(読み)かたぶける

精選版 日本国語大辞典「傾」の解説

かた‐ぶ・ける【傾】

〘他カ下一〙 かたぶ・く 〘他カ下二〙
① 斜めになるようにする。一方にかたむくようにする。
(10C終)二四七「からかさをさしたるに、風のいたう吹きて横さまに雪を吹きかくれば、すこしかたぶけてあゆみ来るに」
※文(1908)〈夏目漱石〉「しきりに首を左右に傾(カタブ)ける」
② 滅亡させる。衰えさせる。
※書紀(720)朱鳥元年九月(北野本訓)「大津皇子、皇太子を謀反(カタフケ)むとす」
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「みかどかたぶけたてまつらむとさわぎ侍るめる」
③ 酒など飲むとき、器をかしがせる。また、器の中の酒や茶などを飲む。
※平家(13C前)一〇「今様を四五反(へん)うたひすましたりければ、其時坏をかたぶけらる」
④ (中のものを出すのに器をかしがせることから) 中のものをすっかり出す。
※石山寺本大智度論天安二年点(858)「大海の水も傾(カタフケ)竭すべからぬがごとし」
※観智院本三宝絵(984)下「は戒律をまもりて鉢の油をかたふけず」
⑤ 非難する。けなす。
※源氏(1001‐14頃)乙女「この大将なども、あまりひきたがへたる御ことなりとかたぶけ侍るめるを」
⑥ ある物事に、力や精神などを集中させる。
※枕(10C終)九〇「なにとか、なにとかと、耳をかたぶけて問ふに」
※二日物語(1892‐1901)〈幸田露伴〉一日「あらそって君がため心を傾ぶけ操(みさを)を励まし」
⑦ こちらの思う通りに従わせる。
※浮世草子・好色一代男(1682)三「家請(いゑうけ)の機嫌を取り、小半酒(こなからさけ)に両隣をかたぶけ」
[補注]中世以後、これから転じた「かたむける」という形が併用され、「日葡辞書」には、「かたぶける」と書いても、話し言葉としては「かたむける」と発音されるとの説明が付けられている。現代では「かたむける」が優勢である。

かた‐ぶ・く【傾】

[1] 〘自カ四〙
① 斜めになる。一方へ向き寄る。かしぐ。かたぐ。
※古事記(712)下・歌謡「大宮の 彼(をと)つ鰭手(はたで)(すみ)加多夫祁(カタブケ)り」
※枕(10C終)六六「唐葵、日の影にしたがひてかたぶくこそ、草木といふべくもあらぬ心なれ」
② 太陽や月が沈みかける。
※万葉(8C後)一五・三六二三「山の端に月可多夫気(カタブケ)ばいざりするあまのともしび沖になづさふ」
※伊勢物語(10C前)四「あばらなる板敷に月のかたぶくまでふせりて」
③ 盛んな状態から次第に衰えの状態になる。国、家、年齢、運命などについていう。
※続日本紀‐慶雲四年(707)七月一七日・宣命「又天地の共(むた)長く遠くかはるまじき常典(つねののり)と立て賜へる食国(をすくに)の法も傾(かたぶく)事無く、動くことなく渡り去(ゆ)かむとなも」
※愚管抄(1220)三「いとど、年もかたぶきまかるままに、世中もひさしくみて侍れば」
④ (首が傾く、というところから) 不思議に思う。また、あれこれと考える。
※竹取(9C末‐10C初)「竹取の翁、この匠(たくみ)らが申すことは何事ぞ、とかたぶきをり」
⑤ 物事の状態や人の気持、考えなどがある方向にかたよる。あるものにひきつけられる。ある傾向を帯びる。
※太平記(14C後)四「此の君禅の宗旨に傾(カタフ)かせ給ひて」
※読本・春雨物語(1808)宮木が塚「欲心には誰もかたぶきて」
[2] 〘他カ四〙 非難する。
※今鏡(1170)二「金葉集といふなこそ撰者のえらべるにや。かたぶく人はんべるとかや」
[3] 〘他カ下二〙 ⇒かたぶける(傾)
[補注]中世以後、これから転じた「かたむく」という形が併用され、現代では後者が優勢である。

