日常生活上は,文書の内容を認める意思表示として当事者が押す判を総称し,印,印形(いんぎよう),はんこなどと呼ばれる。印を押す行為を捺印(なついん)または押印といい,紙などの上に形成された押跡を印影という。しかし法律上はそのような道具は印鑑とは区別され,印章と呼ばれる。
法律上,印鑑とは,将来の対照用として官公庁,銀行等にあらかじめ提出しておく印影を意味する。契約書,官公庁への届書などのように,人の意思,意見などを文書に記載するとき文書の末尾に自分の氏名等を自筆したり(署名または自署),署名の末尾に捺印したり(署名捺印),あるいは印刷・ゴム印・他人の手書等で表示された氏名の文尾に捺印したり(記名捺印)することが行われる。欧米社会では署名がもっぱら用いられているのに対し,日本では慣行上ほとんどの場合に署名捺印または記名捺印が用いられ,単なる署名が用いられることはきわめて少ない。法律上は,自筆証書遺言(民法968条),戸籍の届書(戸籍法29条)などの場合は署名とともに捺印が要求されるが,他方,手形法・小切手法では署名が原則となっている。捺印による印影は,本人の意思確認と本人の同一性の証明という二つの機能を有している。すなわち,自分の意思等がその文書に記載されているときに限って捺印するのが通常であるから,逆に文書の上に印影が存在すれば,その文書は本人の意思等を記載したものと考えることができる。民事裁判ではこの点に着目して,契約書その他の私文書に捺印がなされているとき,本人の印による捺印であるならば,本人の意思等が記載された文書と推定され,証拠として一定の評価を受ける(民事訴訟法326条)。また,捺印に当たっては本人が自己の印を使用するのが通常であるから,文書上の印影と本人の印による印影とを,後日対比することによって本人であることの同一性を判断することができる。しかし,後者の機能は往々にして不完全である。なぜなら,1人の人間が複数の印を持つこともあるし,他人の氏名等を彫った印を購入することも可能だからである。
そこで,これを補強する目的で印鑑証明制度が設けられている。印鑑証明は居住地の市町村長(東京都においては区長。以下同じ)が行うものであって,制度の内容は各市町村の条例によって定められる。最近では多くの市町村において印鑑証明制度に代わって,印鑑登録された印影をそのままコピーし,登録された印影の形状を証明する印鑑登録証明制度(その証明書を印鑑登録証明書という)が採用されているが,両制度の目的は同一である。公正証書の作成の場合には6ヵ月以内に,不動産登記の場合には3ヵ月以内に発行された印鑑証明書または印鑑登録証明書が必要である。このようにして印鑑登録された印を一般に実印と呼び,それ以外の印である認印と区別され,実印はもっぱら重要な取引上の文書または手形・小切手の振出し等に限って使用されることが多い。なお,印および印影の社会における重要性の見地から,その偽造および不正使用は印章偽造罪あるいは印章不正使用罪として刑事罰の対象となる(刑法167条)。
執筆者:栗田 哲男
実印として登録できる印鑑の規定は,各市町村の条例によって若干異なる。一般に,住民票に記載されている氏名以外の名や事項を入れたもの,印面の大きさが不適とされるもの(例えば,25mm四方に収まらないか,または8mm四方に収まるもの),変形しやすい合成樹脂やゴム製のものなどは登録できない。法人の印には,代表者印,社印,割印などがある。代表者印は登記所(法務局)に提出する印鑑で個人の実印に相当し,社名と代表者の役名を刻したものが多い。登記できる大きさは10mm以上30mm未満と規定されている。社印,組合印,官公職印などは四角形が多く,角印とも呼ばれる。特殊な印章として,書画に押す落款印や蔵書印があるが,これらは印鑑とは呼ばれない。印材は,銅,石,水晶,陶,象牙,スイギュウの角,木,合成樹脂,ゴムとさまざま。良材の条件としては,適度の硬さと粘りがあって細かい彫刻がしやすいことや丈夫で磨耗に強いことがあげられ,一般に象牙,スイギュウの角,ツゲが好まれる。日常事務用にはツゲ,合成樹脂,ゴム印の需要が大きく,機械彫や押型成型によって生産されている。機械彫が可能になって,手彫のできる職人が年とともに少なくなり,手彫に稀少価値がでている。印章は通信販売,外交販売の需要が大きいため,正確な全国生産量は把握されていないが,産地として有名な山梨県は70億円(1981)の生産額を誇り,全国の半分を占めるといわれている。
→印章 →署名 →拇印
執筆者:山田 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
印影(印を押したあとの形)の真否を確かめるために、官庁、公署、取引先などに届けておく印影をいう。印鑑証明のためにあらかじめ市町村に届け出ておく印鑑(実印)が代表的なもので、重要な取引に必要となる。そのほか、郵便貯金、銀行預金の場合などのように通帳に押すものもある。なお、一般には印形(いんぎょう)(はんこ)そのものをも印鑑ということが多い。日本では西洋におけるサインと同じように押印が用いられる。もっとも、私法上、印を押すことが要求される(押印がなければ無効という形で)場合は少なく(遺言状など)、通常の契約などでは、契約書に印を押していなくても、本人の意思さえあれば契約は有効に成立する。印が押されていても、それが認め印(実印以外の印)であると、本人がその印を否認する場合もおこるが、実印の場合は印鑑証明によって本人の本当の印であることが証明されるという便宜がある。
[高橋康之・野澤正充]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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