中国の刑罰体系。二つの意味がある。第1は《書経》《周礼(しゆらい)》など先秦時代の古典に現れる五刑であって,墨(いれずみ。黥(げい)ともいう),劓(ぎ)(はなきり),剕(び)(あしきり),宮(去勢),大辟(死刑)の5種類の刑罰をいう。第2は唐律以降,歴代の律に現れる五刑であって,笞(軽いたたき。10,20,30,40,50の5等),杖(重いたたき。60,70,80,90,100の5等),徒(強制労働。1年,1年半,2年,2年半,3年の5等),流(強制移住。2000里,2500里,3000里の3等),死(絞,斬の2等)という5種類20等の刑罰をいう。
執筆者:滋賀 秀三
日本古代の大宝・養老律令に継受された五刑は,唐律の流の区分を近,中,遠とするほかは,その体系は唐と変わらない。ただし,五刑二十等に対応する贖銅(しよくどう)の額は,徒3年以下は日唐ともに同じであるが,三流二死は養老律の方が唐律よりも多い。7世紀半ばの大化ころから中国の五刑が積極的に摂取されるが,他の刑にくらべて徒刑は最もおそく成立したもので,7世紀末の天武初年に至って初めて五刑の刑罰体系が整備された。
→死罪 →杖罪 →徒(ず)罪 →笞(ち)罪 →流罪
執筆者:小林 宏
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…7世紀半ばの大化期にはまだ徒刑は現れていないが,笞杖刑,流刑,死刑や盗犯に対する倍額賠償制等がみえ,それらには,中国律の影響がうかがわれる。 7世紀後半の天武朝初期に,日本に初めて唐律の五刑の刑罰体系が導入され,8世紀初頭の大宝・養老律令の制定に至って,その確立をみた。律の刑罰は,笞罪(ちざい),杖罪(じようざい),徒罪(ずざい),流罪(るざい),死罪の五刑二十等を主刑とし,このほか,加役流,人身の没官,移郷が主刑に準ずるものとしてあり,付加刑としては,贓物の没収,被害者への返還,損害賠償,官人に対しとくに科せられる除名(じよみよう),免官,免所居官等がある。…
…その詳細は知るべくもないが,《書経》の中の呂刑という篇が,そのおもかげを伝えていると思われる。都市国家内部にはあたかもギリシアのそれのごとく,支配階級たる士と,被支配階級たる庶民の対立が見られたが,呂刑にいうところの贖罪の制は士に適用さるべきもので,いわゆる五刑,すなわち肉体刑の五等は庶民に適用されたものと思われる。その五等とは,墨は顔に入れ墨すること,劓(ぎ)は鼻先を切りおとすこと,剕(ひ)は足を切ること,宮は男子の勢を去って中性となすこと,大辟は死刑である。…
※「五刑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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