(読み)キ

デジタル大辞泉 「綺」の意味・読み・例文・類語

き【綺】[漢字項目]

人名用漢字] [音]キ(呉)(漢)
美しい模様を織りなした絹。あや絹。「綺羅
飾り立てて美しい。「綺語綺麗
巧みに織りなすこと。「綺譚・綺談
[補説]「」を代用字とすることがある。
[名のり]あや

き【×綺】

かんはた(綺)」に同じ。
「桜のからの―の御直衣」〈・花宴〉

かん‐はた【×綺】

《古くは「かむはた」と表記》日本古代の織物の名で、幅の狭いひも状の織物。横糸に色糸を用いて織り縞を表している。朝服の帯や経巻の巻きに使われている。

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精選版 日本国語大辞典 「綺」の意味・読み・例文・類語

き【綺】

  1. [ 1 ] 織物の名。錦に似た絹織物で、白の生糸(きいと)の生地に金糸五色の糸をまぜ、こまかな模様をうかせ織りにしたもの。かんはた。
    1. [初出の実例]「角別秘錦領、以綺為界」(出典:大和法隆寺文書‐天平宝字五年(761)法隆寺縁起并資財帳)
    2. 「桜のからのきの御直衣、えび染めの下がさね」(出典:源氏物語(1001‐14頃)花宴)
    3. [その他の文献]〔沈約‐洛陽道・楽府〕
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 糸をたばねたものを数えるのに用いる。
    1. [初出の実例]「宗祇 原様二帖送之。唐糸一綺遣之」(出典:実隆公記‐文明一九年(1487)二月八日)

かん‐ばた【綺】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「かむはた」と表記。「かんはた」とも ) 錦に似た薄い絹織物。帯、紐の類に用いる。かにはた。〔十巻本和名抄(934頃)〕

綺の語誌

奈良時代の「新訳華厳経音義私記‐上」には「綺 訓加尼波多」とあり、平安時代のカムハタの訓はこの「カニハタ」の変化形とも考えられている。その後は「観智院本名義抄」も第三音を濁音としており、カムバタという訓があったことがわかる。


かに‐はた【綺】

  1. 〘 名詞 〙かんばた(綺)
    1. [初出の実例]「騰暉綺 上音登、訓挙也、暉音貴、訓照也、綺音奇、訓加尼波多」(出典:新訳華厳経音義私記(794))

かむ‐はた【綺】

  1. 〘 名詞 〙かんばた(綺)

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普及版 字通 「綺」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 14画

[字音]
[字訓] あやぎぬ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は奇(き)。奇に奇邪の意があり、斜めの文様の交錯する、綾織りの綸子(りんず)の類をいう。〔説文〕十三上に「(ぶんそう)なり」とあり、ひら織りにみられない美しさをもつので綺麗といい、他に及ぼして綺・綺楼のようにいう。

[訓義]
1. あやおり、あや、あやぎぬ、綸子(りんず)。
2. うつくしい、きらびやか。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕綺 阿也(あや) 〔和名抄〕綺 一に於利毛能(おりもの)と云ひ、、加无波太(かむはた)と訓す 〔名義抄〕綺 カムバタ・オリモノ・イロフ・クム・キ 〔字鏡集〕綺 クム・タテ・ウルハシ・オリモノ・カンハタ・カトリ・イロフ・マシフ・ヌキアヤ・メクル・マウ・イヨイヨ

[熟語]
綺衣・綺雲・綺・綺・綺宴・綺霞・綺・綺閣綺檻・綺観・綺・綺機・綺衾綺纈・綺戸・綺語・綺縞・綺合・綺・綺才・綺歳・綺錯・綺思・綺詩綺襦・綺習・綺・綺情・綺食・綺飾綺縟・綺井・綺席・綺節・綺船・綺・綺組・綺藻・綺・綺談・綺帳・綺年綺陌・綺幕綺靡・綺美綺媚・綺紛・綺夢・綺文・綺紋・綺羅・綺綾・綺寮・綺麗・綺楼・綺綺綰
[下接語]
雲綺・華綺・霞綺・煥綺綺・錦綺・軽綺・結綺・綺・紅綺・黄綺・細綺・綵綺・散綺・珠綺・綺・綺・青綺・清綺・繊綺・組綺・綺・談綺・紵綺・雕綺・白綺・文綺・碧綺・明綺・羅綺・蘭綺・綾綺・緑綺

