棘皮動物(読み)キョクヒドウブツ(その他表記)Echinodermata

デジタル大辞泉 「棘皮動物」の意味・読み・例文・類語

きょくひ‐どうぶつ【×棘皮動物】

動物界の一門。体は五方向に放射相称で、石灰質の骨片か殻をもち、骨板上にさまざまの形のとげをもつ。運動器官として管足をもち、体内の水管系につながる。幼生は左右相称。すべて海産。ウニナマコヒトデウミユリクモヒトデの5綱に分けられる。
[類語]無脊椎動物原生動物原虫中生動物海綿動物腔腸動物刺胞動物有櫛ゆうしつ動物扁形動物紐形動物曲形動物袋形動物軟体動物環形動物有爪ゆうそう動物舌形動物節足動物星口動物触手動物毛顎動物有鬚ゆうしゅ動物半索動物

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精選版 日本国語大辞典 「棘皮動物」の意味・読み・例文・類語

きょくひ‐どうぶつ【棘皮動物】

  1. 〘 名詞 〙 動物分類上の門の一つ。体は球状、星状、円盤状などで、成体は放射相称。皮膚に石灰質の骨片や骨板を含み、体表にとげをもつものもある。水管系を有し、糸状のあし(管足)を出して運動する。雌雄異体で、再生力はきわめて強い。海産。ウニ類、ヒトデ類、ナマコ類クモヒトデ類ウミユリ類などに分けられる。棘皮類。〔英和和英地学字彙(1914)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「棘皮動物」の意味・わかりやすい解説

棘皮動物 (きょくひどうぶつ)
Echinodermata

動物分類学上,1門を構成する動物群。ウニ,ヒトデ,ナマコ類などが含まれ,すべて海産。現生は世界に約7350種が知られている。体は5放射相称で,石灰質の骨板やとげなどの内骨格が皮下にあり,また水管系という特別な器官をもっていることがこの動物の共通の特徴である。ラテン名はechino(とげのある),derma(皮膚)の意。棘皮動物は有柄(ゆうへい)亜門と星形(せいけい)亜門に分けられ,有柄亜門にはウミユリ綱を,星形亜門にはナマコ綱,ヒトデ綱,ウニ綱,クモヒトデ綱などが含まれる。このうち,ウミユリ綱は原始的な体制をもち,古生代によく繁栄して,多くの種類の化石が発見される。

体は5放射相称になっていて,頭部に相当する部分がない。腹面に口があり,背面中央に肛門が開いていて,その間を管足がでている5歩帯と管足のない5間歩帯とが交互に並んでいる。ヒトデ類やクモヒトデ類は,歩帯の部分が自由に動く腕となって体が星形になったものであり,ウニ類は腕の部分が互いに密着して丸くなり,ナマコ類は口と肛門のあいだがのばされて長くなったものである。歩帯,つまり腕は5本が基本型であるが,タコヒトデのように30本以上の腕をもつものもある。

 多数の石灰質の骨板が規則正しく配列して骨格をつくるが,ウニ類では一般に堅い殻になり,とげが密生している。とげは基部の筋肉でどの方向へも動かすことができる。ナマコ類の皮膚は滑らかであるが,微小な骨片が無数に皮膚の中に埋まっている。体液を循環させる水管系は構造が複雑である。口を取り囲む周口水管から各腕の中軸に沿って5本の放射水管がでて,腕の先端に達しているが,それぞれの水管から左右に枝を出し,各枝は管足の中に通じている。また周口水管には石管という1本の石灰質の管があり,ウニやヒトデ類では背面の肛門付近にある穿孔(せんこう)板に連絡している。海水はこの石管を通じて水管系内に入ってくる。ナマコ類やウミユリ類では,この石管が体腔の中に開いているので,水管系内の水は体腔中から取り入れられる。

 管足は筋肉質の円筒状の管で,大部分は先端に吸盤をもっている。これで移動したり,餌をとらえる。ナマコ類の口の周囲にある房状の触手も管足が変形したものであり,運動機能よりも感覚や呼吸の機能をもっている。管足をのばすときは管足の基部にあるびん囊を収縮させて管足内に水を送り,また水をびん囊に戻すことによって管足を縮める。

 神経系と血管系は水管系と同じような配列をしていて,中枢神経系はまだ分化していない。また血管系では心臓に相当する部分は見られない。呼吸は皮膚でなされるが,補助手段としてヒトデ類では体表に皮鰓(ひさい)が突出しており,ナマコ類では二つの大きな樹枝状の水肺(すいはい)をもっている。

 消化器官は二つに大別される。ヒトデ類とクモヒトデ類では,大きな袋状の胃があり,ウミユリ類,ウニ類,ナマコ類では,非常に長い腸管をもっている。クモヒトデ類には肛門がないので,不消化物は口から排出される。ウニ類はアリストテレスちょうちんと呼ばれる強大な口器をもっていて,堅い石灰藻や小動物を食べることができる。

