精選版 日本国語大辞典「何と」の解説
なに‐と【何と】
[1] 〘連語〙 (代名詞「なに」に助詞「と」が付いたもの)
① 不定・不明の事物・事態を指示して連用修飾語とする。どういうことかと。どんなものかと。
※源氏(1001‐14頃)薄雲「心深き事どもの限りを、しおかせ給へれば、なにと分くまじき山伏などまで、惜しみきこゆ」
② 一例をあげて、それだけではなく、ほかにもいろいろあるという気持を含めていう。→助詞「なんと」。
※土左(935頃)承平四年二月二七日「かみの兄弟、また他人、これかれ酒なにともておひきて」
[2] 〘副〙
① 事態や人の行為・発言の実質的意味がよくのみこめない時、または自分のとるべき態度がわからない時の、疑惑・不安の念を表わす。どうしたことを。どんなふうに。
※蜻蛉(974頃)中「いかでかくは、なにとなどせさせ給ふに」
② 原因・動機などが不明な時の、疑念を表わす。どうして(…なのか)。なぜ(…なのか)。
※山家集(12C後)上「なにとかく心をさへはつくすらんわがなげきにて暮るる秋かは」
③ 相手の意見を打診する気持を表わす。どんなものか。いかが。
※謡曲・百万‐間狂言(1685)「これをおん目にかけ申さうと存ずるが、なにとござあらうずるぞ」
[3] 〘感動〙
① 相手の発言・行為が、ただちに納得しがたい時の、問い返したり確かめたりする言葉。なんだって。どうだって。
※謡曲・檜垣(1430頃)「暫らく、おん身の名をおん名のり候へ、なにと名を名のれと候ふや」
② 相手の肯定的な返答・応答を期待しながら、相手に話しかける言葉。どうだね。
※咄本・醒睡笑(1628)五「なにと下戸にて候や」
なん‐と【何と】
[1] 〘副〙 (「なにと(何━)」の変化したもの)
① 事物・事態の不明・不定なさま。どのように。どんなふうに。なんて。
※平家(13C前)二「縦人なんと申共、七代までは此一門をば争(いかで)か捨させ給ふべき」
② 動機・理由などへの納得・容認しがたい気持を表わす。どうして(…であろうか)。なぜ(…なのか)。
※浄瑠璃・平家女護島(1719)三「道を立義を立誠をつくす侍に、何と刃が当られう」
③ 相手の感情や反応をさぐる気持を表わす。どんなものか。
※雲形本狂言・萩大名(室町末‐近世初)「その上お暇まで下されたが、何(ナン)と嬉しうは思はぬか」
④ 名状しがたいほど程度のはなはだしいことを驚き、あきれる気持を表わす。まことに。
※虎明本狂言・文蔵(室町末‐近世初)「『なんとそれをくだされた』『中々』」
※鳩翁道話(1834)三上「なんと無分別ではない歟」
[2] 〘感動〙 相手の同意を期待しつつ呼びかけることば。どうだな。
※浄瑠璃・心中天の網島(1720)下「なんと伝兵衛、町人は爰が心易い」
なんな‐と【何と】
〘連語〙 (「なになりと」の変化したもの)
① 事物・事態を選択しないさまを表わす。どんなものでも。どんなことでも。
※洒落本・陽台遺編(1757頃)秘戯篇「何なと用が有ならいひなんせ」
② 何かしら。何か。
※あなづくし芝居見物見立相撲(1830‐44)「茶屋の女子が仕切りを通るたびに何なと言うて腹たててゐる人」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報