(読み)ケン

デジタル大辞泉 「献」の意味・読み・例文・類語

けん【献〔獻〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケン(漢) コン(呉) [訓]たてまつる ささげる
ケン
上位者や神仏に物をさしあげる。「献金献血献上献呈献本貢献奉献
客に酒をすすめる。「献酬献杯
物知り。賢人。「文献
コン
杯のやりとりの度数。「九献くこん三献
料理の取り合わせ。「献立こんだて
[名のり]すすむ・たけ

こん【献】

[名]客にもてなす酒・さかな膳部
「預かり蔵人小板敷きを昇り、大杯を取って共に―を勧む」〈雲図抄〉
[接尾]助数詞
酒席などで、杯を飲みほす回数を表す。また、杯をさす度数にもいう。「一おあがりください」
客をもてなすとき、食物を出す度数を表すのに用いる。
「一―にうちあはび、二―にえび、三―にかいもちひにてやみぬ」〈徒然・二一六〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「献」の意味・読み・例文・類語

こん【献】

[1] 〘名〙
① 饗応・酒宴の形式で、膳部に酒を添えて出し、ひとつの膳について酒を三度つぐのを作法とするもの。また、その膳。
言国卿記‐文明六年(1474)正月三日「伏見殿めされ、御さか月予に被下、こんあり」
② 杯の数。多く「こんが悪い」「こんを合わせる」の形で用いる。
※雲形本狂言・船渡聟(室町末‐近世初)「尤(もっとも)ではあれ共、こむがわるい、最ひとつおふるまひあれ」
[2] 〘接尾〙
① 客をもてなす時、料理と杯をのせた膳部を出す回数。一献ごとに料理をあらためた。
※権記‐正暦四年(993)正月二八日「主人勧盃左府、正光朝臣勧盃坏於右府、主人還本座之後進机、次二献、〈右少将隆家朝臣右中将実方朝臣〉次進餛飩」
酒杯を飲みほす回数を表わすのに用いる。
徒然草(1331頃)二一五「心よく数献に及びて、興に入られ侍りき」

けん‐・ずる【献】

〘他サ変〙 けん・ず 〘他サ変〙
① 物を目上の人に捧げる。たてまつる。さしあげる。献上する。
続日本紀‐文武元年(697)九月丙申「丹波国献白鹿
※延慶本平家(1309‐10)一本「文人詩を献(ケン)し、楽人楽を奏す」
② 杯をさす。献杯する。〔日葡辞書(1603‐04)〕

た・つ【献】

〘他タ下二〙 ささげる。たてまつる。
皇太神宮儀式帳(804)「佐古久志侶伊須々乃宮に御気立と宇都奈留比佐婆宮も止々侶に」
[補注]「たつ」に本来「ささげる」の意があるとするほか、「たてる(立)」と同語源で、出発させるの意のものから、物などを他に至らせる、献上するの意に変化したものと考える説もある。

けん・じる【献】

〘他ザ上一〙 動詞「けんずる(献)」の上一段化した語。
社会百面相(1902)〈内田魯庵〉台湾土産「狡猾な土人は争って媚を官吏に献じる、御馳走をする」

けん‐・ず【献】

〘他サ変〙 ⇒けんずる(献)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「献」の意味・わかりやすい解説


こん

献はけん、たてまつる、ささげるとも音・訓する。一般に献呈、献立、文献などと使っている。こんと音読すると、酒席に関連し、「一献さしあげたい」などと使用された。酒宴、もてなしなどに出される膳部(ぜんぶ)や杯(さかずき)(盃)の度数を示す語とされてきた。杯を3回重ねることを一献という。すなわち、1杯飲むのが一度で、3杯が一献になる。多人数の席で一度杯が回るのが一巡で、三度三献がよいとされていた。三度酒を飲むのが作法で、三献までは起座献杯をしないのが酒席の礼儀とされた。献の使用は鎌倉期の『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』とか、後の『徒然草(つれづれぐさ)』にみられるが、故実(こじつ)の研究者伊勢貞丈(いせさだたけ)の天保(てんぽう)14年(1843)上梓(じょうし)の『貞丈雑記(ていじょうざっき)』には、酒盃(しゅはい)之部に盃のことをつぶさに書き述べている点から、酒の作法もこのころには確立していたと考えられる。現在、一般には酒は作法ではなく楽しく飲むものとすれば、献のことばは古語に入る用語といえる。

[福井晃一]

『『貞丈雑記』(1952・明治図書出版・故実叢書)』『坂本太郎監修『風俗辞典』(1957・東京堂出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

排外主義

外国人や外国の思想・文物・生活様式などを嫌ってしりぞけようとする考え方や立場。[類語]排他的・閉鎖的・人種主義・レイシズム・自己中・排斥・不寛容・村八分・擯斥ひんせき・疎外・爪弾き・指弾・排撃・仲間外...

排外主義の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android