一般に雌雄異体であるが,外観から雌雄を区別することはむずかしい。生殖巣の構造は一般に簡単で,形や数には変異がある。生殖期は年1回で,その時期は種類により,また地域によって異なっている。卵や精子は直接海水中に放出されて受精する。しかし,ヒトデ類の中で,ある期間保育したり,胎生を経て直接成体になるものもある。ウニ類の幼生はエキノプルテウスechinopluteus,クモヒトデ類の幼生はオフィオプルテウスophiopluteus,ヒトデ類の幼生はビピンナリアbipinnaria,ナマコ類の幼生はアウリクラリアauriculariaと呼ばれている。再生力が強く,ヒトデ類では中央の盤がついていれば1本の腕から全体を再生することもできる。またナマコ類は内臓を放出したあと再生し,ウニ類では脱げ落ちたとげを再生する。

ウニ類は一部の種類で生殖巣を生食または塩蔵して食用にする。また,ナマコも一部乾燥したり,生で食用にされる。ヒトデ類は,養殖している二枚貝に大きな被害を与えることがある。以前はヒトデを干して肥料にしたが,現在はほとんど見られない。
執筆者:

棘皮動物の化石は世界中の各地質時代にわたって知られている。そのうち,絶滅した海果類Heterostelea(=Carpoidea)はカンブリア紀デボン紀から,ウミリンゴ類Cystoideaはオルドビス紀~デボン紀から,ウミツボミ類Blastoideaはオルドビス紀~二畳紀から,座ヒトデ類Edrioasteroideaはカンブリア紀~石炭紀から,蛇函(だかん)類Ophiocistoideaはオルドビス紀~デボン紀から知られており,その他の類は現在まで生き残っている。生存する諸類の出現した時代はナマコ類Holothuroideaがカンブリア紀,ウミユリ類Crinoidea,ヒトデ類Asteroidea,クモヒトデ類Ophiuroidea,ウニ類Echinoideaはすべてオルドビス紀までさかのぼる。棘皮動物の系統上の相互関係は明らかでないが,ウミユリ類のような固着性の仲間からウニ,ヒトデのような移動性のものへ進化したことが推定され,固着性の仲間は古生代に,移動性の仲間は中生代,新生代に繁栄した。棘皮動物の共通の祖先は,蠕虫(ぜんちゆう)類の両側虫Dipleurula,または五輻(ごふく)虫Pentactulaが考えられているが,その起源,または分岐の開始期は先カンブリア時代までさかのぼることが予想される。日本の棘皮動物化石は,ウミツボミ類,ウミユリ類,ヒトデ類,クモヒトデ類,ウニ類などが各地の各地質時代から知られているが,ウニ類を除いてはほとんど研究がなされていない。とくに古生界から多産するウミユリ類はほとんど解明されていない。ウニ類はとくに白亜紀以降,第三紀,第四紀をつうじて約100余種知られており,そのうちのあるものは標準化石としての役割を果たしている。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「棘皮動物」の意味・わかりやすい解説

棘皮動物
きょくひどうぶつ
echinoderm

動物界の分類上、最上位の階級である門を構成する動物の一群。現生の種類としては、ウミユリ類、ナマコ類、ヒトデ類、ウニ類、クモヒトデ類の5綱が含まれる。起源は古く、古生代初頭のカンブリア紀にすでに現れ、ウミユリ類と化石の諸群は古生代に大繁栄を遂げた。古生代末期から中生代前期にかけてはやや衰退するが、ジュラ紀より現在に至るまで、世界の海洋でなおよく繁栄を続けている。

 棘皮動物の名は、ギリシア語のechino-derma(ハリネズミのような皮膚をもつものの意)に由来する。棘皮動物のなかには確かにその名のとおり、棘(とげ)をもつものが多いが、棘をもつことがこの動物群の特徴とはいえない。棘皮動物の本質的な特徴としては、(1)外形や器官の配列が5方向に放射相称であること、(2)表皮の下に多数の石灰質の骨板があること、(3)体表に管足という伸縮する多数の細管をもち、それが薄膜からなる体内の水管系につながっていること、の3点があげられる。

