隔離(読み)かくり(英語表記)isolation

翻訳|isolation

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

隔離(生物学)
かくり
isolation

生物学において隔離とは、交配可能な生物集団(個体群)が、さまざまな原因によって分集団に分かれ、それらの間に自由な交配がおこりにくくなったり、交配しても次世代ができにくくなり、分集団間の遺伝子交流(交換)が妨げられる現象をいう。一つの生物集団が二つの部分に分断され、その一方あるいは双方の遺伝的組成に変化が生じ、別種へ分化するには、その分集団間の交配を妨げるなんらかの障壁がなくてはならない。隔離を引き起こす仕組み、すなわち障壁がどのように形成されるかという仕組みを隔離機構という。多様な生物種を互いに違ったものとして存在させてきたのは何なのか、という隔離機構の解明は、この問いを出発点にしている。
 隔離機構については、1950年にアメリカの遺伝学者ドブジャンスキーが、空間的分布の異なることによる地理的隔離と遺伝的原因による生殖的隔離を区別して以来、現在もこの区分はほぼ踏襲されている。
 地理的隔離とは、ある生物集団の一連の生息地域が、大陸移動や島嶼(とうしょ)化、造山運動、砂漠や氷河の形成などが障壁になって、複数の集団(地域個体群)に分断される場合をいう。何が障壁になるかは、その生物の生活様式、とりわけその移動能力によっても異なる。ただし、いずれにせよ、これは外因であり、それが契機となって種形成がおこると、異所的種形成とよばれる。
 生殖的隔離は、交配前と交配後の過程にかかわる機構が区別されている。交配前(接合体形成前)の機構には、(1)生態的隔離 同じ地域にあって生息場所が異なることから生じる場合、(2)季節的隔離 生殖時期(たとえば植物の開花期)がずれることによって生じる場合、(3)行動的(性的)隔離 雌雄の配偶行動に親和性がない場合、(4)機械的隔離 雌雄の生殖器官に構造上の親和性が失われた場合、(5)配偶子不和合性 一方の配偶子が他方の生殖器官内で死滅する場合、などがあげられる。
 交配後(接合体形成後)の機構には、(1)雑種死滅・弱勢、(2)雑種不稔(ふねん)、(3)雑種崩壊 F2(孫世代)以降の死滅・弱勢、などが知られている。このような生殖的隔離の機構は、基本的には同所的種形成の原因となりうるものである。
 地理的隔離にはゾウガメの例がある。ガラパゴス諸島に分布し、その島名の由来にもなっているゾウガメはGeochelone elephantopusという同一種に属するが、甲らの形や色、肢(あし)や頸(くび)の長さなどの違いから15亜種に分けられている。各島にそれぞれ独自の亜種が分布(うち4島ではすでに絶滅)、最大のイサベラ島(アルベマール島)にはその五つの火山の山麓(さんろく)に5亜種がいる。これらの亜種は、甲らの前方がくびれ頸の長いタイプと、甲らがドーム形で頸の短いタイプに大別される。前者は乾燥地にいて、多少背の高い低木やウチワサボテンを食べている。後者は湿気の多い島にいて、草や背の低い低木を食べている。イサベラ島の火山はかつて独立した島であったとみられるので、これらの亜種は、おそらく南アメリカ大陸由来の祖先種がそれぞれの島に隔離され、その環境に応じて独自に分化したと考えられている。ダーウィンが最初にこの現象に注目して以来、これは地理的隔離の有名な例になっている。このように、初めに地理的隔離が生じる場合もある。
 もう一つ、北極を取り巻いて分布しているカモメ属Larusの例を示す。イギリス付近ではセグロカモメL. argentutusとコセグロカモメL. fuscusが重複して分布する。この2種は互いに交配可能ではあるが、自然状態では交配しないことが知られている。そして分布域の東へ行くほど、コセグロカモメよりもセグロカモメに類似した形質をもつ集団が互いに接して分布していて、それらは7亜種に分けられている。
 しかし、それらはかならずしも環境条件に対応した地理的勾配(こうばい)を示しておらず、行動・生態的な差異によって生殖的隔離が生じているとみなされている。そのような差異が生じた原因は、十分には解明されていないが、地理的隔離はここでは考えられない。
 新しい種(もしくは亜種)の形成には、集団の地理的隔離が必要な前提条件と考えられた時期もあったが、現実にそれでは説明できない例も数多くあり、同一地域でさまざまな隔離の生じた例は、かつて考えられていたよりははるかに多いとみられる。日本でも琵琶(びわ)湖のアユの分化の例がそうであるし、アフリカのビクトリア湖、マラウイ湖、タンガニーカ湖などには、湖が形成されてせいぜい数百万年の間に少数の祖先種から種分化してきた著しく多様な形態・生態を示すカワスズメ科の魚類がいる。これらは同所的種形成の仕組みについて豊富な示唆を与えるはずのものであろう。
 生殖的隔離は、生物学の概念としてはきわめて明確に定義されるが、現実に生息している生物集団において、それがどうなっているかを把握することは、かならずしも容易ではない。
 まして、多様な生物種の存在を維持してきた仕組みとなると、種の概念とともに生物学の基本に触れる奥深い問題といわねばならない。[遠藤 彰]

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