拵える(読み)コシラエル

デジタル大辞泉 「拵える」の意味・読み・例文・類語

こしら・える〔こしらへる〕【×拵える】

[動ア下一][文]こしら・ふ[ハ下二]
ある材料を用いて、形の整ったものやある機能をもったものを作り上げる。また、結果として不本意なものを作ってしまう。「弁当を―・える」「藤棚を―・える」「家を―・える」「こぶを―・える」
手を加えて、美しく見せるようにする。化粧したり衣装を整えたりして飾る。「顔を―・える」「身なりを―・える」
工夫を巡らし、ないことをあるかのように見せかける。「話を―・える」「うわべを―・える」
手を尽くして、必要なものを整える。用意する。「頭金を―・える」
友人愛人などを作る。「女を―・える」
なだめる。とりなす。
「―・へ聞こゆるをも、つらしとのみおぼされたれば」〈夕霧
計画する。
「かねて―・へたることなれば、走りまはりて火をかけたり」〈義経記・八〉
作る[用法]
[類語]作る築く仕立てる形作る作り出す作り上げる仕立て上げる誂える

こさ・える〔こさへる〕【×拵える】

[動ア下一]《「こしらえる」の音変化》「こしらえる」の俗な言い方。
「家で―・えた柏餅を提げて」〈嘉村途上

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「拵える」の意味・読み・例文・類語

こしら・えるこしらへる【拵・慰・喩・誘】

  1. 〘 他動詞 ア行下一(ハ下一) 〙
    [ 文語形 ]こしら・ふ 〘 他動詞 ハ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] あれこれ言って聞かせ、こちらの意図通りに相手の気持を変化させる。
    1. いろいろとなだめて気持を落ち着かせる。なだめすかす。なぐさめる。話して気持をとりなす。
      1. [初出の実例]「天皇聞(きこ)しめして大きに驚(おとろ)いて朕過(あやま)ちたりと曰ひて、因りて皇后の意(みこころ)を慰(やすめ)(コシラヘ)たまふ」(出典:日本書紀(720)允恭七年一二月(図書寮本訓))
    2. 話して納得させる。説明して同意させる。
      1. [初出の実例]「侍従かはゆくおぼえて、さまざまこしらへ制止ければ」(出典:御伽草子・あしびき(室町末))
    3. 方便をもって誘う。てだてを構えて教え導く。
      1. [初出の実例]「誘誨 上音畏訓古之良布 下音化訓教也」(出典:新訳華厳経音義私記(794))
      2. 「はからざるに、まどひにいりにしかば、我、はうべんにて、かくはこしらへたる也」(出典:古本説話集(1130頃か)六〇)
    4. うまいことを言って、その気にさせる。適当なことを言って、だましたり、なだめたりする。いいつくろう。
      1. [初出の実例]「偽乗を以て物に与ふるが故に名づけて欺と為。此を用て他を誘(コシラフル)は之を称して誑と為」(出典:法華義疏長保四年点(1002)四)
      2. 「第一芸子には、こしらへて客をはめるといふ方便(てだて)なく」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)二)
  3. [ 二 ] 意図するところを満足させるために、方法、技術、工夫などの手段を尽くし完成させる。
    1. 人為的なてだてをめぐらして、うまくいくように工夫する。
      1. [初出の実例]「和琴は、かの大臣許こそ、かく折につけて、こしらへなびかしたる音など、心にまかせてかき立て給へるは」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    2. 心中で、物事段取りを考える。計画する。たくらむ。仕組む。
      1. [初出の実例]「十郎権頭〈略〉かねてこしらへたる事なれば、走りまはりて火をかけたり」(出典:義経記(室町中か)八)
    3. ある目的のために、あらかじめ用意しておく。準備する。
      1. (イ) 工夫し、計画してしたくする。あれこれと考えてととのえる。
        1. [初出の実例]「太刀のみのよきをも、征矢の尻のかねよきをも、鎌倉殿の御ためとこそこしらへもって候つれ共」(出典:平家物語(13C前)一二)
      2. (ロ) 金銭を用に足りるようにととのえる。金銭の工面をする。金策する。
        1. [初出の実例]「かねをこしらへ質やへぞゆく 心ざす別時の布施はいかばかり〈友治〉」(出典:俳諧・鷹筑波(1638)三)
      3. (ハ) 飲食物を用意する。料理する。
        1. [初出の実例]「則物ども持たせてきたりければ、食物どもなどおほかり。馬の草まで、こしらへ持ちてきたり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)九)
      4. (ニ) 女郎を呼ぶ手はずを整える。女郎を呼ぶ用意をする。
        1. [初出の実例]「『たしかお初とやらサ、拵(コシラ)へてくんねへ』『わっちゃァ、まだ近付てなへが、夫(そ)んならマアきゐて、まいりやしょう』」(出典:洒落本・寸南破良意(1775)息子株)
    4. あれこれ工夫して、形あるものに造りあげる。製造する。
      1. [初出の実例]「さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかにゆひて参らせたりけるが、思ふやうに廻りて」(出典:徒然草(1331頃)五一)
    5. 構えを作る。構築する。建設する。組み立てる。
      1. [初出の実例]「平家は舟を二三重にこしらへたり」(出典:延慶本平家(1309‐10)六本)
    6. 飾る。装飾する。よそおう。
      1. (イ) 顔や身なりなどをよそおう。身じたくをする。身づくろう。
        1. [初出の実例]「よめ合(あはせ)のざしきへいでんとこしらへ給ふ」(出典:御伽草子・鉢かづき(室町末))
      2. (ロ) 役者が扮装(ふんそう)をする。
        1. [初出の実例]「『其出家の役を見事せふか』『成程致しませふ』『そんならこしらへよ』『畏りました』」(出典:歌舞伎・傾城壬生大念仏(1702)上)
      3. (ハ) 修復する。また、表面をとりつくろう。
        1. [初出の実例]「跡見ぐるしからぬやうにこしらへ候へとて」(出典:御伽草子・秋月物語(室町時代物語大成所収)(室町末))
    7. 友人、愛人などを得る。
      1. [初出の実例]「男といふものは、〈略〉是非一人か二人情人(いろ)をこしらへずには居なひヨ」(出典:人情本・英対暖語(1838)三)

拵えるの語誌

( 1 )室町時代以降、多く「拵」の字が用いられているが、中国では、「据える」「挿む」等の意味しかなく、なぜこの字をあてたのかは明らかではない。
( 2 )室町時代ごろからヤ行下二段活用も見られる。→こしらゆ(拵)
( 3 )未然形連用形の「こしらえ」が、変化して、「こしらい」となっている例も見られる。「花の咲たる花の木をうえて花の林をこしらひ、花ちれば又ほりすつと云」〔俳・隺芝〕、「自宅で甘い物はいくらも喰べやうけれど親のこしらいたは又別物」〔十三夜樋口一葉〉上〕など。


こせ・えるこせへる【拵】

  1. 〘 他動詞 ア行下一(ハ下一) 〙 ( 「こしらえる」が変化した「こさえる」が更に変化した語 ) =こしらえる(拵)
    1. [初出の実例]「頭巾がわるくなったからのヤ、小裁(こぎれ)をめつけたら拵(コセヘ)よう拵ようと思った所」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)前)

こさ・えるこさへる【拵】

  1. 〘 他動詞 ア行下一(ハ下一) 〙 「こしらえる(拵)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「向島か根岸で御隠宅を拵(コサ)へてもよろしう御座いますから」(出典:花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉中)

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