出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
江戸時代の音曲書。浄瑠璃詞章の版本として,浄瑠璃太夫の原本を正しく写したものの意。1634年(寛永11)4月刊の《はなや》に〈天下無双薩摩太夫以正本開之〉と記すものが最も古く,以来享保(1730年ごろ)まで刊行されている。この種のものは,1ページが17~18行の細字本で数葉の挿絵が入っているので,絵入細字本,絵入浄瑠璃本ともいわれる。音曲上の節付よりも筋を読ませることが主眼であったが,延宝期(1673-81)には挿絵がなく,太字で節付の入ったものが刊行されるようになった。《今昔操(いまむかしあやつり)年代記》が〈あまつさへけいこ本八行を,四条小橋つぼやといへるに板行させ,浄るり本に謡のごとくフシ章をさしはじめしは此太夫ぞかし〉と記すのは,宇治加賀掾が1679年(延宝7)に出した《牛若千人切》を指す。1710年(宝永7)には竹本筑後掾(竹本義太夫)正本《吉野都女楠(よしののみやこおんなくすのき)》の七行本が刊行された。このほか,六行本,九行本,十行本,十一行本,十二行本,これらの行数の入りまじった本などの種類がある。版元にもよるが,延宝期以後のものとしては,8行ないし7行のものが最も信頼のおける正本である。絵入の正本でなく,太字の正本を俗に丸本(まるほん)ともいう。1段だけの抜本に対し作品全部を収めた意である。義太夫節以外の浄瑠璃の各流派(一中節,河東節,常磐津節,清元節など)のものは,半紙本2,3丁のものから20丁ぐらいの薄い本があり,これを薄物正本(単に薄物とも)と呼ぶ。また長唄の詞章の部分を版行したものも長唄の正本と呼ぶ。そのほか,〈せりふづくし〉や流行歌の版本をも正本という。歌舞伎の脚本を台本,台帳と称するが,これを正本ということもある。
執筆者:鳥越 文蔵
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…広義には幸若舞(こうわかまい)の詞章を記した冊子のすべてをいうが,狭義にはそのうち,読み物として享受されるもののみをいう。演唱するための台本は正本(しようほん)といわれ,墨譜(ぼくふ)を付したものもある。狭義の舞の本は,奈良絵本の形態のものがあり,版本として36番をセットとして刊行されたものもある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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