改訂新版 世界大百科事典 「キジ」の意味・わかりやすい解説
キジ (雉)
キジ目キジ科の鳥の総称。
キジPhasianus colchicus(=P.vercicol)は日本の国鳥で(1947指定)狩猟鳥。アジア大陸温帯部に広く分布し,日本にも本州から屋久島,種子島まで留鳥として分布する。しかし,学者によっては日本のものと大陸のものを別種として区別することもある。日本産のキジは,キタキジ(本州北部,佐渡),トウカイキジ(本州中部および西部,四国),キュウシュウキジ(本州南部,九州,五島列島),シマキジ(本州の一部,屋久島,種子島,伊豆諸島)の4亜種に分けられる。しかし,キジは狩猟鳥であるため,各都道府県によって人工増殖および放鳥が毎年行われてきた結果,各亜種が各地で入りまじり,現在,各亜種間の差異は明りょうではなくなっている。また,北海道,対馬,八丈島では,もともとキジがすんでいなかったが,大陸の亜種であるコウライキジが人為的に放鳥され繁殖している。
雄は全長が80~90cmあるが,そのうち尾羽が40~50cmもある。羽色は金属光沢のある緑色で,眼のまわりに赤い肉垂れがあり,頭の両側には耳のような形をした羽毛がたっている。雌は全長が55~65cmで,尾羽は20~30cmと短く,また羽色はじみで,褐色の地に黒色の斑紋がある。耕地,草原,低木林や林縁にすみ,穀物や種子,ミミズ,昆虫などの小動物などを食べている。繁殖期には雌は地面に浅いくぼ地をつくり,草を敷いて産座とする。4~7月ころに1腹8~20個のクリーム色の卵を産み,雌のみが約22日間抱卵する。雌のじみな羽色は抱卵時に保護色として役だつ。雛は孵化(ふか)後数時間たつと歩いて雌親とともに巣を離れる。キジは地震のときなど,ケーンケーンとけたたましく鳴くことが知られている。これはキジの足にあるヘルベスト体という震動を敏感に感じとる感覚細胞のためと考えられており,人体には感じとれないような地震の震動を感じとり,人間よりも数秒早く地震を感知することができるのである。
キジ科
キジ科Phasianidaeには165種が含まれ,スズメ大の小鳥からクジャクのような大型のものまである。全長12.5~200cm。尾羽の非常に長いものが多いが,また尾羽の極端に短い種もいる。丸みのある翼,短いくび,短くてがんじょうなくちばしはこの科に特徴的である。脚は短いかあるいは中くらいで,力強く,雄ではけづめをもつ種もある。羽毛は一般に雄では美しいが,雌はじみである。大半の種には羽冠か肉垂れがある。生活形態には,群居,単独,一夫一婦,一夫多妻などがある。地上生でも,夜間は樹上で寝る種も少なくない。じょうぶな足で地表をかき回し,種子,ミミズ,昆虫などの小動物を好んで食べる。巣は地表を浅く掘ってくぼ地をつくり,草を敷いて産座とする。1腹の卵数は2~22卵で,種によって異なる。孵化した雛は,すぐに歩いて巣を離れる。
キジ目
キジ目Galliformesは,ツカツクリ科,ホウカンチョウ科,ライチョウ科,キジ科,ホロホロチョウ科,シチメンチョウ科の6科242種からなるが,学者によっては上記の科のうちライチョウ科以下をキジ科としてまとめることもある。かつてキジ目の1科として分類されていたツメバケイ科は,現在ではホトトギス目に縁が近いと考えられている。この目の鳥は,大部分のものが地上生で,中型の鳥が多い。ニワトリ,シチメンチョウなどの例に見られるように,家禽(かきん)として経済的に人間とかかわりが深く,また羽色が美しいため観賞用としてよく飼育される。猟鳥として価値の高いものも少なくない。世界中に広く分布するが,ツカツクリ科,ホロホロチョウ科は旧世界だけに分布し,ホウカンチョウ科,シチメンチョウ科は新世界だけに分布する。ライチョウ科は北半球の北部だけにすんでいる。
地上生のためにじょうぶな足をもっている。体つきは一般に丸みを帯び翼も丸く,くびは短く,頭は小さい。くちばしもじょうぶで短く,あしゆびは4本で,短く鋭いつめがある。しばしば観賞用として飼育されるように,この目には美しい羽色をもつ種が多く,肩羽や尾羽が発達し,飾羽となっている種もある。鳴声は単調で叫び声に近い。聴覚,視覚は比較的よく発達している。
