国家行政組織法に基づき、厚生省設置法によって設置された国の行政機関。1938年(昭和13)に設置され、2001年(平成13)の中央省庁再編により、労働省とともに厚生労働省に統合された。
厚生省は、社会福祉・社会保障および公衆衛生の向上・増進に関する国の行政を担当し、総じて、国民の生活権や生存権(憲法25条)の保障と実現にかかわる重要な行政機関の一つであった。このような任務の具体的内容は、国民の保健、薬事ならびに麻薬および大麻の取締り、社会事業・災害救助その他国民生活の保護指導、児童および母性の福祉の増進、社会保険に関する事務・事業(ただし労働省の所管に属するものを除く)、国民年金に関する事務・事業、人口問題に関する事務、となっており、加えて、引揚援護、戦傷病者・戦没者遺族・未帰還者留守家族等の援護、および、旧陸海軍関係者の復員などの残務整理などであった。
内部部局として、大臣官房のほか、健康政策局、保健医療局、生活衛生局、医薬安全局、社会・援護局、老人保健福祉局、児童家庭局、保険局、年金局が置かれ、施設等機関として、社会保障・人口問題研究所、国立感染症研究所、検疫所、国立病院、国立療養所、国立がんセンター(現、国立がん研究センター)、国立医薬品食品衛生研究所などが置かれ、さらに審議会等として、中央社会保険医療協議会、社会保険審査会、中央社会福祉審議会、中央薬事審議会などが設置されていた。なお、地方支分部局として、地方医務局(7か所)および地区麻薬取締官事務所(8か所)が、また外局として社会保険庁があった。
2001年以降、中央省庁再編により、厚生省の組織は次のように再編された。内部部局に関しては、大臣官房の有する機能のほとんどが、厚生労働省の大臣官房に引き継がれたが、その一部は、厚生労働省の内部部局である政策統括官に引き継がれ、社会・援護局、保険局、年金局については、厚生労働省の内部部局としてそのまま引き継がれ、健康政策局、保健医療局、医薬安全局、老人保健福祉局は、厚生労働省の内部部局である医政局、健康局、医薬局、および老健局にそれぞれ引き継がれ、生活衛生局については、廃棄物行政に関するものは環境省に、それ以外のものについては、厚生労働省の内部部局である健康局、医薬局に引き継がれた。また、児童家庭局については、労働省の女性局と統合され、厚生労働省の雇用均等・児童家庭局に引き継がれた。施設等機関に関しては、国立病院、国立療養所等については、厚生労働省の施設等機関にそのまま引き継がれ、審議会等に関しては、中央社会福祉審議会は、中央児童福祉審議会などとともに、厚生労働省の審議会等である社会保障審議会に、中央薬事審議会は、食品衛生調査会とともに厚生労働省の薬事・食品衛生審議会に引き継がれたが、中央社会保険医療協議会や社会保険審査会は、そのまま厚生労働省の審議会等として従来の機能を引き継いだ。また社会保険庁に関しては、厚生労働省の外局として置かれ、従来の機能を引き継いだ。
[福家俊朗・山田健吾]
社会的弱者のための社会福祉,年金・医療保険等の社会保障および公衆衛生水準の維持向上等を任務とする行政機関。旧内務省(1873設置)の社会局および衛生局の業務を分離・独立させて1938年1月設置された。当初,労働行政をも担当していたが,この部分は47年9月に労働省として分離・独立した。
その内部組織は大臣官房,健康政策局,保健医療局,生活衛生局,薬務局,社会・援護局,老人保健福祉局,児童家庭局,保険局,年金局からなっており,これに加えて外局として社会保険庁がある。健康政策局は,保健医療制度の企画,医師その他の医療関係者の身分および業務の指導監督,医療機関・医療機器・保健所等保健医療に関する行政制度面の事務を担当する。保健医療局は,各種疾病予防と健康の増進,国立病院・国立療養所等の設置運営など保健医療に関する事業面を担当する。生活衛生局は興行場,旅館,理美容所その他の環境衛生関係営業に関する行政や食品衛生,水道,廃棄物処理を担当する。薬務局は医薬品をはじめ医薬部外品,化粧品,医療用具等に関する行政のほか,毒物および劇物,麻薬などの行政も担当している。社会・援護局は社会福祉一般,生活保護,および引揚者や戦没者遺族・戦傷病者等に対する援護を,老人保健福祉局は老人保健の向上および老人保健施設等を,児童家庭局は児童福祉,母子福祉を担当している。保険局は医療保険(健康保険,国民健康保険)の制度面を,年金局は年金(厚生年金保険,国民年金等)の制度面をそれぞれ担当し,医療保険,年金保険の事業運営面の実務については社会保険庁がいずれも担当している。なお,地方医務局(7)等の地方出先機関や国立病院,療養所,検疫所,社会保障・人口問題研究所等の付属機関,22に及ぶ審議会等が置かれている。2001年の省庁再編により,労働省と統合されて厚生労働省となった。
執筆者:八木 俊道
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1938年(昭和13)1月11日発足した国の行政機関。満州事変に始まる戦時体制下,結核が増加の一途をたどったため,戦争遂行の観点から陸軍省が1937年5月衛生省案を提出したことが発端となり,翌6月成立の第1次近衛内閣は保健社会省(仮称)設置要綱を閣議決定。これに対し枢密院では社会という文字を不適当とする委員もあり,「書経」に語源を求めて厚生省となったという。「国民保健,社会事業及労働ニ関スル事務ヲ管理」するものとされた。戦後の厚生省は49年5月の厚生省設置法によるもので,「社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を図ることを任務」とする。2001年(平成13)1月,中央省庁再編により労働省と統合して厚生労働省となる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…戦時色が強くなっていくなかで,国民の体位向上に努力,強兵健兵対策に尽くした。厚生省誕生にあたって大きな力を注ぎ,その設立の功労者で,41年から3年間厚生大臣となったが,医師出身としては最初の厚生大臣で,結核の予防・撲滅など衛生行政に貢献した。陸軍軍医学校軍陣衛生学教室を中心に,化学兵器,日射病,栄養,産業衛生などの研究を行った。…
※「厚生省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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