デジタル大辞泉
「渋」の意味・読み・例文・類語
しぶ【渋】
1 渋い味。「渋を抜く」
2 「柿渋」の略。「渋をひく」
3 栗の実などの外皮の内側にある渋みをもった薄い皮。渋皮。
4 物からしみ出る赤黒い液体。
5 水などのあか。さび。水渋。「渋鮎(=錆鮎)」
6 割に合わないこと。また、それを不満とする気持ち。
「まさかに―の出るやうな乱暴もして歩かぬが」〈伎・上野初花〉
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しぶ【渋】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 渋柿などを食べた時の舌を刺激するしぶい味。
- [初出の実例]「柿のしぶ、如何。答渋也。〈略〉よきかとて、すふほどに、しぶければ、はきすつる也」(出典:名語記(1275)六)
- ② ( 多く「みしぶ(水渋)」の形で用いられて ) 水などのあか。さび。→みしぶ。
- ③ 栗などの実の外皮の内側にある渋みをもった薄い皮。渋皮。
- [初出の実例]「此の栗の子(み)、本(もと)、刊(けづ)れるに由りて、後も渋なし」(出典:播磨風土記(715頃)揖保)
- ④ ( 「かきしぶ(柿渋)」の略 ) 渋柿の実からしぼり取った渋みのある薄茶色の液体。また、その色。防腐剤、補強剤として紙、うちわ、漁具などに塗る。主成分はタンニン。渋汁。
- [初出の実例]「当所のかきとり、しふをしほる也」(出典:山科家礼記‐文明一二年(1480)六月二四日)
- ⑤ 樹皮から分泌される液。やに。
- [初出の実例]「それ、しぶと脂(やに)とに固まる松。いけるものじゃない」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)二)
- ⑥ 物からしみ出る赤黒い液。さび。
- ⑦ 割に合わないこと。また、割に合わないという不平や不満。苦情。→しぶ(渋)が出る・しぶ(渋)を食う。
- [初出の実例]「こりゃ成田山の積金だな、おぬしが金でもねえものを、遣った跡で渋じゃあねえかえ」(出典:歌舞伎・上総綿小紋単地(1865)三幕)
- [ 2 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 物惜しみするさま。
- [初出の実例]「秋風(シブナ)客の多きゆへなるべし」(出典:洒落本・浪花花街今今八卦(1784))
しぶり【渋】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「しぶる(渋)」の連用形の名詞化 ) 渋ること。なめらかに進まなくなること。
- [初出の実例]「筆の渋りに汗ばみ乍ら此苦業を続けるのだ」(出典:葬列(1906)〈石川啄木〉)
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普及版 字通
「渋」の読み・字形・画数・意味
渋
常用漢字 11画
(旧字)澁
人名用漢字 15画
(異体字)
14画
[字音] ジュウ(ジフ)
[字訓] しぶる・しぶい
[説文解字]
[字形] 会意
正字はに作り、(はつ)(癶)が相向かう形。は両足をそろえる形。両足をそろえて相向かう形であるから、進むことができず、渋滞の意となる。〔説文〕二上に「滑らかならざるなり」とあり、進退の自由でないことをいう。
[訓義]
1. しぶる、とどこおる、ゆきなやむ。
2. しぶい、味がしぶい、口に通りにくい。
3. 国語で、しぶ、柿のしぶ、飾りをすてた洗練されたおもむき。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕澁 シブル・シブルカス・サビ・シブシ・スクムテ
[声系]
〔説文〕二下に声に従う字としての一字を収め、「行く皃なり」と訓する。行路の渋滞をいう字であろう。澁は篆文のとして収める。
[語系]
(澁)・shipは同声。shikは声義近く、滑らかでないことをいう。また、言吃にして発語に苦しむことをという。澁はおそらく、濕(湿)・sjip、汁tjipと関係ある語で、水気によって渋滞する意を含む。
[熟語]
渋噎▶・渋苦▶・渋慳▶・渋語▶・渋舌▶・渋体▶・渋滞▶・渋道▶・渋読▶・渋吶▶・渋訥▶・渋難▶・渋筆▶・渋悶▶・渋錬▶
[下接語]
渋・艱渋・奇渋・険渋・枯渋・羞渋・渋・粗渋・渋・訥渋・難渋・僻渋
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
