〘形口〙 わか・し 〘形ク〙
① ある物が現われてからの時間が短い。人のほかに
動植物にもいい、また、比喩的には月や季節にもいう。
(イ) 人や物が生まれたり発生したりしてから、まだあまり年がたっていない。幼年期である。いとけない。おさない。
※
書紀(720)斉明四年五月・
歌謡「射ゆ獣
(しし)を つなぐ
川辺の
若草の 倭柯倶
(ワカク)ありきと 吾が思
(も)はなくに」
※
源氏(1001‐14頃)
蜻蛉「
足摺(あしず)りといふ事をして泣くさま、わかきこどものやうなり」
(ロ)
草木などが生え出てからあまり時がたっていない。萌え出たばかりである。
※万葉(8C後)一〇・二二六七「さを鹿の朝伏す小野の草若(わか)み隠らひかねて人に知らゆな」
(ハ) 月が見え始めてからあまり日がたたない。
月齢が少ない。
※散木奇歌集(1128頃)夏「ほととぎす月わかしとや
奥山のこぬれ隠れに声ならすらん」
(ニ) その季節になってからまだ日が浅い。
※改正増補和英語林集成(1886)「トキガ wakai(ワカイ)ニ サク」
② いかにも①のような状態である。
(イ) 声や様子などが、子どもらしい。あどけない。
※源氏(1001‐14頃)若紫「
少納言がもとに寝むと宣ふ声いとわかし」
(ロ) 技量や物の
考え方などが、未熟である。未完成である。
※宇津保(970‐999頃)
春日詣「こともなき御琴かな。すこしまだわかくぞあんなる」
(ハ) 実などが、十分成熟していない。
③ もう子どもではないが、まだ十分におとなではない。
青年期である。若年である。平安貴族では、
元服・裳着ののち、二〇歳ごろまでにいうことが多い。
※大智度論天安二年点(858)「幼きときには則ち父母に従ふ。少(ワカキ)ときには則ち夫に従ふ」
④ いかにも③のような状態である。生気に満ちあふれている。年齢に関係なく、見た目などが若々しい感じである。みずみずしい。
※万葉(8C後)九・一七四〇「若有(わかかり)し 膚(はだ)も皺みぬ 黒かりし 髪も白(しら)けぬ」
※宇津保(970‐999頃)春日詣「山べにふゆわかく野辺に春老いたり」
⑤ (他と比較して) 年齢が下である。年少である。
※野村和作宛吉田松陰書簡‐安政六年(1859)四月一四日「然れば五年は十年繋せられても吾尚四十歳のみ。足下更に弱(ワカ)し」
⑥ 数字や番号が、他と比べてゼロの方に近い。また、回数などが少ない。
※熱球三十年(1934)〈
飛田穂洲〉富士夫の文才「まだ回は若
(ワカ)し〈略〉勝負にならぬとは限らない」
[補注]上代では、幼少の意の場合が多く、中古では青年期をさすことが多い。
類義語「おさない」は、幼少で考え方がまだ未熟である意。
わか‐が・る
〘自ラ五(四)〙
わか‐げ
〘形動〙
わか‐さ
〘名〙