(読み)カ(その他表記)mosquito

翻訳|mosquito

デジタル大辞泉 「か」の意味・読み・例文・類語

か[副助・終助・並助・係助]

[副助]種々の語に付く。
(疑問語に付いて、または「…とか」の形で)不確かな意を表す。「どこで会った」「彼も来ると言っていた」
疑いの気持ちで推定する意を表す。「心なし顔色がさえないようだ」「気のせい彼女のひとみがぬれているように思われる」
(「かもしれない」「かもわからない」の形で、または「かも」の形で終助詞のように用いて)不確かな断定を表す。「急げば間に合うもしれない」「やってはみるが、だめもわからないからね」
[終助]文末にある種々の語に付く。
質問や疑問の意を表す。「君も行きます
反語の意を表す。「いいかげんな意見にどうして賛成できよう
難詰・反駁はんばくの意を表す。「そんなこと知るもの
勧誘・依頼の意を表す。「そろそろ行こう」「手伝っていただけません
(多く「…ないか」の形で)命令の意を表す。「はやく歩かない」「よさない
驚きや感動の気持ちを表す。古語では、多く「も…か」の形をとる。「だれかと思ったら、君だったの」「なかなかやるじゃない
「浅緑糸よりかけて白露をたまにもぬける春の柳―」〈古今・春上〉
引用した句の意味やある事実を確かめ、自分自身に言い聞かせる意を表す。「急がば回れ」「そろそろ寝るとする
[並助]
(「…か…か」または「…か…」の形で)いくつかの事物を列挙し、その一つ、または一部を選ぶ意を表す。「午後からは雨雪になるでしょう」
「都へのぼって、北野―、祇園―へ参ったとみえて」〈虎明狂・目近籠骨〉
(「…かどうか」「…か否か」の形で)疑いの意を表す。「公約が実現されるどう」「資格があるが問題だ」
(「…か…ないかのうちに」の形で)ある動作と同時に、または、引き続いて、別の動作の行われる意を表す。「横になるならないのうちに、もういびきをかいている」
(「…か何か」「…かどこか」「…か誰か」の形で)最初の「か」の上にある語と類似・同類のものである意を表す。「ライター火をつける物を貸して下さい」「喫茶店どこで話をしませんか」
[係助]体言・活用語の連体形・連用形、副詞、助詞などに付く。上代では活用語の已然形にも付く。
文中にあって係りとなり、文末の活用語を連体形で結ぶ。
㋐疑問を表す。
「かかる道はいかで―いまする」〈伊勢・九〉
㋑反語を表す。
桃李たうりもの言はねば、たれとともに―昔を語らむ」〈徒然・二五〉
文末用法。
㋐疑問を表す。
石見いはみのや高角山の木の間よりわが振る袖をいも見つらむ―」〈・一三二〉
㋑反語を表す。
「心なき鳥にそありけるほととぎす物思ふ時に鳴くべきもの―」〈・三七八四〉
㋒(「(も)…ぬか」「(も)…ぬかも」の形で)願望の意を表す。…てくれないものかなあ。
「わが命も常にあらぬ―昔見しきさの小川を行きて見むため」〈・三三二〉
[補説]の「か」は、係助詞「や」と違って疑問語を含む文にも用いられる。中世後半になり、係り結びが行われなくなるとともに両者とも本来の性質を失い用いられなくなり、「か」は副助詞、さらに江戸時代以降は並立助詞としての用法も一般化する。また、「か」は「や」の衰退に伴ってその文末用法を拡大し、現代の終助詞としての用法に引き継がれている。

か[接尾]

[接尾]状態・性質を表す語または語素に付いて、そのような状態・性質であることを表す。多く、さらにその下に「に」または「だ(なり)」を伴って、副詞または形容動詞として用いられる。「さだ」「しず」「のど」「いささ

か[五十音]

五十音図カ行の第1音。軟口蓋の無声破裂子音[k]と母音[a]とから成る音節。[ka]
平仮名「か」は「加」の草体。片仮名「カ」は「加」の偏。
[補説]歴史的仮名遣いの合拗音「くゎ」は現代仮名遣いでは「か」と書く。「くゎじ(火事)」は「かじ」、「くゎがく(科学)」は「かがく」など。

か[接頭]

[接頭]主として形容詞に付いて、意味を強め、語調を整える。「弱い」「細い」「黒い」

か[副]