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改訂新版 世界大百科事典 「綺」の意味・わかりやすい解説

綺 (き)

の古名で,単色の紋織物をさす。中国では古く戦国時代にすでに〈綺〉の名称があり,《戦国策》鮑彪の注には〈綺は文様のある繒(かとり,上質の平絹)〉とある。また《漢書》地理志の顔師古の注に〈綺は今日いう細かい綾〉とあり,元の《六書故》に,綺は彩糸で文様を織りだした錦に対し,単色で文様をあらわした織物であることが記されている。現存する作例,例えば馬王堆1号漢墓その他の出土例から古代の綺の特色を見ると,ほとんどが平地の経の浮紋織,あるいは平地の経綾の紋織になっている。したがって綾のなかでも最も素朴な平地のものを特に〈綺〉とする考え方もある。一方,日本では《和名抄》に〈一におりもの,一にかむはたと訓み,錦に似た薄い織物〉とあることから,上代裂のなかでも比較的簡単な錦類,例えば法隆寺献納物宝物のうちの〈平地浮文錦〉や正倉院にある織幅の狭い〈段文錦〉(緯縞裂)など織紐状の裂を〈かんばた〉とみなしている。特に綺を紐状の織物と解釈するのは《東大寺献物帳》において巻子の緒に〈綺帯〉と記されたもののあることや,《日本書紀》持統4年4月の条の朝服に関する記載のうちにも同じく〈綺帯〉の名称があることによっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「綺」の意味・わかりやすい解説


かんばた

これを「き」とも読むことがあるが、現在の中国で呼称されている「綺」とは、織技のうえでその定義を異にしている。中国では、『説文解字(せつもんかいじ)』などの解釈から、漢代の出土織物に「綺」あるいは「漢綺」組織として当てはめているものは、平織の一部を文様部分のみ浮かせたもので、わが国の近世にみられる「紗綾(さや)」に相当するものである。「かむはた、かんはた(神機)」からの転訛(てんか)ともいわれ、日本古代の織物の一つとして文献に散見しているものは、細長い織紐(おりひも)の形をしたもので、緯糸(よこいと)に色糸を用いて織縞(おりしま)を表していることが特徴である。『日本書紀』持統(じとう)紀の朝服(ちょうふく)の帯をはじめとして、奈良時代の『正倉院文書』には、写経した「経巻(きょうかん)」の巻緒(まきお)に使われているため、その売買取引の状況が明らかになるし、正倉院蔵の紐類にもそれと断定される織紐が蔵されている。また古代の倭文布(しずり)が、すじおりとすることから、横縞の織物としては同様のものであったとみられる。また広義に解釈するならば、細幅のものに対して広幅のものも存在したことになる。奈良・平安時代の文献に綺(かんはた)という名称の織物がみられるが、緯に色糸をつかって文様を織り出した、いわゆる緯錦(よこにしき)の系統の織物をさしているとの説があるが、文献と一致するものかどうかについては疑問である。

[角山幸洋]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「綺」の解説


いろい

干渉すること,口出しや手出しをすること。同じ意味の語に口入(くにゅう)があるが,言論による介入を価値中立的に意味する口入に対し,綺は実力による干渉を非難の意をこめてよぶ。所領所職に対する他人の介入を非難する文脈で用いられることが多い。現在でも方言として残る。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【絹織物】より

…山西省南東部の夏県西陰村の彩陶遺跡から出土した半個の繭殻と紡錘車や,江蘇省呉江県梅椻鎮北東の袁家埭遺址から出土した黒陶にみられる蚕の文様などから,今日では新石器時代における絹の生産が推定されている。紀元前1300年ころの殷代の甲骨文には〈桑・蚕・糸・帛〉などをあらわす文字が認められ,また当代の青銅製鉞(えつ)に付着した絹片によって,平絹や平織地に浮糸で文様をあらわした紋綺の存在が知られる。戦国時代の絹織物は,湖南省長沙,湖北省江陵,アルタイ東部のパジリクなどから平絹,綺,帛画(描絵),錦,刺繡などが発見されている。…

※「綺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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