ギリシア神話の海神。また地震,馬の神。ローマ神話のネプトゥヌスNeptunus(英語ではネプチューンNeptune)にあたる。クロノスとレアの子。兄弟のゼウス,ハデスと力を合わせて父神の王権を奪ったあと,三兄弟の間で世界を分割統治すべくくじを引き,海洋の支配者となった。その宮殿はエウボイア島の西岸,アイガイ沖の海底にあり,彼はそこから黄金のたてがみと青銅のひづめをもつ4頭の馬に引かせた戦車に乗り,一振りすれば大波がわき立ち,伏せれば鎮まるという三叉の戟を手にして,各地へ赴くと考えられた。
アテナイの町が建設されたとき,彼は女神アテナとその守護神の地位を競ったが,戟で地を打ってアクロポリス上に馬(一説には塩水の泉)を出現させたポセイドンは,オリーブの木を生じさせてこれを住民への贈物としたアテナに敗れた。彼はまたアポロンとともにトロイア王ラオメドンのために城壁を築いてやったが,王が約束の報酬を払わなかったため,海から怪物を送って住民を苦しめ,ラオメドンの子プリアモスの代になって起こったトロイア戦争では,つねにギリシア方の味方をした。しかしトロイア陥落後,帰国途上の英雄オデュッセウスにわが子の単眼巨人ポリュフェモスが盲にされたことを怒り,オデュッセウスの帰国を妨害しつづけたという。彼の子どもには,ポリュフェモスのほか,妃アンフィトリテAmphitritē(海の老神ネレウスの娘)との間にもうけた半人半魚の神トリトン,女怪ゴルゴンのひとりメドゥーサを母とする天馬ペガソス,巨人の猟師オリオンなどがいる。
彼の名はおそらく〈大地の夫〉もしくは〈大地の君〉の意で,ホメロスの叙事詩中のエノシクトンEnosichthōn(〈大地をゆすぶる者〉),ガイエオコスGaiēochos(〈大地を保つ者〉)などの呼称も示すように,もともとは地震の神,また土壌を肥沃にする河川,泉の神であったが,この神を信奉する人々がギリシアに侵入したとき,もっぱら海洋がその支配領域になったものと考えられる。しかし彼がなぜ馬の神ともなったかについては,いまだ満足すべき説明が与えられていない。彼の崇拝は全ギリシアにわたったが,よく知られた祭礼に,イオニア12市がミュカレ山の聖域で共同して祝ったパンイオニア祭があるほか,古代ギリシア四大競技の一つ,コリントスのイストミア祭競技も彼に捧げられたものであった。神殿としては,アッティカ半島南端のスーニオン岬のそれが有名。美術作品では,通例,右手に三叉の戟,左手にイルカまたは魚をもつ姿で表現される。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話の海の大神。ゼウスと兄弟で、海と河川、泉などの水域を支配するが、もともとは大地の神であったらしい。そのことは、彼の名が古くはポセイダオンPoseidaon、またはポテイダンPoteidanなどとよばれて「ダの夫」の意と解されているからで、つまり「ダ」は豊穣(ほうじょう)の女神デメテル(「母神デ」の意)の「デ」と同一で、大地母神デメテルの夫と説明される。デメテルが娘コレを探して遍歴中、ポセイドンが女神に挑みかかったが、女神は恐れて牝馬(めすうま)に姿を変えたので、ポセイドン自身も牡馬(おすうま)となって女神と交わったという伝承がある。馬はもともと大地と密接な関係があり、ポセイドンには「馬の神」Hippiosという称号があった。このほか「大地を揺り動かす者」Enosichthonとか「大地を保つ」Gaieochosなどの呼称からも、大地の神としての性格がうかがえる。デメテルと同様にその名の「デ」あるいは「ダ」の意味は不明ながら、名称はギリシア語系であり、2人は古い時代にギリシア人に崇拝されていた一対(いっつい)の配偶をなす神々と思われる。彼の本拠はエウボイア島に近い海底で、そこに宮殿があり、四頭立ての戦車を駆って地上へ現れる。
彼の数少ない神話のうちでも有名なのは、アテネとアッティカの主神の座をめぐって争ったエピソードであろう。ポセイドンは馬をつくって人間に乗馬の術を教え、アクロポリスに塩水の井戸を湧(わ)き出させた。次にアテネが、オリーブの木をアクロポリスに生じさせた。結局アッティカの守護神にはアテネが選ばれ、ポセイドンは怒って洪水を起こしたというが、彼はアテネばかりでなく、他の都市の守護神争いにも敗れている。彼は粗野で怒りっぽく、さして魅力のない中年の神として描かれており、その伝説も粗暴で非人間的とさえ感じられる。彼の子はすべて怪物か野蛮な人間または馬であった。またトロヤ戦争ではつねにギリシア軍に味方して、かなり目だった活躍をしているが、それ以外では神話に乏しい。ローマ神話では水の神ネプトゥヌスNeptunusが同一視される。英語名はネプチュンNeptune。
[伊藤照夫]
古代ギリシア人の地震,海および航海の神。ゼウスと兄弟で,父クロノスの死後,ゼウスは天を,ポセイドンは海を得たという。崇拝は全ギリシア的。ローマ人の神ネプトゥーヌス(ネプチューン)と同一視された。
