宗教、哲学の用語。つねに在るものの在り方をいう。時間に対比して用いられる。時間が、移り変わり過ぎゆくものにかかわり、過ぎゆくものの在り方をいうのに対して、永遠は不変なものの在り方をいう。
日本古語の「トキハ(常磐、常盤)」は「トコ(常)イハ(磐)」の意味で、しっかりとしていつも在るものをいい、「トコシヘ」も同語根からの派生語と考えられるが、インド・ヨーロッパ語で「永遠」を意味するaiōn, āidion(ギリシア語)、aevum, aeternum(ラテン語)、ewig(ドイツ語)、eternal(英語)はいずれも「生命」「生命の長さ」「世代」を意味する同一語根から派生し、「いつも在るもの」または「世代を交代していつも在るもの」を意味した。それは宗教上の文脈では「代代(よよ)にいつまでも在るもの」「世の始めからいつも在るもの」として、時間を前後に無限に延長することにより神的なものを表象した。一つの世界が終われば、また次の世界が始まり、継起するこの世界の全体には始めもなく終わりもなく、それは永遠な神的な世界であるとするギリシア的な循環的世界観もこうした宗教的な永遠(永劫(えいごう))の観念の一つである。
これに対して、プラトン哲学では「アーイディオン(永遠なもの)」は「ホラトン(見えるもの)」に対比される。「見えるもの」が肉体の感覚を通じて入ってくるもので、片時も同一の在り方を保たないとされるのに対して、「永遠なもの」は理性の思惟(しい)によって把握され、つねに同一の在り方を保つとされた(『パイドン』79~80)。ここでは、永遠は、変化生滅にかかわる時間の秩序とは別個の秩序をなすことになる。永遠が、時間を水平の方向に無限に延長した無始無終としてではなく、時間を成立させる根拠として垂直の方向に把握されてくる端緒がここにある。それは時間の秩序のなかでは、むしろ「瞬間」として現成するものであり、時間の端緒あるいは終端として時間を成立させ、それ自身は過ぎ去らず「留(とど)まるいま」nunc stansであるといわれる。プラトンにはギリシア古来の宗教的観念も残存し、時間の内にある世界は「アイオーン(永遠)を運動の内に模倣する模像」(『ティマイオス』37D)であり、それ自身もまたアイオーニオス(永遠なもの)であるとされている。だが、キリスト教では、創造され、生成した世界は永遠ではなく、創造者である神のみがアエテルニタス(永遠である)とされる(アウグスティヌス、トマス・アクィナス)。ただし、キリスト教では、神の子である永遠のことばが人(イエス・キリスト)になったという「インカルナチオ(受肉)」の教義によって、永遠は時間を含むものとしても観念されることになった。中世から近世、現代に至るヨーロッパの神学、哲学の思弁はこの問題にかかわるところが大きい。
[加藤信朗]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…そこでは未来も過去も,ともに現在のために付随的に考えられた時間態であると考えられる。こうした発想は,洗練された形では西欧にもニーチェの〈永遠の今ewiges Jetzt〉というような概念として登場するが,ニーチェのそれもインド仏教の影響という点から考えられるとすれば,やはりインドに特徴的である。
【時間論の系譜】
過去,現在,未来の順序に固執するところからは,時間の流れ,もしくは〈流れる時間〉が出現する。…
※「永遠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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