 棘皮動物の生態的特徴は、その体制的特徴をよく反映している。放射相称というのは、元来植物的な体制であり、上下周囲の空間に対して定位置でじっとしたまま餌(えさ)を待つのが基本となる。有茎ウミユリ類はそのもっとも典型的な例で、植物そっくりの外観をして、固着生活を送る。ナマコやウニ類の一部のものは例外的に前後に方向性をもっているが、その体の内部構造には五放射相称制の名残(なごり)がみられ、体の移動はきわめて緩慢である。皮下の骨板については、棘皮動物の体を硬くし、敵から身を守るのに有効である一方、体重を大きくして体の動きを鈍くしている。骨板はウニ類の場合、集合して互いに接着し、全体が殻となっているが、ナマコ類の場合は退縮して顕微鏡下でなければ認められないほどの小骨片となっている。棘は骨板と同一起源のもので、ウニ類の場合は、その1本1本を動かすことができる。ウニ類とヒトデ類の一部のものは、さらに叉棘(さきょく)という開閉する小さなピンセット状のものをもち、外敵を防いだり、体表の清掃に用いる。管足は棘皮動物が動物らしく生きるうえでもっとも重要な器官で、体の移動、摂餌(せつじ)、呼吸、感覚など、いろいろな目的に使用される。管足を体の移動に用いるのはウニ類、ヒトデ類、ナマコ類の大半のもので、それらの種類では管足の先端に吸盤をもつ。摂餌と呼吸にはすべてのものが管足を用いるが、ナマコ類では口の周りの管足が摂餌専用の大きな周口触手となり、ウニ類の一部のものでは殻上面のものが呼吸専用の花紋えらとなっている。

 棘皮動物の内臓器官系は、消化、水管、血洞、神経、生殖系からなっている。水管系はすべてのグループでよく発達していて、とくに管足に吸盤をもつものでは、その体内部分が壜嚢(びんのう)という大きな袋になり、管足腔(こう)内の水圧を調節している。水管系は五放射状に配列し、口の周りでは環状となる。さらに石管という1本の管を経て、ウニ類とヒトデ類の場合は多孔(たこう)板というふるい状の板に至り、外界に通じている。血洞系と神経系の配列も水管系に準じる。心臓や巨大神経節はない。血洞系には腺(せん)組織からなる軸器官が付属する。生殖巣は水管系と交互の位置に五放射状に配列する。雌雄異体のものが多いが、同体のものもあり、卵胎生のものや保育習性をもつものも知られている。発生様式は脊椎(せきつい)動物と同系統で、放射卵割(らんかつ)、新口(しんこう)動物、腸体腔(たいこう)動物群型をとる。幼生は左右相称形で、普通、浮遊生活を経たのち、変態して底生生活に入るが、直接発生するものもある。

 なお、人間との関係としては、食用としてウニ類の生殖巣、ナマコ類の体壁、消化管、生殖巣が利用される。一方、ヒトデ類による有用二枚貝類の食害があり、ウニ類のなかには棘に毒腺をもち、それに刺されると痛みがひどく、膨れ上がる危険なものもいる。

[重井陸夫]


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百科事典マイペディア 「棘皮動物」の意味・わかりやすい解説

棘皮動物【きょくひどうぶつ】

無脊椎動物の一門。成体の体は5放射相称を示し,皮下に石灰質の骨板からなる堅固な内骨格をもつ。呼吸,循環,運動に関係する特有な水管系が発達している。神経系は脳を欠き,感覚器官の発達は悪い。すべて海生で,世界中の海洋の潮間帯から水深7000m以上の深海まで分布する。有柄で着生生活をするものはウミユリ類のみで,他は砂中あるいは岩石上にすみ,運動器官として管足をもつ。固着性のもの(ウミユリ類)は古生代に栄え,移動性のもの(ウニ・ヒトデ類)は中生代,新生代に栄えた。ウミユリ,ナマコヒトデクモヒトデウニ類の5綱からなる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「棘皮動物」の意味・わかりやすい解説

棘皮動物
きょくひどうぶつ
Echinodermata; echinoderm

棘皮動物門に属する動物の総称。体は5放射相称形で,内部に石灰質の骨板あるいは骨片をもつ。また水管系をもち,これによって運動,呼吸,排泄などを行なっている。すべて海産で,ウニのある種を除いて底生生活をするが,幼生はすべて左右相称形で,自由遊泳をする。起源は古く,カンブリア紀に出現し,オルドビス紀にはすでに主要なものがほとんど現れていた。現生のものは約 6000種が知られており,ウミユリ綱,ヒトデ綱,クモヒトデ綱,ウニ綱,ナマコ綱に分けられる。 (→ウニ類 , ウミユリ類 , クモヒトデ類 , ナマコ類 )

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世界大百科事典(旧版)内の棘皮動物の言及

【動物】より

… 動物の化石は先カンブリア時代末期からも発見されているが,それらはきわめて不完全である。しかしカンブリア紀になると,原生動物の有孔虫や放散虫,海綿動物のフツウカイメン(普通海綿),腔腸動物(刺胞動物)のクラゲ,棘皮(きよくひ)動物のウミユリ,星口(ほしくち)動物,軟体動物,環形動物の多毛類,節足動物の三葉虫,鋏角(きようかく)類および甲殻類など,形態的にはっきり異なった門が突然現れるので,各門の間の系統的な関係を化石をたどって確かめることはほとんど不可能である。したがって門の間の系統関係(図)は,形態や発生から推定するほかない。…

※「棘皮動物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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