[副](主に「かく」と対比した形で用いられ)あのように。
「上つ瀬に生ふる玉藻は下つ瀬に流れ触らばふ玉藻なす―寄りかく寄り」〈・一九四〉

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精選版 日本国語大辞典 「か」の意味・読み・例文・類語

  1. [ 1 ] 〘 係助詞 〙
    1. [ 一 ] 文中にあって「係り」となり、文末の活用語を連体形で結ぶ。
      1. 連用語を受け、疑問あるいは反語の意を表わす。
        1. [初出の実例]「新治(にひばり) 筑波を過ぎて 幾夜(カ)寝つる」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「なでう物をなげき侍るべき」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「已然形(+ば)」「形容詞語幹+み」「未然形+ば」等、条件文を構成する種々の形式を受けて疑問の意を表わす。上代では「ば」を伴わない已然形を直接受けるものが圧倒的に多いが、中古以後は常に「ば」を伴う。
        1. [初出の実例]「この御酒を 醸みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸みけれ(カ)も 舞ひつつ 醸みけれ(カ)も」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「須磨の海人の塩焼き衣の馴れなば(か)一日も君を忘れて思はむ」(出典:万葉集(8C後)六・九四七)
    2. [ 二 ] 文末用法。
      1. 体言または活用語の連体形を受け、疑問あるいは反語の意を表わす。口語では終助詞とする。
        1. [初出の実例]「みまし親王の齢の弱(わか)きに荷重きは堪へじ(カ)と念ほし坐(ま)して」(出典:続日本紀‐神亀元年(724)二月四日・宣命)
        2. 「かしは木に葉守りの神はまさずとも人ならすべき宿のこずゑ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)柏木)
      2. 已然形を受けて反語の意を表わす。「万葉」の東歌のみに見られる。
        1. [初出の実例]「大船を舳(へ)ゆも艫(とも)ゆも堅めてし許曾の里人顕さめ(カ)も」(出典:万葉集(8C後)一四・三五五九)
      3. 「ぬか」「ぬかも」の形で用いられ、願望の意を表わす。上に助詞「も」のあることが多い。→補注( 1 )
        1. [初出の実例]「筑波嶺に 廬(いほ)りて 妻なしに わが寝む夜ろは 早も明けぬ(カ)も」(出典:常陸風土記(717‐724頃)信太・歌謡)
      4. 形式名詞を受け、反語の意をもって下に続く。この「か」、あるいは上の形式名詞をも含めて接続助詞とする説もある。中世以後の用法。
        1. [初出の実例]「春の帰るのみ。此の間相馴し。少年も春とともに帰るぞ」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
  2. [ 2 ] 〘 副詞助 〙
    1. ( 疑問の意を表わす係助詞の用法[ 一 ][ 一 ]から転じて )
      1. (イ) 不定の意を表わす。
        1. [初出の実例]「若故人の来りもやせんと思て」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
        2. 「御用にたてばわたくしも、なんぼう嬉しいもの」(出典:浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下)
      2. (ロ) 対等の関係に立つ語を受けて、選択の意を表わす。橋本文法では並立助詞とする。
        1. [初出の実例]「其人が死するうするすればやむるぞ」(出典:史記抄(1477)九)
        2. 「けふあすは戻られふ」(出典:浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)中)
    2. しか〔副助〕
      1. [初出の実例]「僕はその女のところへ行った。一円二十銭なかった女はそれでも、とめてくれた」(出典:浅草(1931)〈サトウハチロー〉留置場の幽霊)
  3. [ 3 ] 〘 終助詞 〙
    1. 文末において体言または活用語の連体形を受け、詠嘆を表わす。古代では、文中の「も」と相応ずることが多い。
      1. [初出の実例]「庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥(カ)」(出典:古事記(712)上・歌謡)
      2. 「君がため折れるかざしは紫の雲に劣らぬ花のけしき」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
    2. 文末の連体形、または述語に用いられた体言を受け、疑問の意を表わす。近世以後の用法。→補注( 2 )
      1. [初出の実例]「湯はいくらだ。十文」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前)
    3. 文末において打消の語を受け、願い、誘い、同意を求める気持などを表わす。近世以後の用法。文語の「ぬか」の系統をひくもの。→[ 一 ][ 二 ]
      1. [初出の実例]「吉原はまだできず、いっそ今から品川へおいでなされません」(出典:洒落本・婦美車紫(1774)高輪茶屋の段)
    4. 人名の下に付いて、呼びかけの意を表わす。江戸時代の上流語。
      1. [初出の実例]「彌寿(常のことばなら、彌寿やとよぶ所なれども、此よめはいまだおやしきの詞うせぬゆゑ、やすか彌寿かと、かの声によぶなり)」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)