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…神話では,ゼウスとその最初の妻メティスMētis(思慮の女神)の娘とされ,メティスから生まれる男子は父の王座を奪うだろうとの予言におびえて妊娠中の妻をのみ込んだゼウスの額から,すでに成人し,武装した姿で飛び出したという。彼女の崇拝の中心地であったアテナイとの関係については,かつて彼女と海神ポセイドンがこの町の領有を争ったおり,海神が三叉の矛を一撃してアクロポリス上に馬(一説では塩水の泉)を出現させたのに対して,彼女はオリーブの木を生じさせた。これを見た神々は後者の方が住民に有益な贈物と判定し,アテナに軍配をあげたので,以後この町は彼女の庇護下におかれ,その名もアテナイと呼ばれるようになったと伝えられる。…
…ギリシア神話で,エチオピア王ケフェウスKēpheusと妃カシオペイアKassiopeiaの娘。カシオペイアが自分の娘は海の精ネレイスたちより美しいと誇ったため,これを憤ったネレイスたちの訴えにより海神ポセイドンは怪物を遣って王国を荒らさせた。このとき,娘を人身御供にすればこのわざわいから免れうるとの神託をうけた王は,やむなくアンドロメダを海辺の岩に鎖で縛りつけたところ,折しもゴルゴン退治をすませた英雄ペルセウスが来かかり,怪物を殺して彼女を救い,自分の妻にもらいうけた。…
…その中の長子が,〈海の老人〉とあだ名される非常な知恵者で年寄りの海神ネレウスで,あらゆるものに自在に変身する能力をもち,ネレイデスNērēidesと呼ばれる50人(または100人)の美神たちの父親である。海の支配者は最高神ゼウスの兄弟のポセイドンで,武器としても漁具としても使われる三つ股の矛を持ち,地震や津波の神としても恐れられた。彼の妃はネレイデスの一人であるアンフィトリテAmphitritēで,この夫婦の息子で下半身が魚の形をしたひょうきんな海神トリトンも,ネレウスやその同類のプロテウスやグラウコスなどと同様に,非常な知恵と変身の能力の持主である。…
…父パンディオンの死後,その王位を継いだ。ポセイドン神の子でトラキア人のエウモルポスがエレウシス人を率いてアテナイに攻め寄せたとき,娘の一人を犠牲にささげるならば勝利を得ようとの神託を受けたエレクテウスは,くじで娘を選び犠牲に供すると,他の娘たちも自害してその後を追った。こうして彼は戦いに勝利をおさめたが,息子を殺されて怒ったポセイドンにより,家もろとも滅ぼされたとも,ポセイドンの依頼をうけて放たれたゼウスの雷霆(らいてい)により,うち殺されたともいう。…
…航海神としての性格の強い神,漁業神としてあがめられる神,双方の特色を備えた神など種々ある。海の最高神として知られるギリシアのポセイドンなどは,嵐を起こしたり鎮めたり,海戦を有利に導くとされるから,漁業神としてよりも航海神,戦神としての性格が強い。イグルリク・エスキモーは海の諸動物を統治する女神セドナSednaが彼らの生存を支えてくれていると信じている。…
…ウラノスの呪いとともに天界の主権は子クロノスに移る。彼は姉レアを妻としてヘラを含む3人の女神と3男神ハデス,ポセイドン,ゼウスを生む。彼らはいずれもオリュンポス十二神に数えられる。…
…トロイア人がスカマンドロス川Skamandrosの聖なる力を信仰し,牛や馬を供犠として深みに投じたことや,ガンガー(ガンジス川)が清浄力をもつとされ,古代から現代にいたるまで沐浴する者が後を絶たず,遺骨が投棄されることはよく知られている。水を支配・統御する独立の神(霊)として有名なものにシュメールの水神エンキ(バビロニアではエア),アッカドにおける雨の神としてのアダドまたはハダド,エジプトのナイル川を支配する神のハピHapi,さらに,ギリシアの海洋神ポセイドン,ローマの海神ネプトゥヌス,インドをはじめ日本も含むアジア各地で崇拝されている水神ナーガNāga=竜神などがある。水神のパンテオン(万神殿)における地位と力は民族,社会によって異なるが,ところによっては高い地位と影響力をもつことがある。…
…妃パシファエPasiphaēとの間にアリアドネAriadnē,ファイドラPhaidra,アンドロゲオスAndrogeōsらをもうけた。海神ポセイドンに祈って雄牛を海中から出現させてもらったお蔭で王位につけたにもかかわらず,約束に反してその牛を海神に捧げなかったため,海神はパシファエが雄牛に恋するように仕向け,その交わりから人身牛頭の怪物ミノタウロスが生まれた。彼はこの怪物を名匠ダイダロスに造らせた迷宮ラビュリントスに閉じ込め,息子アンドロゲオス殺害の償いとして毎年アテナイから送られる14人の少年少女を餌に与えていたが,怪物はやがてアテナイの王子テセウスに退治され,またダイダロスは人工の翼によって空からクレタ島を脱出したので,そのあとを追ってシチリア島に行き,同地の王コカロスKōkalosに殺されたという。…
※「ポセイドン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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