〘他マ下一〙 せ・む 〘他マ下二〙 (「せめる(攻)」と同語源)
① 人の行為の過失や罪などをとがめる。なじる。
※書紀(720)雄略二三年八月(前田本訓)「心を小(セメ)、己を励して日(ひにひ)に一日を慎むことは」
※源氏(1001‐14頃)手習「さる所にてはいかでおはせしぞとせめて問ふを、いと恥づかしと思ひて」
※暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉二「原因が分ってゐれば、あれ程に弱らずに済んだのです。然し、さういって君を責(セ)める気ではありません」
※万葉(8C後)一一・二六九六「荒熊の住むと云ふ山のしはせ山責(せめ)て問ふとも汝が名はのらじ」
※平家(13C前)七「名のれ名のれとせめ候つれ共、つゐになのり候はず」
③ くるしめる。なやます。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「憂の火に焼き逼(セメ)らるることを被りたまへり」
※古今(905‐914)雑体・一〇〇三「秋はしぐれに そでをかし 冬はしもにぞ せめらるる〈壬生忠岑〉」
④ 拷問をする。
※太平記(14C後)三三「誡置て嗷問せよとて、手取り足取り打縛り、挙つ下つ二時計ぞ責(セメ)たりける」
※和英語林集成(初版)(1867)「ツミビトヲ seme(セメ)テ ハクジョウ サセル」
⑤ 技芸を教えこむ。しこむ。
※文机談(1283頃)四「いよいよせめけるほどに、後にはいみじき音曲の上手になりて」
⑥ 馬を乗りならす。調教する。
※奉公覚悟之事(15C中‐後)「一せむる馬はよき程は下馬にをよばず」
※玉塵抄(1563)一六「ここらにも馬をけいこしてのるを馬をせむると云ぞ」
⑦ 強く高い調子や小きざみな拍子で、楽器を演奏したり舞を舞ったりする。
※後撰(951‐953頃)秋下・四二一「風の音のかぎりと秋やせめつらん吹き来るごとに声のわびしき〈よみ人しらず〉」
⑧ 一心不乱に念仏や祈祷(きとう)などを唱える。
※梁塵秘抄口伝集(12C後)一〇「あまりせめしかば、喉腫れて、湯水通ひしもずちなかりしかど、構へて謡ひ出だしにき」
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上「この恋叶(かな)はぬものならば、仏も我を御殺し、殺生戒をば破らせ給はんや、とせめにせめてぞ祈りけり」
⑨ 努力してきわめる。求めて追究する。
※俳諧・三冊子(1702)赤双紙「せめず心をこらさざる者、誠の変化をしるといふ事なし。ただ人にあやかりてゆくのみ也。せむるものはその地に足をすへがたく、一歩自然に進む理也」
⑩ 帽子・頭巾(ずきん)をきっちりとかぶる。
※文机談(1283)四冊「父がむくのみいろの大ゑぼうし、まゆはんにせめいれさせて」
[補注]便宜上、別項として扱ったが、同語源の語に「せむ(迫)」「せめる(迫)」がある。