法律が権利・義務の主体として認めた団体や目的財産をいう。権利を得たり義務を負担するのは,通常は人(自然人)である。しかし近代的取引社会においては,人の集団である団体(社団)や一定の目的のために捧げられた財産(財団)そのものが取引主体として現れ,これを権利・義務の帰属点として扱う必要性が生じてきた。
法人の性質については,これを法律によって特別に擬制された法的人格者と考える説を〈法人擬制説〉という。これに対し,法による擬制ではなく自然人のほかに法的主体たる実体を備えた団体が,実在するのだとする説を〈法人実在説〉という。
法人は,その実体が,人を構成要素としているか,財産を構成要素としているかによって大きく分けられる。人を構成要素とするものが社団法人であり,財産を構成要素とするものが財団法人である。株式会社は,株主という人を構成要素とする社団法人ということができる。法人はまた,その目的によって,公益を目的とする公益法人,営利を目的とする営利法人,さらに,構成員の福利を目的とする団体のように,営利も目的としないが公益を目的とするともいえないような中間的な法人(中間法人)とに分けられる。このような中間的団体は,特別法がない限り法人となることはできない。労働組合法(11条)によってとくに法人格を認められている労働組合のほか,消費生活協同組合,農業協同組合などの各種協同組合などがこれにあたる。
法人を設立するためには,法律が要求する要件と手続が必要である(民法33条)。公益法人については主務官庁の許可が必要であるが(34条),営利法人については,法律の要求する要件を具備する組織体を作れば当然に法人として認められる(商法52条)。前者を許可主義,後者を準則主義という(要件を満たしているかどうかは設立登記の際に審査される)。このほか,日本銀行などのように,法人設立のために個別的に法律を制定する特許主義,そのほか,国の政策的見地から種々の設立の方式がとられている。国や地方公共団体も法人であるが,これらは法律上当然に法人とされており,これを当然設立主義とよぶこともある。
法人は,その機関である理事(株式会社にあっては取締役)によって外部的行為を行い,また内部の事務の執行を行う。複数の理事の間では,通常1名に代表権を集中することが行われる(理事長,代表取締役など)。
社団法人にあっては,社員総会が存在し(株式会社にあっては株主総会),これが社団法人の最高の意思決定機関である。これに対し,財団法人にあっては,人の集団ではないため社員総会は存在しないが,通常,理事の諮問機関としての評議員会が設けられ,これが社員総会に近い機能を果たしていることが多い。
法人の代表者が外部と取引した場合,法人自体が買主となり売主となるように,代表者には一度も権利・義務は帰属せず,直接法人に権利・義務が帰属する。代表者が,その職務を行うにつき他人に損害を加えた場合,法人が損害賠償義務を負うが(民法44条1項),それを行った代表者も同時に損害賠償義務を負うと解されている。もっとも,法人の目的の範囲外の行為をしたときは,法人の行為とはいえず,権利・義務は法人に帰属しないというべきである(43条)。しかし,目的の範囲内かどうかについては,一般に広く解され,目的の遂行に適当な範囲内の全般にわたるとされている。代表者の行った不法行為につき,外形的にみても目的の範囲内とはいえない場合については,議決に賛成した社員や行為を行った理事等が連帯して責任を負う(44条2項)。
なお,日本の法律に従って設立された法人を内国法人(日本法人),そうでないものを外国法人と一般によび,外国法人の中で商事会社や国や行政区画(地方自治体)は,日本国内で法人としての活動が認められるが(これを外国法人の認許とよぶ),それ以外のものは,特別の法律か条約がない限り,日本での法人活動は認められない(36条)。
→外国会社 →人
執筆者:鍛冶 良堅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
自然人(個人)でなくて、法律上の権利・義務の主体とされているもの。社会において法的活動を営むものは、自然人だけではない。一定の目的のために結合した人の団体(社団)や一定の目的のために捧(ささ)げられた財産の集合(財団)も、ある種の法的活動を営む。このような社団または財団に法的人格を付与し、権利・義務の主体となることを認めたものが法人である(民法34条)。
[淡路剛久]
法人の本質については、近代法律学上多くの論争があった。ある者は、法人は国家によって単に法律上の目的のために人為的に擬制されたものでしかない、とした(法人擬制説)。他の者は、法人の社会的実在を否定し、それは多数主体者の法律関係を単一化するための技術でしかない、とした(法人否認説)。さらに、他の者は、法人の社会的実在を認め、そこから法人のさまざまな法律関係を導き出すべきことを主張した(法人実在説)。法人実在説が通説とされるが、さらに一歩を進めて、それぞれの説は、法人のある一面を述べているのであるから、その実在としての側面、および法技術としての側面をそれぞれ明らかにしていくべきだ、という学説も有力である。
[淡路剛久]
法人格の担い手が人の集合(社団)であるか財産の集合(財団)であるかに応じて、社団法人と財団法人とに区別される。また、公益を目的とするものを公益法人(民法33条2項、公益法人認定法に基づく公益社団法人および公益財団法人)、営利を目的とするものを営利法人(会社)、公益も営利も目的としないものとして、一般社団法人、一般財団法人があり、さらに公益も営利も目的とせず、特別法によって設立される中間法人(各種協同組合、労働組合など)もある。所在地という観点からは、日本に主たる事務所を有し、日本の法律に従って設立されるものを内国法人といい、それ以外を外国法人という。また、公権力の行使を主たる目的とし(たとえば、国や地方公共団体など)、あるいは、特定の行政目的のために設立される法人(たとえば、公共組合、公団、公庫など)を公法人といい、それ以外の法人を私法人という。
[淡路剛久]
法人の設立については、特別の法律を必要とする特許主義(日銀など)、設立に許可を要する許可主義(公益法人認定法に基づく公益法人)、一定の要件に合致していれば設立される準則主義(一般法人、会社)、自由に設立できるとする自由設立主義(日本では認められていない)、などがある。
[淡路剛久]
法人はその機関を通じて活動する。代表機関としては理事(公益法人の理事、株式会社の代表取締役など)があり、これがすべて法人を代表する。理事は他方、法人の対内的業務をも行う。意思決定の機関としては、社団法人には社員総会(株式会社では株主総会)、財団法人には、理事会、評議委員会がある。
[淡路剛久]
法人は解散により、清算段階(財産の整理をする段階)に入り、消滅する。
[淡路剛久]
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…たとえば,日本に入国する自由や,国の政策決定またはその実施に影響を及ぼすような政治活動の自由は外国人には保障されない(1978年の最高裁判例)。 法人も人権の享有主体である。もともと人権は個人すなわち自然人の権利領域を国家の侵害から守るために主張され,そのようなものとして保障されたのであるが,社会の組織化が進み,法人その他の団体が活動の単位として社会に占める地位の重要性が増大するにつれ,人権の法人への適用がはかられるようになる。…
…ここでは法律上の〈人〉について記述する。 法律上の,人とは広義には自然人natürliche Person(われわれのような生物学的存在)のほか法人juristische Personをも含めて,権利義務の主体をさすが,狭義には自然人のみをさす(ドイツ民法第1編第1章の〈人〉は広義,フランス民法第1編の〈人〉と日本民法第1編第1章の〈人〉は狭義)。自然人たると法人たるとを問わず,権利義務の主体(人)として法的に承認されていることの意味は,その名において財産権を取得してこれを保有し,当該の財産権の侵害に対しては国家裁判機関の助力を得て強制的にこれを排除しうることである。…
※「法人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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