かの補助注記

( 1 )[ 一 ][ 二 ]の用法は、否定的な疑問の形によって相手に問いかけながら、相反する肯定的結果を期待し希望している点において、反語用法であるといえる。
( 2 )[ 三 ]の用法は近世以前にもあるが、中世までは文中にあって疑問文を構成する係助詞の用法が存するので、文末疑問表現の場合も、係助詞の文末用法として扱う。→[ 一 ][ 二 ]


か【か・カ】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第二行第一段(カ行ア段)に置かれ、五十音順で第六位のかな。いろは順では、第十四位で、「わ」の次、「よ」の前に位置する。現代標準語の音韻では、軟口蓋の無声破裂音 k と母音 a との結合した音節 ka にあたり、これを清音の「か」という。これに対して、「か」に濁点をつけた「が」は、軟口蓋の有声破裂音 g の結合した音節 ga に用いられるが、語頭以外において ga の代わりに現われる、軟口蓋の通鼻破裂音 ŋ の結合した音節 ŋa にも用いられる。すなわち「が」は、ga と ŋa の二種の音節に用いられる。ga ŋa を合わせて「か」の濁音といい、特に ŋa について鼻濁音の「が」という。鼻濁音の「が」を特に示す必要があるときは、濁点を一点にし、または半濁点゜を用いることがある。ga と ŋa は、概略に見て相補う分布を示し、意味の違いには全く関係がないので、音韻論上これを二種のものとは見ないこともできる。「か」の字形は「加」の草体、「カ」の字形は「加」の左部に基づく。ローマ字では、清音に ka を、濁音に ga をあてる。

  1. 〘 副詞 〙
  2. あり得る事態を観念的、限定的にとらえて、それを指示する。「か…かく…」と対(つい)にして用いることが多い。ああ。こう。→かにかくとかにかくにかにもかくにも
    1. [初出の実例]「賀(カ)もがと 我(わ)が見し子ら、かくもがと 吾(あ)が見し子に うたたけだに 向かひ居るかも い副ひ居るかも」(出典:古事記(712)中・歌謡)
  3. 身に近い事態を現実的、限定的にとらえて、それを指示する。こう。→かばかりかほど

  1. 〘 接頭語 〙 主として、形容詞の上に付いて、語調を整え、強める。「か弱い」「か細い」「か黒い」など。
    1. [初出の実例]「例ならひにければ、かやすく構へたりけれど、かちより歩み堪へがたくて、より臥したるに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)

かの補助注記

「万葉‐五一二」の「秋の田の穂田の刈ばかか寄り合はばそこもか人の吾(わ)を言なさむ」の「か寄り合はば」などを例に、動詞にも接するともいわれるが、この例の「か」は「かく」と同じ副詞とも考えられる。


  1. 〘 接尾語 〙 情態的な意味を表わす語、または、造語要素に付いて、そのような情態であることを表わす。多くは、さらに「に」、または「だ(なり)」を伴って、情態副詞または形容動詞として用いられる。また、「やか」「らか」という形の接尾語として用いられることも多い。「あえか、いささか、おおろか、おもりか、おろか、さやか、しずか、なよよか、にわか、はるか、ほこりか、ほのか、みやびか、ゆたか」など。

  1. 〘 名詞 〙 ( 片仮名で「カ」と表記する ) 数を表わす通り符丁。生糸商人仲間で二、遊芸人仲間で四、魚商人仲間で五、乾物・雑穀商人仲間で六を、それぞれいう。〔特殊語百科辞典(1931)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「か」の意味・わかりやすい解説


か / 蚊
mosquito

昆虫綱双翅(そうし)目糸角亜目カ科Culicidaeの昆虫の総称。全世界で約2500種、日本には103種が知られている。触角は15節よりなる多節構造で、各節に輪毛をもつ。口吻(こうふん)は針状で、頭部下面より前方に突出している。はねの膜質部は一様に透明であるが、翅脈は鱗毛(りんもう)で密に覆われ、その毛の色彩がはねの斑紋(はんもん)のようにみえるものがある。外形がカ科の種類と似ているものに、ホソカ科、フサカ科、ユスリカ科などがあるが、これらは真のカではなく、いずれも口器が長大でなく吸血できないので容易に区別できる。

