中国絵画における規範を表す用語。六朝斉の画家謝赫(しやかく)の《古画品録》(《古今画品》)に見える。画品とは画の優劣の品等,すなわちランクづけすることで,六法は品等の基準となる概念であり,法は原理または要素,あるいはその両者を含んだ意味をもつ。品等は漢の人物評論に始まり,六朝になって詩と書,さらに画の世界に及んだ。品等は貴族文化の典型(理想像)志向に基づくもので,精神と感覚(内容と形式)の美しい調和を求めている。六法とは気韻生動(写実的に描かれた形象(主として人物像)に生き生きとした生命感があふれ,その内面がありありと表れる),骨法用筆(筆とは線描,画の骨格をなす線),応物象形(写実的表現,形似ともいう),随類賦彩(彩色,ただし固有色),経営位置(構図),伝移模写(古画を模写すること,記録伝達の重要手段)で,明確な輪郭線と固有色とから成る人物画についての原理,要素である。中世末から近世にかけて線描が多様化し,ついには筆に対して墨を重視する水墨画が成立すると六法の解釈も大きく変化した。唐の張彦遠(ちようげんえん)は気韻生動を画家の意が線描にあらわれることとし,伝移模写はとるにたらぬといい,宋の郭若虚は,気韻生動を画家生得の人柄が画にあらわれることとした。水墨画は線と色を相対化し,そのテーマも山水を主としたから,本質的に六法とは合わぬものであり,唐末五代の荆浩(けいこう)はその水墨山水画編《筆法記》の中で六法にかわる六要を唱える。
執筆者:山岡 泰造
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「りくほう」ともいう。中国南北朝時代、南斉(なんせい)(479~503)の謝赫(しゃかく)が『古画品録(こがひんろく)』で述べた、絵画制作の六つの要点。このことばは東洋絵画における真髄を表したものとして、現在でも重宝がられている。確かにその内容は的確で含蓄があり、長い年月を経てもその輝きを失わない。その六つとは、(1)気韻生動(きいんせいどう)=気の充実した生き生きした表現、(2)骨法用筆(こっぽうようひつ)=骨格のしっかりした線で対象を確実に把握すること、(3)応物象形(おうぶつしょうけい)=対象の形に応じて写実的に描くこと、(4)随類賦彩(ずいるいふさい)=対象に従って色をつける、(5)経営位置(けいえいいち)=構図をしっかり決める、(6)伝移模写(でんいもしゃ)=古画の模写を行い技術・精神を学ぶ、以上である。このなかでも「気韻生動」は、芸術全般に適合することばとして広く使われてきた。
[近藤秀実]
憲法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の六大法典を「六法」という。六法全書というときには、それ以外の多くの法律をも集成したものを意味する。六法を編纂(へんさん)して一冊の書物とするのは日本だけのことで、1890年(明治23)の長尾景弼編『日本六法全書』(博聞社刊)が最初といわれる。さらには、無味乾燥な法律の代名詞に使われ、「秋の夜をひたすら学ぶ六法に恋といふ字は見出でざりけり」(黒田万一)という歌もある。
[長尾龍一]
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…この方法は鍾嶸(しようこう)《詩品》などの詩論,虞龢(ぐわ)《論書表》などの書論にもみられ,当時の貴族の間で盛行した人物批評の影響を受けている。《古画品録》はまた絵画の基本原理として六法(気韻生動・骨法用筆・応物象形・随類賦彩・経営位置・伝移模写)を提起し,特に第一の気韻生動は,後世画論のつねに中心的テーマであった。 唐代は,初期に李嗣真《続画品録》,張懐瓘《画断》などが著され,六朝に引き続いて優劣を問題とした《画断》は顧愷之を頂点に,神・妙・能の三品に分けたが,後期の朱景玄《唐朝名画録》に至ると,時流を反映し,常法にこだわらない逸品をこれに加えた。…
…論画の書物で現存最古とされる《古画品録》の著者で,27人の画家を6品に分類してその優劣を批評した。なかでもその序にみえる〈六法〉は,謝赫の創唱ではないが,最古の言及として名高い。【古原 宏伸】。…
※「六法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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