かた‐む・ける【傾】

〘他カ下一〙 かたむ・く 〘他カ下二〙 (「かたぶける」の変化した語)
① 斜めになるようにする。一方にかしがせる。
※俳諧・和漢文操(1723)七「西行法師のふじ見笠か、東坡居士の雪見笠か。〈〉霰にさそひ、時雨にかたむけ」
② 滅亡させる。衰えさせる。
※発心集(1216頃か)八「天魔仏法を傾(カタム)けんとすれば鬼王として対治し給ふ」
③ (酒などを飲むとき、器をかしがせるところから) 酒などを飲む。
※中華若木詩抄(1520頃)中「さらば一盃かたむけんと思ふて」
④ (中のものを出すのに器をかしがせるところから) 中のものをすっかり出す。
※思ひ出す事など(1910‐11)〈夏目漱石〉八「腥(なまぐさ)いものを面(ま)のあたり咽喉(のど)の奥から金盥(かなだらひ)の中に傾(カタム)けた事もあった」
⑤ 非難する。けなす。
※平家(13C前)四「今度の譲位いつしかなりと、誰かかたむけ申べき」
⑥ ある物事に、力や精神などを集中させる。
※和英語林集成(初版)(1867)「ココロヲ katamukeru(カタムケル)
※野分(1907)〈夏目漱石〉一一「彼等は是非共学者文学者の云ふ事に耳を傾(カタム)けねばならぬ時期がくる」

かた‐む・く【傾】

[1] 〘自カ五(四)〙 (「かたぶく」の変化した語)
① 斜めになる。一方へ向き寄る。かしぐ。かたぐ。
※中華若木詩抄(1520頃)上「此の花の房が、雨にうるをいて、次第にをもく成て、ふさが、かたむきたやうな也」
② 太陽や月が沈みかける。
※平家(13C前)灌頂「夕陽西にかたむけば」
③ 盛んな状態から次第に衰えの状態になる。国、家、年齢、運命などについていう。
※平家(13C前)二「その時都かたむいて幽王終(つひ)にほろびにき」
※天草本伊曾保(1593)老いた犬の事「イマワ スデニ ヨワイモ catamuite(カタムイテ)、ハモ ヌケ」
④ 物事の状態や人の気持、考えなどが、ある方向にかたよる。ある傾向を帯びる。
※日葡辞書(1603‐04)「アクニ catamuqu(カタムク)
※かのやうに(1912)〈森鴎外〉「思へば思ふ程、此問題は手の附けられぬものだと云ふ意見に傾(カタム)いて」
⑤ 時間が過ぎる。
※浪花聞書(1819頃)「八ツがかたむいた抔(など)云八時過のこと也」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒かたむける(傾)

かぶ・く【傾】

〘自カ四〙 (「かぶ」は頭の意)
① 頭がかたむく。特に、稲が実って穂が傾く。かたぶく。
※行宗集(1140頃)「雨ふれば門田の稲ぞしどろなる心のままにかぶき渡りて」
② 首をかしげて考える。
※島津家文書‐慶長六年(1601)一二月五日・島津惟新(義弘)書状「彼者よひこされ候事者、能を可相企との内存かとかふき申候」
③ 勝手気ままなふるまいをする。派手な身なりや、異様な、または好色めいた言動をする。
※末森記(1598)「其上彼者かぶいたる武辺なれば、敵弱きには勝利を得る事も之有るべし」
④ 歌舞伎踊りを演ずる。
※当代記(1615頃か)四「かふき女名字号出来島、隼人召連被下けるが、去月比、引連令上洛、衣装已下きらびやかにしてかふきける」
⑤ 茶の風味を味わって、その品種を飲み分ける。かぶきちゃを行なう。〔日葡辞書(1603‐04)〕