 日本産のカはハマダラカ亜科Anophelinae、オオカ亜科Toxorhynchitinae、ナミカ亜科Culicinaeに分けられる。ハマダラカ亜科は腹部腹板と、ときに背板の多くに鱗片を欠き、小楯板(しょうじゅんばん)後縁が丸く、小顎肢(しょうがくし)が口吻とほぼ同長、雄では先端が太くなることにより他の亜科と区別される。オオカ亜科は大形で、体に青、緑、紫などの美しい光沢をもち、口吻は長く先細りで下後方に強く曲がっていて、雄の小顎肢は口吻と同長であり、雌の小顎肢は短い。小楯板の後縁は丸い。ナミカ亜科は中・小形のカで、体色は黒色、暗褐色、赤褐色、黄色などさまざまであり、口吻はほぼ先端まで同じ太さで先端が折り返しになっていない。小楯板の後縁は3小葉に分かれる。

 ハマダラカ亜科はハマダラカ属Anophelesなど3属よりなり、一般にアノフェレス蚊とよばれ、熱帯や亜熱帯地方ではマラリアを媒介する重要種を含むが、温帯地方や日本では種類も少なく、日本ではマラリアはほとんど消滅してしまったので、アノフェレス蚊がいても問題はない。オオカ亜科はオオカ属Toxorhynchites1属で代表され、北海道以南、九州にはトワダオオカT. towadensisが、南西諸島にはヤマダオオカT. yamadaiがみられる。訪花性で人畜を吸血しない。幼虫は樹洞などに発生する他のカの幼虫を捕食するので益虫である。ナミカ亜科には、ナガハシカ属Tripteroides、ギンモンカ属Topomyia、カギカ属Malayaをまとめたナガハシカ族と、コブハシカ属Mimomyia、ヌマカ属Mansonia、キンイロヌマカ属Coquillettidia、チビカ属Uranotaenia、ナガスネカ属Orthopodomyia、ムナゲカ属Heizmannia、ヤブカ属Aedes、クロヤブカ属Armigeres、ハボシカ属Culiseta、イエカ属Culexなどのナミカ族がある。このうちアカイエカなどを含むイエカ属とネッタイシマカなどを含むヤブカ属が種類も多くきわめて衛生上重要である。

[倉橋 弘]

生態

カは、卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫の順に一生を過ごす完全変態をする昆虫である。雌成虫はすべて吸血性。産卵性で、胎性のものはない。卵は長楕円(ちょうだえん)形ないしバナナ形のものがほとんどであるが、ハマダラカ属では両側に浮嚢(ふのう)をもっている。イエカ属やヌマカ属などでは卵塊として水面に産み落とされ、数百個の卵が縦に美しく並び舟形に浮かんでいるので、これを卵舟(らんしゅう)という。ハマダラカ属やヤブカ属では1個1個ばらばらに産み落とされる。ことにハマダラカの卵は水面に美しい花紋様を描いてばらまかれる。ヤブカ属は水面すれすれの場所に産卵し、卵は水面が高くなって水に浸されると孵化(ふか)するが、水が干上がってしまっても乾燥に耐え、ふたたび水に浸されると幼虫が孵化してくる。このグループには卵越冬するものが多く、この場合卵は数か月間の乾燥状態を経たあとに孵化することができる。

 イエカ属の卵は夏の気温で2日ぐらいで孵化する。幼虫はボウフラとよばれる水中生活者で、水中を体をうねらせて上下に動き、水面や水底で餌(えさ)をとって成長し、4回脱皮したのちに蛹になる。幼虫は1齢から5齢まで脱皮のつど大きさや形がすこし変化するが、いずれも黒褐色で脚(あし)はなく、尾端に呼吸管をもち、これを水面に出し、頭を下げて呼吸するものがほとんどである。ハマダラカ属では呼吸管がなく、気門は尾端に直接開口しているので、幼虫体は呼吸中水面に平行に浮かぶ。ヌマカ属では呼吸管の鋸(のこぎり)で水草の根などをほぐして、先端部の鉤(かぎ)でこれに止まると同時に呼吸鱗(りん)が飛び出し、水中の溶存酸素を吸収する。蛹は黒褐色で勾玉(まがたま)形、大きな楕円形の頭胸部に腹部を折り曲げて水面に浮かんでおり、尾端に1対の遊泳片があり、胸背に1対の呼吸角が突出しており、これを水面に出して呼吸する。この形からオニボウフラともよばれる。蛹は活発に動き回ることが可能であるが、餌はとらない。蛹から数日のうちに成虫が羽化する。成虫は、蛹の頭胸部背面が水面で縦に裂け、頭部から胸と順に脱出して羽化が完了するが、まだ成虫は未熟で、軟弱なうえに体色も淡く、体を水面や水辺の物体に止まらせ、しばらく静止して、体が硬化するのを待って飛び立つ。雄の交尾器は腹端にあってしばらくは未熟のままであるが、やがて腹面の先端部が180度回転して上向きになる成虫の正常な位置にくると、交尾が可能となる。雄成虫は吸血せず交尾まで植物の蜜(みつ)や樹液を吸って生存する。雌は吸血によりタンパク質を摂取し卵を発育させるが、無吸血産卵(オートジェニー)をする種類や系統もある。