執筆者:柿沢 亮三
伝承
日本ではキギス,キギシとも呼び,食肉として珍重され,婚礼の祝いに用いられた。山鳥と並んでその羽毛の美しさを尊ぶ風も見られた。また地震などの災害を予知して鋭く鳴くので,日本では古くからその挙動が注目され,白キジは祥瑞(しようずい)として年号を変えるほどに意義を有していた。《古事記》では天の使者として地上にいった〈雉名鳴女(きぎしのななきめ)〉が射殺された話や,いって戻らぬ使いを〈雉の頓使(ひたつかい)〉ということわざをのせ,キジの挙動とかかわらせている。とくにその声が高く鋭いので〈雉も鳴かずば撃たれまい〉のことわざとかかわって説かれる摂津長柄(ながら)橋の人柱の伝説もある。これにからむ親子の愛情からキジは〈焼野の雉子,夜の鶴〉など,子を愛して火にも退かぬほどの深い妻子への愛情のたとえにもされている。
執筆者:佐々木 清光 中国では,漢の高祖の皇后呂氏の名が雉(ち)であったところから避けて〈野鶏〉という。雄は美麗な羽と長い尾をもち,古代では士の初対面の礼物〈摯(し)〉としてこの鳥が贈答に用いられた。しかし雌は美しくないので,雌が鳴いて雄を呼ぶことを〈雉鳴いて牡を求む〉といい,礼に反する淫乱の行為,または男女の野合の行為にたとえる。また〈雉が淮(わい)に入って蜃(はまぐり)となる〉とか〈雉が大水に入って蜃となる〉とかの古伝承があり,さらに奇妙な説として,巨大な雌のキジが蛇と交わって卵を産み,それが地中に入って年を経ると蛟(みずち)に化して洪水を起こすということが,宋の僧文瑩《玉壺野史》や宋の洪邁《夷堅三志》壬二〈項山雉〉の条および明の陸容《菽園雑記》に見える。蛟は竜の属で洪水や山津波を起こす水中,または地中の怪物と考えられているが,それとキジとの関係は不明。キジが山野に生息し草むらに身を潜める習性のあるところから,蛇と交わるという俗説が生じたものであろう。
執筆者:沢田 瑞穂
日本料理のキジ
日本の食鳥で古来もっとも珍重されたのはキジである。どういう理由でそうなったのかはっきりしないが,とにかく平安時代の宮廷の供宴で鳥料理といえばキジを材料にしていたし,鎌倉末期には魚では鯉,鳥ではキジをもっとも高貴なものとする観念がほぼ定着していた。また,室町時代の《四条流庖丁書》が〈只鳥ト計云ハ雉ノ事也〉というように,鳥とだけいえばキジを指すようにもなった。とくに鷹狩りで鷹にとらせたキジは〈鷹の鳥〉と呼び,最高の〈賞翫(しようかん)〉とされた。賞翫は手厚いもてなし,ごちそうの意である。料理はおもに焼物にし,骨つきのもも肉は別足(べつそく)ともいった。鷹の鳥は食べ方にも決まりがつくられ,《今川大双紙》以下7~8種の故実書,料理書が〈鷹の鳥喰様(くいよう)〉といった記事を載せ,なかにはその際の主客の挨拶のしかたまで書いたものもある。
江戸時代初期に著された《料理物語》には,キジの料理として,青がち,山かげ,ひしお煎(いり),なます,刺身,せんば,こくしょう,はふし酒,つかみ酒,丸焼き,串焼きをあげている。青がちは腸をたたいてみそを加え,なべを火にかけていりつけたところをだしでのばし,肉を入れて塩で調味する汁,山かげとひしお煎はともにみそじたての汁であるが,みそのかげんをかえたものであった。なますは胸の肉を細切りにして用い,刺身は丸煮にしてむしり,サンショウみそ酢で供した。せんばは煎盤などと書くもので,煎酒(いりざけ),しょうゆなどでいり煮にしたもの,こくしょうは濃漿で,みそじたてで汁の多い煮物である。はふし酒(羽節酒)は羽の付け根のふしを焼いて酒に浸すもので,フグのひれ酒の類,つかみ酒は同様に腸を用い,みそを加えたものであった。ちなみに現在,きじ焼きというと魚の切身を付け焼きにしたものをいうが,本来はキジそのものを焼いた料理であったことは当然で,《江家次第(ごうけしだい)》にその名が見える。それが《料理物語》や《犬筑波集》では豆腐を焼いたものになり,さらに魚の料理へと変化していったものである。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報