渋
しぶ
いわゆる渋味を呈する物質の総称。主成分はタンニン質で、タンパク質を凝固させる性質があり、舌の粘膜タンパク質を凝固させて収斂(しゅうれん)性の渋味を感じさせる。柿渋(かきしぶ)が代表的なもので、ほかに茶渋などがある。未熟のカキをつぶして水とともに密閉した容器中で数日放置したのち、濾過(ろか)した上澄みが渋で、1年くらい密閉保存してから用いる。柿渋は赤褐色ないし黒褐色の液で、タンニンを2~3%含み、家具の漆(うるし)下地、番傘、渋紙、木材、漁網、綿布などに塗布して用いる。これは、柿渋のタンニンが塗布物の中に吸収されて不溶性物質となり、防腐性と防水性を与えるためである。
[吉田精一・南川隆雄]
食品中の渋の代表的なものは柿渋や茶渋である。このほか、野菜などのあく(灰汁)にも含まれ、いずれもタンニン系の物質で渋味がある。柿渋は、水溶性の形では味覚に渋味を与え、食用にならない。そこで、干したり、湯やアルコールで処理するなどして、タンニンを水に不溶性の形にして食用する。これを渋抜きとよんでいる。茶渋は、茶の種類により状態が異なる。緑茶ではタンニンそのままであるが、ウーロン茶のような半発酵茶ではタンニンがいくぶん酸化し、紅茶のような発酵茶では完全に酸化している。野菜では、ゴボウやヤマノイモなどにはポリフェノール化合物とよばれるタンニン系の物質があり、空気酸化によって褐色になる。リンゴ、ビワなどの果物の一部も同様である。酸化防止のためには、酢などの酸や、薄い食塩水などが効果をもつ。野菜類の場合は、タンニン系物質が多いと褐色になるだけでなく、あくとして味がよくないので、通常あく抜きをする。
[河野友美・山口米子]
『吉田精一・南川隆雄著『高等植物の二次代謝』(1978・東京大学出版会)』▽『石倉成行著『植物代謝生理学』(1987・森北出版)』▽『樋口隆昌編著『木質生命科学シリーズ2 木質分子生物学』(1994・文永堂出版)』▽『寺田昌道著『柿渋クラフト――柿渋染めの技法』(2000・木魂社)』
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渋[温泉] (しぶ)
長野県北東部,下高井郡山ノ内町にある温泉。夜間瀬(よませ)川支流の横湯川に面し,安代(あんだい)温泉とは小さな橋をはさんでひとつづきの湯街をつくっている。古くから湯治場として知られ,大湯,笹ノ湯,神明ノ湯,熱ノ湯など9ヵ所の共同浴場をめぐる〈湯巡り〉が入浴法として伝わっている。泉質は弱食塩泉,泉温は46~96℃。長野電鉄湯田中駅からバスで5分。
執筆者:谷沢 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
渋【しぶ】
植物,特に未熟な果実や種子に多く含まれるタンニン質のこと。カキ渋が代表的。一般に,果実を臼(うす)で砕いて搾汁した一番渋および,このかすを再び砕いて搾汁した二番渋までを採る。収斂(しゅうれん)性,防腐・防水性を利用し,家具の漆下地,渋紙,番傘(ばんがさ),漁網などに塗布したり,皮のなめしなどに使用する。
渋[温泉]【しぶ】
長野県下高井郡山ノ内町にある温泉。山ノ内温泉郷の一つで,古くから湯治場として知られた。弱食塩泉。51〜98℃。星川の支流横湯川に沿って安代温泉に続く旅館街がある。横湯川上流に地獄谷噴泉(天然記念物)がある。長野電鉄湯田中駅からバスが通じる。
→関連項目山ノ内[町]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
渋
しぶ
persimmon tannin
柿渋のことで,生渋ともいう。未熟のカキをつぶして水とともに密閉した容器中で数日放置したのち,ろ別した上澄みが一番渋である。同じことを繰返せば二番渋がとれる。使用するには半年ぐらい密閉保存したものがよい。赤褐色ないし黒褐色を呈し,タンニンに富む (2~3%) 。渋紙製造,木材塗料,漁網染料,漆塗りの下地などに用いる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の渋の言及
【タンニン】より
…動物の皮を,通水性,通気性に乏しい革にすることができる植物成分。渋(しぶ)ともいう。原料は樹皮,実,葉,木部などで,多くはこれらの熱水可溶物である。…
※「渋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」