 吸血の多くは脊椎(せきつい)動物から行われるが、カの種類によって嗜好(しこう)性が異なり、コガタアカイエカシナハマダラカのように大形の動物、ウシ、ウマ、ヤギなどを好むものや、アカイエカ、カラツイエカのように鳥類を好むものがあるほか、カエルから吸血するコガタクロウスカや、ヘビやトカゲの爬虫(はちゅう)類を襲うフトシマフサカなどがあるが、疫学上重要なものは人嗜好性の強い種類である。成虫はとくに空腹時に、動物の呼気中の二酸化炭素に引き付けられ、さらに皮膚から発散するにおいに引き寄せられるという。雌の産卵は幼虫の好む水界に選択的に行われる。アカイエカは汚水域に、ヒトスジシマカは小形容器内の雨水に、コガタアカイエカやシナハマダラカは水田に行われる。成虫の吸血活動は日周性がはっきりしており、活動時間も種類によって異なる。ヤブカは日中活動性で、とくに夕方にピークがみられる。コガタアカイエカは日没直後と夜明け前に多く活動し、アカイエカは深夜にピークがみられる。

[倉橋 弘]

疫学

カは吸血活動の際、人を刺し、皮膚に疼痛(とうつう)やかゆみ、発赤を生ずるほか、アレルギー体質の人では発熱など全身症状を引き起こし不快害虫としてもその筆頭に位置するが、さらに特別の種類は人類の病気の病原体を刺咬(しこう)の際に媒介する伝染病媒介者(ベクター)として医学上たいへん重要である。熱帯、亜熱帯にこの疾患は多く、熱帯病の研究にはカの生態研究は不可欠である。マラリア(病原体はプラスモディウム)はハマダラカによって媒介され、象皮病(フィラリア糸状虫)をネッタイイエカ、トウゴウヤブカが媒介し、デング熱、黄熱病(アルボウイルス)をネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。これらの病原体はカの体内の組織で増殖し、唾液腺(だえきせん)を経て刺咬の際、人に感染する。

[倉橋 弘]

駆除

根本的な対策は発生源をなくすることである。ボウフラの育っている水界を発見し、排水したり掃除したりし、必要があれば適当な濃度の殺虫剤を効果的に定期的に散布する。成虫対策として家屋への侵入を防ぐため網戸を設置するほか、蚊帳(かや)を使用して刺されないようにする。除虫菊の蚊取り線香、電気蚊取り器などの蒸散剤利用も家庭で使用すると効果がある。大規模な防疫対策では機動力をもって大量の有機リン剤、ピレスロイド剤の散布や残留噴霧を行う必要があるが、自然環境への影響、環境の殺虫剤汚染は重大な問題であるので慎重な配慮が必要である。淡水魚のグッピーなどをボウフラ退治に放流するなど、天敵利用の生物学的防除も新しい手段である。野外での作業時にジエチルトルアミドを含むリペレント(忌避剤)を体に塗るのも簡便で、短時間ではあるが刺咬されない効果がある。

[倉橋 弘]

民俗

高僧が封じ込めたためにカがいないという習俗が、各地にある。奈良県山辺(やまべ)郡には、弘法(こうぼう)大師が大石の下にカを封じ込めたので、カが1匹もいないと伝える村がある。カの多い少ないは日常の関心事で、カの多い理由を説く伝説もある。奈良県の伝えでは、人間の生き血を吸うのが好きな文武(ぶんぶ)王という怪人を、生駒(いこま)山の岩屋に閉じ込めておき、1か月後にあけると、王が何万とも知れぬカとなって飛び出したので、カが多いという。一般に日本では、「酒呑童子(しゅてんどうじ)」など、殺された鬼の死体がカになったといい、その鬼の祟(たた)りで人間を刺すと伝える。ノミやシラミなどの人体を刺す昆虫の起源とともに説かれることもある。

 カが悪魔などの死体から生じたとする伝えは世界各地にあり、北海道のアイヌでも、魔神を焼いた灰からアブやカやブヨが生じたという。中国でも、焼かれた怪物や悪女の灰からカが生まれたといい、インドでも、殺された悪魔の骨を空に投げたらカになったという。シベリアの諸民族にも同じ伝えがあり、オスチャーク・サモエードでは、夏になると、人間を苦しめ続けるといいながら焼き殺された人食い鬼の灰からカが生じるという。

