フィールドワーク

デジタル大辞泉 「フィールドワーク」の意味・読み・例文・類語

フィールドワーク(fieldwork)

野外など現地での実態に即した調査・研究。野外調査
[類語]実習ゼミナールリハーサル練習らし下稽古したげいこ習練訓練特訓稽古けいこ温習おさらい演習トレーニングエクササイズレッスンゲネプロ寒稽古通し稽古舞台稽古立ち稽古稽古事鍛錬練磨練成修業修練教練試練

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精選版 日本国語大辞典 「フィールドワーク」の意味・読み・例文・類語

フィールド‐ワーク

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] fieldwork ) 学問の性質上研究室の外で行なう採集、調査、研究など。また、教育上の目的で行なう現場学習地質学生物学人類学考古学社会学などで重視される。野外調査。〔ニューギニア高地人(1964)〕

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大学事典 「フィールドワーク」の解説

フィールドワーク

フィールドワークとは]

今日フィールドワークという語は,人文社会科学や自然科学の別を問わず,各学術領域において多様な定義がなされており,一概に把握することは難しい。一方で,これらの複数の領域にまたがる共通した感覚も存在している。すなわち,野(=フィールド)における研究というニュアンスであり,書斎や図書館・公文書館,あるいは実験室などにおける屋内での研究と対比される,野外における学問的な営為を包括的に表している。

 フィールドワークの方法論を類型化するならば,まず人文社会科学系と自然科学系の二つに分けられる。後者においては,地質学や動物・植物学などにおいてみられるように,野外における現場観察や観測,各分野の方法論に基づいた調査法の実施という意味合いが強く,「野外科学」という語が当てはめられることもある。広義の科学が自然哲学(Natural philosophy)と博物学(Natural history)に大別された19世紀には,後者にとってフィールドワークを通しての標本の収集とその分類は,決定的に重要な手続きであった。

 人文社会科学系では,現地を訪れて行う社会調査という意味合いが強く,その調査法は関与型と非関与型に大きく分類できる。関与型(社会調査)は,いわゆる人類学的もしくは民族誌的な方法論を指し,現地社会の活動に参加したり,直接参加しないまでも密着取材を行うなど,現地の人々に何らかの関わりを持ったりするものである。一方,非関与型(社会調査)は,現地の人々とは直接的な関係を持たず観察を行うタイプ(現場観察)や,アンケートの配布や質問リストなどを用いた構造的なインタビューのようなサーベイ調査が含まれる(佐藤 1992年)

 本項目では,とくに近年その重要性が主張され,大学のカリキュラムに組み込まれてきた人文社会科学分野におけるフィールドワーク教育,とりわけ関与型の社会調査実習に焦点を絞る。

[人類学と社会調査]

狭義のフィールドワークは,文化人類学がその核として構築してきた方法論である。イギリスの人類学者マリノフスキー,B.K.による『西太平洋の遠洋航海者』(1922年)がその端緒となり,長期間の参与観察を通じて民族誌(エスノグラフィー)を作成するという研究の型が形成されていった。現地社会に長期間身を置き,現地の言語を習得し,人々との交流を通じて親愛(ラポール)関係を構築しながら,人々の生きる世界を「内から」理解するというこの方法論は,基本的には研究者が単独で行うものとして構築されてきた。一方で,社会学や民俗学人文地理学などにおけるフィールドワークは短期的(数日から数週間)なものも多く,かつ現場でのデータ収集に関しても人類学ほどに濃密な人間関係が必要とされないため,大学教育のカリキュラムにおける社会調査として適応可能なものとみなされてきた。人類学教育においても,後者に近い短期的な社会調査実習の方法が模索されてきている。

[大学での学習]

社会調査実習が大学教育で重視されるようになったことは,2008年に社会調査協会(日本)が設立され,社会調査士(日本)の資格認定に沿ったカリキュラムが多くの大学で採用されていることからも理解できる。近年のこの動きは,知識・技術・文献講読力などの習得から得られる教育的効果に並び,実際に現場で経験を積み重ね,自ら課題を見つけ,自ら情報を収集し,自ら問題解決に向けた方法を探し出すという,主体的で創造的な能力を伸ばす教育のあり方に着目が集まっていることと連動している。このような能動的な学習形態は,いわゆるアクティブ・ラーニングやPBL(Project-based Learning,課題解決型学習)教育の一つの潮流として捉えることができ,総合的で主体的な学習環境の構築が急務とされてきた。

[フィールドワークと地域貢献]

また,近年の「大学の地域連携・地域貢献」への期待が高まるなか,フィールドワーク教育のもたらす地域へのさまざまな効果が注目されてきた。地域社会にみられる多様な資源や文化事象に関する聞き取り・資料収集・記録・分析などを行う関与型のフィールドワークでは,地域住民も調査過程に大きく関与することになる。このことは,住民が自らの生活世界を客体化する契機を得るとともに,外部からやってくる他者との接触から生まれる刺激が精神的な活性化に結びつくことや,調査結果を応用することによる新たな地域開発の可能性にもつながる。また,継続的な大学の関与により,さまざまな立場を持ちうる住民の横断的な関係性が生み出されることになり,公共性が形成されるという側面もあるだろう。こうしたつながりの中から,次世代の地域社会の担い手が育成されていくという状況も期待されている。

[フィールドワーク教育の課題]

このようにフィールドワークは,大学における新たな教育的効果や,地域貢献などのプラスの面が強調される傾向にあるが,一方でその方法論や具体的な成果,社会還元に対する議論が蓄積されてきたとは言い難い。フィールドワーク教育はそれぞれの分野で,個別の教員の裁量に任されていることが多く,かつその経験が共有されてこなかった。また,「調査被害(フィールドワーク)」という言葉で示されるように,調査者と現地住民の間で生じるさまざまな軋轢や負の影響への対策や解決策も議論されるべき重要項目だろう。フィールドワークとは見知らぬ他者との間で構築されていく関係そのものが,調査者と被調査者の双方の「学び」の過程となることがその骨子である以上,関係構築に関する方法論や事後処理における,ある程度共有すべき調査倫理が構築されることが望まれる。
著者: 小西公大

参考文献: 佐藤郁哉『フィールドワーク―書を持って街へ出よう』新曜社,1992.

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