(読み)せん

精選版 日本国語大辞典 「先」の意味・読み・例文・類語

せん【先】

〘名〙
① 進んでゆく方向でまえに位置すること。また、順序でまえ。さきに立ってみちびくこと。先頭。さき。
※太平記(14C後)九「是為朝敵之最臣之道不命乎。又為神敵之先。為天之理不誅乎」 〔詩経‐小雅・正月〕
② 他よりさきんじて行なうこと。さきがけ。
※太平記(14C後)一五「機早なる若大衆共、武士に先をせられじとや思けん」 〔漢書‐英布伝〕
③ 先祖。祖先。父祖
※史記抄(1477)三「契は薛殷の先ぞ。后稷は周の先ぞ。伯夷は斉太公の先祖也」 〔書経‐太甲中〕
④ 囲碁・将棋などで、相手よりさきに始める方。または、囲碁で下手が常に黒を持ち先に打つ手合割。先手。
※源氏(1001‐14頃)手習「盤、取りにやりて、われはと思ひて、せんせさせたてまつりたるに」 〔酉陽雑俎‐語資〕
⑤ 現在のもののまえにその位置を占めたもの。さき。
※咄本・喜美賀楽寿(1777)法力「妙喜の神(しん)たくをききましたら、せんの女房の死霊だと申ました」
※足跡(1909)〈石川啄木〉「先(セン)の場所(ところ)へ列ぶのだ、先の場所へ」
⑥ 今は過去になっている時。まえかた。以前。
浮世草子小夜衣(1683)五「せんはさかねだりなる口舌(くぜ)御申かけ余りなる御事」
⑦ 「せんせい(先生)」の略。
黄表紙・高漫斉行脚日記(1776)上「せんの仰せらるるからは、正筆にいつわりあるべからず」
⑧ 「せんど(先途)」の略。
御伽草子梵天国(室町末)「さる程にここをせんとぞ吹き給ふ。姫君は聞召、中納言の笛の音と、聞知給へば」

まず まづ【先】

〘副〙
① 他のもの、他の事態より先んずるさまを表わす語。最初に。まっさきに。いちはやく。
※万葉(8C後)五・八一八「春されば麻豆(マヅ)咲く宿の梅の花ひとり見つつや春日暮さむ」
② 一つの意志・判断を、他のことをさしおいて表明しようとする気持を表わす語。何はさておき。ともかく。文頭に用いて、推量や命令の表現を伴ったり、以下の記述を略して用いたりする。
※落窪(10C後)四「まづかくなんと物し侍らむ、とて立てば」
狂言記七騎落(1660)「すでにさしちがへんせし所に〈略〉これは何事をしたまふぞ、まづとどまり給へと申ければ」
③ 自分の判断や主張を、恐らく正確であろう、そのような言い方で表現して大過あるまいと、吟味肯定する気持を表わす語。まあ大体。おおよそ。多分。
※俳諧・笈日記(1695)中「やまざくら瓦ふくもの先ふたつ〈芭蕉〉」
安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「まづ損はしねへつもりサ」
マイクとともに(1952)〈藤倉修一〉アメリカさん「どこへ行っても仕事に追われ、ゆっくり市内御見物などということはまずない」
④ (特に、否定的な表現を伴って) その事態が動かしがたいことを、いやだ、困ったことだ、などの気持を込めて強調する語。どうにもこうにも。いかにも。
今昔(1120頃か)二八「先づ心も得ぬ事なれば」

さきん‐・ずる【先】

(「先(さき)にする」の変化した語)
[1] 〘自サ変〙 さきん・ず 〘自サ変〙 他よりも先に進む。先行する。率先する。さきんじる。
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)公孫弘卜式児寛第二八「子は父に先て死る様なことはないぞ」
※五箇条の御誓文‐明治元年(1868)三月一四日「朕、躬を以て衆に先んじ、天地神明に誓ひ」
[2] 〘他サ変〙 さきん・ず 〘他サ変〙 ある物事を他よりも先に行なう。先手を取る。優先させる。さきんじる。
※史記秦本紀永万元年点(1165)「身、これを以て先(サキンシ)、僅かに以て小しき治れり」
社会百面相(1902)〈内田魯庵閨閥「渠奴(きゃつ)は女房より一歩を先んじて行く事を決して許されない」

さっき【先】

〘名〙 (「さき(先)」の変化した語) 時間的に少し前であることを表わす語。副詞的にも用いる。さきほど。今しがた。先刻。
※浄瑠璃・大原御幸(1681)二「扨はさっきは熊谷の直家とそれ程くさりあふたよな」