[小島瓔

『加納六郎・田中寛著『医動物学』(1966・績文堂)』『佐々学編『蚊の科学』(1976・北隆館)』『栗原毅著『蚊の話』(北隆館新書)』



五十音図第2行第1段の仮名。平仮名の「か」は「加」の草体から、片仮名の「カ」は「加」の偏からできたものである。万葉仮名では「加、架、迦、賀、嘉、可(以上音仮名)、蚊、鹿、香(以上訓仮名)」などが清音に使われ、「我、蛾、俄、峨、河、何、賀(以上音仮名のみ)」などが濁音に使われた(「何、賀」は清濁両用)。ほかに草仮名としては「(可)」「(閑)」「(家)」「(我)」「(駕)」などがある。

 音韻的には/ka/(濁音/ga/)で、奥舌面と軟口蓋(こうがい)との間で調音される無声破裂音[k](有声破裂音[g])を子音にもつ。ただし、中国、四国、九州および紀伊半島南部、愛知、新潟、群馬、埼玉、千葉県などの地域以外では、自立語の語頭以外の/g/の位置に、[ŋ]または[ŋg]が現れるが、近年、東京語などでは、この発音が失われつつある。

[上野和昭]

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改訂新版 世界大百科事典 「か」の意味・わかりやすい解説

カ (蚊)
mosquito

双翅目カ科Culicidaeに属する約3000種の昆虫の総称。ハマダラカ亜科Anophelinae,ナミカ亜科Culicinae,オオカ亜科Toxorhynchitinaeの3群に大別される。この中でオオカ亜科のカはいずれも大型で(翅長7~9mmくらい),吸血の機能を欠き,幼虫は他のカの幼虫を捕食する性質をもつ。日本には山地の樹洞などに生息するトワダオオカがいる。他の亜科のカは,大部分が翅長3mm前後と小さいが,吸血性をもつため古くから注目されていた。とくに19世紀末より,フィラリア症,マラリア,黄熱などの伝染病を伝播(でんぱ)していることがわかり,研究が促進されるにいたった。

 カの成虫は,一般に果物の汁や花のみつなどの糖分を主たるカロリー源としており,吸血は雌の卵巣発育のためにのみ必要で,雄は吸血しない。吸血源となる動物は,哺乳類のほかに鳥,両生類,爬虫類などが一般的だが,カの種により好みもある。吸血活動をする時間帯も,種によって昼,日没前後,夜間など特徴がある。空腹時の体重(5mgくらい)と同じ,またはそれ以上の血を一度に吸うが,日本の夏の気温だと3~4日でそのすべてを消化し,その間に卵巣を発達させ,300粒余もある一群の卵を産む。雌成虫は,こうして生涯に数回の吸血,産卵を繰り返す。吸血をする口器は7本の弁で構成されたパイプである。吸血源の皮膚に口器を刺すと,すぐに血液の凝固防止のために唾液を注入する。この唾液注入がわれわれにかゆみを覚えさせるし,またこのときにウイルスやマラリア病原体などがいっしょに注入される。したがって疾病の伝播は吸血に付随してのみ起こる。

 成虫は羽化後早い時期に交尾をする。雌には貯精囊があり精子を保存していて,産卵の際1卵ずつ受精する。卵は1ヵ所に卵塊をつくって産むもの,あるいは数卵ずつ何ヵ所にも分けて産むものなど種により異なる。産卵場所の選択も,水田や広い沼,路傍の水たまり,タケの切株などさまざまな場所の広さ,流れの有無,水質とくに有機物の多少などの諸条件が種によって少しずつ違う。なかには湿地に産卵し,大雨で沼の水位が高くなったときに孵化(ふか)する種もある。卵は日本の夏なら1~2日間で幼虫,いわゆるボウフラ(孑孑)になる。流れのよどんだ溝,河岸や海岸の岩のくぼみにたまった水,水田,空缶,手洗鉢などの水をひしゃくですくうと幼虫が採集できる。幼虫の餌も種により異なるが,多くは雑食性である。水面で餌をとる種,水底に潜ってとる種もある。体の末端の呼吸管を水面に出して呼吸をする。1週間くらいのうちに4回目の脱皮をするとさなぎになり餌をとらなくなる。さなぎは胸背部に1対の呼吸管があって,その先端を水面に出して呼吸する。さなぎは通常オニボウフラといわれている。1~2日で背が割れて成虫が羽化してくる。

