現実には存在しないもの、あるいは現実の存在とは違ったものを心に思い浮かべること。ただし、あるものを心に思い浮かべる、すなわち心像をつくるといっても、過去の経験そのままを思い浮かべることがあるが、これは記憶であって想像とはいえない。たとえば、過去に会ったことのある人の顔を実際に思い浮かべるという場合である。想像というのは、過去の経験から得られた心像を再構成して、その個人にとっては現実的ではない新しい心像をつくることをいう。それは現実に存在するものとは一致しない、あるいは現実からかけ離れたものであるから、空想fantasyともいう。
しかし、現実的な心像ではないといっても、過去の経験とまったく無縁であるというわけではなく、むしろこれを基盤としている。したがって個人における想像の内容は、その人の経験そのもの、あるいは経験から得られた心像の質や量に規定される。しかも想像は、過去の経験の写しかえではなく、それを解体し再構成して、新しい心像をつくりだすものである。この過程を取り上げて、創造的想像creative imaginationとよぶことがある。単に想像、とくに空想というと非生産的なもののように受け取られがちであるが、創造的想像は科学における新しい発見や芸術における新作品などを生み出す原動力ともなる重要な精神作用なのである。なお想像には、このほかに、将来についてあれこれと思いめぐらす予想的想像anticipatory imaginationや、他人の行動とか想像に従う模倣的想像imitative imaginationなどがある。
[花沢成一]
日常語では、現に存在する対象を欠いた表象を「想像」とよび、知覚から区別するが、哲学で用いられる「想像」も、一般に、「事物がそうあるようにではない仕方で事物を覚知する」働きとされる。ただし、西洋近代哲学では、ほぼ明確に「知解」intellectio(ラテン語)との対比において用いられ、たとえば、2点間を最短距離で結ぶ線や、四つの内角がすべて直角である平面図形という形の把握が「知解」であるのに対して、眼前にある知覚物としての机の端を直線として覚知したり、その机の上の本の表面を長方形として覚知する感性的経験を「想像」的という。またカントによれば、実体性や因果性は純粋悟性概念であるのに対して、それらを感性的現象の場面で具体化したもの、つまり「図式」は、想像力(構想力)の所産である。「想像」のこの種の用法も、「事物がそうあるようにではない……」という規定における「事物」を広義に解し、概念的なものまで含めるならば、一般の用法から逸脱するものではない。
[山崎庸佑]
字通「想」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし心身分離には生活に根ざした強い動因がある。
[心身分離の動因]
まず記憶や想像である。すでにない過去やいもしない怪獣はこの物質世界には存在しない。…
…西洋の哲学思想の日本への最初の紹介者,西周は,ヘーブンJoseph Havenの《Mental Philosophy》(1857,第2版1869)を《心理学》(上・下巻,1875‐79)として上梓するに当たり,〈従来有ル所ニ従フ〉訳語の一つとしてimaginationに〈想像〉をあてている。したがって,〈想像〉の語が日本でも古くから慣用されていたことが知られるが,しかしその語は,漢籍などでは〈旧故ヲ思イテ,以テ想像ス〉(《楚辞》)などと使われ,〈おもいやり〉や〈おしはかる〉ことを意味していたようである。…
※「想像」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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