せん‐・ずる【先】

〘他サ変〙 せん・ず 〘他サ変〙 他人が行なう以前にことをする。先手をとる。先(さき)をこす。さきんずる。
※和泉式部日記(11C前)「ねたうせんぜられぬるとおぼして」

まんず まんづ【先】

〘副〙 「まず(先)」の変化した語。やや、俗っぽい言い方。
※説経節・説経苅萱(1631)中「おしゃう人はこのよしをきこしめし、まんすはみたりまさゆめを」

さきん・じる【先】

〘自他ザ上一〙 (サ変動詞「さきんずる」の上一段化したもの) =さきんずる(先)

せん‐・ず【先】

〘他サ変〙 ⇒せんずる(先)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「先」の意味・読み・例文・類語

さき【先/前】

元から遠い、突き出ている部分。先端。突端。「岬の―」「針の―で突く」「鼻の―」
長いものの末端。はし。「ひもの―」
続いているものなどの一番はじめ。先頭。「列の―」「みんなの―に立って歩く」
ある点や線を基準にして、その前方。「仙台から―は不通」「三軒―の家」「駅は目と鼻の―だ」「―を行く車に追いつく」
金額・数量などが、ある額・量を超えること。「千円から―の品はない」
継続している物事の残りの部分。「話の―を聞こう」「―を急いでいる」
行き着く所。目的の場所。「―へ着いてからのことだ」「行く―」
未来のある時点。将来。前途。「―を見通しての計画」「―の楽しみな青年」
時間的に前。あることより前。「代金を払うのが―だ」「ひと足―に帰る」⇔あと
10 現在からそう遠くない過去。以前。「―の台風の被害」「―の大臣」
11 順序の前の方。「名簿の―の方に出ている」「だれが―に入りますか」「お―にどうぞ」⇔あと
12 優先すべき事柄。「地震のときは何より火を消すのが―だ」「あいさつより用件が―だ」
13 交渉の相手方。先方。「―の出方しだいだ」
14 相場で、「先物」の略。
15 行列の先導をする役。さきおい。さきばらい。
「―なるをのこども、う、促せや、など行ふ」〈かげろふ・上〉
16先駆け」の略。先陣。
「内々は―に心を掛けたりければ」〈平家・九〉
17幸先さいさき」の略。
「其様な―の悪い事をおしゃるぞ」〈虎寛狂・河原太郎〉
[下接語]明かり先あてあと売り先売れ先襟先縁先生い先老い先おくみかい肩先かど気先切っ先口先下馬先玄関先剣先小手先の先さい潮先仕事先舌先しょう太刀先旅先使い先筒先勤め先つまつま手先出先手羽先得意先嫁ぎ先とつ届け先供先・取引先・庭先軒先刃先鼻先鼻の先馬場先春先筆先ペン先棒先ほこ穂先真っ先水先店先むな目先矢先やり行き先行く先指先(ざき)先先
[類語](1先端突端あたま末端先っぽヘッドはなはしっこ突先とっさき突端とっぱな一端いったん/(4まえ/(8あとのち後後あとあと後後のちのち先先直後事後その以後爾後じご以降今後将来未来近未来行く末末末前途向後自今来たる目先行く先行く手行く行く行方先行き生い先後年他年この後これから向こう

せん【先】[漢字項目]

[音]セン(呉)(漢) [訓]さき まず
学習漢字]1年
〈セン〉
空間的にいちばん前の方。「先端先頭先導先方
時間的に早い方。ある時点より前。また、最初。「先客先刻先妻先日先生先祖先着先輩先発機先祖先
今の一つ前。「先月先週先先代
碁・将棋で、先番。「先手せんて互先たがいせん
さきにする。さきんずる。「率先優先
(「」の代用字)突出している。「先鋭
〈さき〉「先棒先程後先
[名のり]すすむ・ひろ・ゆき
[難読]幸先さいさき先蹤せんしょう舳先へさき

さっき【先】

《「さき」の促音添加》時間的に少し前であること。先刻。さきほど。「さっきのことは謝る」「さっきから電話が鳴っている」「さっき聞いたばかりの話」
[類語]先程今しがた先刻最前先に今今たった今今時分今頃今どき今さらナウ

せん【先】

まえ。以前。昔。もと。「に会った人」「その話はから知っていた」
現在のものの前のもの。さき。「の場所から移した」
人よりさきに事を行うこと。さきがけ。
「―と仰せらるるに依って、愚僧から参らうか」〈虎寛狂・宗論
囲碁・将棋で、さきに打ちはじめるほう。先手。
剣道で、機先を制すること。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android