 このような生活史を熱帯地方のカは一年中繰り返している。日本では春から秋にかけて数回繰り返し,冬は種により,卵,幼虫,または雌成虫期で越す。山岳地方や寒帯のカは,卵で冬を越し,雪どけ水で幼虫期を過ごして年1回だけ真夏に成虫が出現する。こうしてカは北極点から200kmしか離れていないツンドラ地帯まで分布しているが,その種類数は熱帯地方で断然多い。日本でも記録されている総種数が約100種,このうち広大な北海道からは20種が知られているが,はるかに小さな沖縄県で64種が見いだされている。

カの駆除法は,状況,目的によりさまざまである。溝の流れをよくし,古タイヤや空缶のたまり水をなくすことが原則だが,除去できない水域は殺虫剤をまいたり,ボウフラを食べる魚(カダヤシなど)を放したりする。成虫対策には,殺虫剤を屋内壁面にあらかじめ噴霧しておいて壁に止まるカを殺す屋内残留噴霧法や,微粒子の殺虫剤を空中にまいて殺すULV法などが,カ媒介病流行地で大規模に施行されたりしている。しかしわれわれの健康に影響を与えるのは,人吸血嗜好性が強く多数刺しにくる一部の種である。駆除の対象とする種を明確にして対応する必要がある。
イエカ →ハマダラカ →ヤブカ
執筆者:

英語,フランス語で蚊を表す語mosquito,moustiqueは,いずれもラテン語のmusca,すなわちハエから,スペイン語,あるいはポルトガル語を経由してできたものである。フランス語ではうるさく,しつこい人物を指すこともあり,英語では小型の飛行機や舟,ボクシングの最軽量級など,軽快で小さいものをモスキートと形容する。なお,日本には狂言に《蚊相撲》という作品がある。太郎冠者に連れられて,新参の家来となった江州守山の蚊の精である若者が,大名と相撲をとるというもので,擬人化された蚊が登場する珍しい曲目として知られている。
執筆者: 日本語の〈カ(蚊)〉は総名で,夏季に群飛して人や動物の血を吸う細小な昆虫をいう。ブヨまたはブトと呼ばれる微細な羽虫で人の目に飛び入るものも一括してカと呼ぶ地方もあり,夜間室内に入って刺すもの,つまり通常の蚊をヨガカとして別称する土地もある。これを追うためには煙が有効な手段で,山野で労働する者は古布を固く巻いて糸で縛り,点火して腰に下げその煙で蚊を追い,また黒布で眼部だけ出して頭部を包みこれを防いだ。和歌,俳句などにも蚊柱,蚊帳(かや),蚊やりなどを詠じたものが多く,日本の春から秋までの生活と切り離せぬ風物であった。ことに蚊帳は近世以後生活必需品として普及し,九州から中部・関東地方の村にはゆい,すなわち労力交換の共同作業で女がつくり,仕上がると集まって餅を共食するカヤマツリという習慣があった。これは男の家づくりに当たる大仕事だという。九州から南西諸島では死者の棺を蚊帳の中に安置する土地があり,喪屋の略式ではないかと考えられている。中世にはマラリアを媒介するハマダラカも多く,鎌倉時代には京の貴族階級にもこの患者が多数発生していたようである。当時は天水田が多く,蚊の繁殖が多かったからで,近世灌漑方式の発達に伴ってこの病気も減じた。
執筆者:


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普及版 字通 「か」の読み・字形・画数・意味


8画

[字音] カ(クヮ)

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 会意
戈+(けき)。〔説文〕三下に「踝(くるぶし)をつなり」とするが、はものを奉ずる形。戈を奉ずるのは何らかの儀礼を示すとみるべく、殷器の〔(ふくきゆう)〕に「に上(まつり)す」という語がある。また周初の〔麦尊〕に「(諸)臣二百家」とあって、そのような儀礼の奉仕者であろう。その儀器をもといったらしく、周器の〔県(けんきき)〕に「の弋(ひつ)(、戈の柄あるもの)」を賜与することがみえる。文献にみえない字で、〔説文〕にその字を収める経緯を知りがたい。

[訓義]
1. くるぶしをうつ。
2. 古代のまつりの名。上帝をまつる。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕 ツブシウチ・コヱ



19画

[字音] カ(クヮ)

[説文解字]

[字形] 形声
声符は咼(か)。〔説文〕十上に「喙なり」とあり、〔爾雅、釈畜〕には「白馬脣は(せん)なり。喙はなり」という。その〔注〕に「今、淺色なるを以て馬と爲す」とみえる。

