

まつ・う まつふ【纏】

〘他ハ四〙 =まとう(纏)(二)
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「若し上の枢(とぼそ)壊れば、皮を以て縺(マツフ)こと聴(ゆる)す」

まつ・る【纏】

〘他ラ五(四)〙 布の端を折り返して、裏の布と表の布を交互に針ですくって縫いつける。
※針女(1971)〈有吉佐和子〉五「表のジョーゼットでくるむようにして纏(マツ)るんだ」

てん【纏】

〘名〙 (paryavasthāna の意訳) 仏語。煩悩(ぼんのう)の異称。煩悩は衆生(しゅじょう)にまとわりついて迷いの世界にしばりつけるところからいう。〔摩訶般若波羅蜜経‐三〕

まとまり【纏】

〘名〙 (動詞「まとまる(纏)」の連用形の名詞化) 統一、整理されること。また、決着がつくこと。
※文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉初「我が一身のまとまりもいかず」

まとめ【纏】

〘名〙 (動詞「まとめる(纏)」の連用形の名詞化) まとめること。
※あらくれ(1915)〈徳田秋声〉六四「これのまとめが一つで十三銭づつです」

まと・む【纏】

〘他マ下二〙 ⇒まとめる(纏)

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改訂新版 世界大百科事典 「纏」の意味・わかりやすい解説

纏 (まとい)

戦闘や消防の際に用いられた標識。戦場での集団中に目につきやすい標具として,16世紀になって盛んに用いられた纏は幟(のぼり)の大型なもので,《大坂軍記》にも〈大纏は朱の大四半,大幅掛に白き葵(あおい)の丸なり〉とか〈井桁(いげた)の紋の茜(あかね)の四半のまとひ〉と見えている。しかし他と紛れぬように,幟のほかにも作り物を用い,ときには当世具足の背に着けた指物(さしもの)を纏としたので,《甲陽軍鑑》には〈北条家の大道寺九ッ挑灯(ちようちん)のさし物をそえにしてもたする,是によってまとひは北条家よりはじまる〉と伝えている(旗指物)。また竿の先端に趣向をこらした作り物を施し,さらに馬簾(ばれん)といって輪形に切裂(きつさき)を長くたらしたのを加え,これを馬脇の標識とした馬印を纏と呼ぶようになった。この形式の纏は江戸時代になってから軍事組織に準じる消防にあたる者の標具としても用いられ,かくて纏は,必ず馬簾をつけ,上端に〈出し〉という飾物を配し,柄の下部の石突(いしづき)を股(また)として手にかけて持ち,振るのに便利とした(〈火消〉の項を参照)。

 纏は旗本以上の武士の非常用の調度で,馬簾は猩々緋(しようじようひ)を普通とし,〈出し〉は軽い紙製または籠製で,3方面に定紋をつけたものが多い。また唐人笠や留め玉に白熊(はぐま)(白い飾毛)をつけたもの,宝珠や苗字中の1字を表現したものなどが見られ,消防方は馬簾を銀箔置(ぎんぱくおき)とした。1720年(享保5)から町火消も方域を記した吹流しを纏としたが,30年には47組を10に分けて,吹流しを廃して馬簾を用いることとし,〈出し〉に組別の標識を示し,総体に武家方消防の様式にならった。しかし寛政(1789-1801)ころから町方の馬簾は銀箔置を改めて白粉塗とするようになり,そのおもかげを今に伝えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「纏」の意味・わかりやすい解説


まとい

戦国時代には、敵味方の目印にするために用いた幟(のぼり)や馬印(うまじるし)のことであったが、江戸時代になると、もっぱら火消組の目印をさすようになった。前者の纏は、永禄(えいろく)・元亀(げんき)(1558~73)のころ北条氏康(うじやす)の家臣が初めて用いたと伝えられる。有名なものとして、豊臣(とよとみ)秀吉の金の千成瓢箪(せんなりびょうたん)や徳川家康の金の扇などがある。

 江戸時代、大名火消や旗本の定火消(じょうびけし)ができると、家紋や先祖の由緒にちなんだ陀志(だし)飾りのついた纏が考案され、加賀百万石の加賀鳶(とび)の銀塗り太鼓や、本多能登守(のとのかみ)の本文字に日月の纏など、それぞれに華美を競った。1718年(享保3)江戸に町火消の制が定まり、しだいに整備されて、10組の大(おお)組の下にいろは四十八組(ただし、「へ」「ら」「ひ」「ん」のかわりに「百」「千」「万」「本」)の小(こ)組が置かれると、各小組ごとに目印として纏を持つことを許される。時代により形が多少変わったが、江戸時代の末ごろには、陀志飾りの長さ2尺(約60センチメートル)、白漆塗りで馬簾(ばれん)(円形の枠に、細い紙や革の条を長く垂らしたもの)のついた、一般によく知られる纏らしい形となった。なお、纏持ちのことを単に纏ともよび、組のシンボルとして、火消しや行事で競い合った。

[片岸博子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「纏」の意味・わかりやすい解説


まとい

戦闘や消防の際に用いられた標識。戦国時代に大将の陣所の所在を示すために大型のを用いたのが起源で,16世紀以後盛んに用いられるようになった。幟のほかにも標識として用いた作り物や,当世具足の背につける家紋などを施した指物 (さしもの) なども纏と呼ばれ,さらに竿頭部に趣向を凝らした飾り (出し) を施し,長く馬簾を垂らした馬印 (うまじるし) も纏と呼ばれるようになった。江戸時代になってこの形式のものは消防にあたる者の標具として用いられるようになり,出しに定紋や先祖の由緒にちなんだ飾りをつけた纏は,旗本以上の武士の非常用の調度となった。町火消は享保5 (1720) 年から纏制度が許され,地域名を書いた吹流しを用いていたが,天保2 (1831) 年以後,馬簾つきの纏が許されるようになり,出し飾りの大きさ2尺 (約 60cm) 以内,すべて白染塗りとし,馬簾の数も 48本に定められた。

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百科事典マイペディア 「纏」の意味・わかりやすい解説

纏【まとい】

(1)戦国時代の武将が戦場で馬側に立てその所在を示した馬印の一種。多くは馬簾(ばれん)という飾りを垂らした。(2)江戸時代の町火消の標識。(1)に模してつくり,その頭部を〈だし〉といい,組の名を記号で入れた。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【火消】より

…本所,深川は16の小組に分けた。このとき大名火消,定火消にならって各組ごとに(まとい)と(のぼり)を定め,その目印とさせた。さらに30年,47組を一番組から十番組の大組に分けた。…

※「纏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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