かた‐むき【傾】

(動詞「かたむく」の連用形の名詞化)
[1] 〘名〙
① 斜めになること。かしぐこと。また、その程度。傾斜。勾配(こうばい)。かたぶき。
※大津順吉(1912)〈志賀直哉〉四「鏡の前でネクタイの傾きを直してゐる所だった」
② 終わり方になること。衰えること。かたぶき。
③ 物事がある方向に進んでいく気配。とかくそうなりがちなさま。傾向。かたぶき。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉代議士「各々の撰挙区の利益を重んずる傾向(カタムキ)があるやうなわけで」
④ 数学で、平面上の直線の、高さと水平距離の比の値をいう。勾配。数式 y=ax+b のaにあたる。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
[2] 〘形動〙 物事がある一方に偏っているさま。
※史記抄(1477)一二「秦斉は人の此は胡でさうほどに用られまいものをなんどと、かたむきに云にはよらぬぞ」

かし・ぐ【傾】

[1] 〘自ガ五(四)〙
① =かたむく(傾)①〔浜荻庄内)(1767)〕
※雑俳・柳多留‐五六(1811)「宝舟布袋の方へかしぐなり」
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉続「お月様、最早彼様(もうあんな)に傾(カシ)いだ」
破戒(1906)〈島崎藤村〉二一「ずっと市村さんの方へ傾(カシ)いでひました」
[2] 〘他ガ下二〙 ⇒かしげる(傾)

かた‐ぶき【傾】

〘名〙 (動詞「かたぶく(傾)」の連用形の名詞化)
① =かたむき(傾)(一)①
② =かたむき(傾)(一)②
※新撰六帖(1244頃)六「鳥とまる竹のほずゑのよよをへてただかたぶきになる我が身かな〈藤原為家〉」
③ =かたむき(傾)(一)③
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「なかなかに読者をして、其陋劣なる事蹟をしも知るを嫌はしむる傾向(カタブキ)あればなり」

かぶ・す【傾】

〘自サ四〙 (「かぶ(頭)」を動詞化した語) 頭を深く下げる。うなだれる。また、首を傾ける。
※古事記(712)上・歌謡「山処(やまと)の 一本薄(ひともとすすき)(うな)加夫斯(カブシ) 汝が泣かさまく」
※山家集(12C後)上「夕霧の玉しく小田のいな筵(むしろ)かぶす穂末(ほずゑ)に月ぞすみける」

かた・ぐ【傾】

[1] 〘自ガ四〙 かたむく。かたよる。また、よろめく。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※俳諧・炭俵(1694)下「此度の薬はききし秋の露〈野坡〉 杉の木末に月かたぐ也〈利牛〉」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉春「偏(カタ)いだ時計の振子が動くやうなもので」
[2] 〘他ガ下二〙 ⇒かたげる(傾)

かた・げる【傾】

〘他ガ下一〙 かた・ぐ 〘他ガ下二〙
① かたむける。かしげる。
※俳諧・玉海集(1656)付句「小頸かたげて月ぞながむる 読歌に思案半のあきの空〈昌把〉」
② からだを横にする。寝る。
※滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)四「もう、おかたげなさりまし。お床しきませずに」

かし・げる【傾】

〘他ガ下一〙 かし・ぐ 〘他ガ下二〙 =かたむける(傾)
※筑紫道記(1480)「松原に至る。大さ一丈ばかりにて皆浦風にかしげたるもあはれなり」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)初「首をかしげて物あんじ」

けい【傾】

〘名〙 「けいせい(傾城)」の略。
※評判記・色道大鏡(1678)一八「座敷の往還に煙草盆あって路を塞(ふさ)ぐ時は、立ながら足にて是をなをす事、客によらず傾(ケイ)によらす〈略〉おほかり」

なだり【傾】

〘名〙 斜めに傾いていること。また、そのところ。傾斜。なだれ。
※鷲(1940)〈川田順〉鳥海山「鳥海山の傾斜(ナダリ)緩やかに曳きたればそのはてに在る海を考ふ」

かしが・る【傾】

〘自ラ四〙 =かしぐ(傾)〔改正増補和英語林集成(1886)〕
※二老婆(1908)〈徳田秋声〉一「古い家で、は傾(カシガ)り」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉「傾」の解説

けい【傾】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケイ(漢) [訓]かたむく かたむける かしげる
ななめになる。かたむく。「傾斜
くつがえす。「傾国傾覆
一定の方向にかたよる。「傾向右傾左傾
一つの所に思いや力を向ける。「傾注傾聴傾倒
[難読]傾城けいせい

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