[訓義]
1. くちさきの黒い、黄色の馬。
2. 浅黄の馬。
3. 蝸と通用し、かたつむり。

[古辞書の訓]
立〕 カゲノマ・ムマ 〔字鏡集〕 カゲノウマ

[熟語]

[下接語]
・白・疲・驪・六


12画

[字音] カ(クヮ)

[説文解字]

[字形] 形声
声符は咼(か)。籀文(ちゆうぶん)の字形は(か)に従う。〔説文〕十二下に「古のの女、物をするなり」と、(化)の声義を以て解する。伏羲・女の創生神話は南方苗系の伝承するところで、ともに蛇形の神像とされる。

[訓義]
1. じょか。神話上の創造神の名。

[熟語]

[下接語]
・皇・女・神・聖・霊


10画

[字音] カ(クヮ)

[説文解字]
[金文]

[字形] 会意
禾(か)+皿(べい)。〔説文〕五上に「味をふるものなり」とし、禾声の字とするが、金文の字形に禾に(手)を加える形のものがあり、器中に禾を加え、酒を注ぐなどして、酒味を調える酒器である。銘文にとしるした器があって、その形態と器用とを知ることができる。殷器には雄偉の作が多く、根津美術館に蔵する三器一肆のは、特に著名である。

[訓義]
1. 酒器。か。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕 アツモノ



11画

[字音] カ(クヮ)

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(華)(か)。〔説文〕九下に「山なり。弘農陰に在り」という。五岳の一、西岳。漢碑にはなおの字を用いるが、のち多くを用いる。

[訓義]
1. 山の名。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕 シゲシ・サカンナリ

[熟語]



22画

[字音] カ(クヮ)

[字形] 形声
声符は(華)(か)。は名馬。〔玉〕に「は駿馬なり」という。

[訓義]
1. 良馬の名。
2. 字はまた華に作る。

[熟語]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「か」の意味・わかりやすい解説

カ(蚊)

Culicidae; mosquito

双翅目カ科に属する昆虫の総称。体は細くて軟弱で全体が鱗毛におおわれる。頭部は小さくて球形に近く,大部分が複眼で占められる。単眼はない。口器はとなって長く突出し,吸収口となっている。触角は細長く糸状で輪毛があり,雄では羽毛状。肢は細く非常に長い。翅も細長い。完全変態をし,幼虫はぼうふら,蛹は鬼ぼうふらと呼ばれ,大部分が淡水にすむが,塩水にすむ種もある。日本産はナミカ亜科 (イエカ,カクイカ,ヤブカなど) ,オオカ亜科 (日本最大のトワダオオカ 1種のみを含む) ,ハマダラカ亜科 (ハマダラカなど) の3亜科約 100種が知られている。雌は哺乳類や鳥類から吸血するばかりでなく,マラリアデング熱日本脳炎などの病原体を媒介する重要な衛生害虫である。他方,カ科に属しながらカクイカやトワダオオカのように他のカの幼虫 (ぼうふら) を捕食する天敵もある。 (→双翅類 )  

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百科事典マイペディア 「か」の意味・わかりやすい解説

カ(蚊)【カ】

双翅(そうし)目カ科に属する昆虫の総称。多くの種類があり,日本には100種以上いるが,衛生害虫と考えられるものはそのうち1/5くらい。一般に雌だけが吸血するが,雌雄共に全く吸血しないもの,カエル,イモリなどを吸血するものもある。卵は長さ1mmたらずのものが多く,幼虫(ボウフラ)は汚水やため水などにすみ,4回脱皮して蛹(オニボウフラ)になる。成虫は主として夏に現れ,ヤブカ類のように昼間活動するものと,ハマダラカイエカ類など夜間活動するものとがある。吸血に際し,日本脳炎(コガタアカイエカ),マラリア(ハマダラカ)など種々の伝染病を媒介する種類も多い。
→関連項目ボウフラ

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【フィラリア】より

…成虫は糸状細長で,各種脊椎動物のリンパ管(および節),血管,皮下組織,眼窩(がんか)などに寄生し,胎生で被鞘幼虫(ミクロフィラリアmicrofilaria)を産出し,吸血昆虫によって伝播される。 人体寄生種のおもなものには,バンクロフトシジョウチュウ,マレーシジョウチュウBrugia malayiオンコセルカ,ロアシジョウチュウLoa loaなどがある。このうち前2者はリンパ系に寄生し,象皮病の原因となる。…

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