頓宮とも書き,〈かりみや〉ともいった。天皇の諸国巡幸のとき,駐輦・宿泊のために設けられる施設・建物。平城宮・平安宮などの宮が,天皇常住のためのものであるのに対し,かりに造った宮の意。奈良時代には,巡幸に先だつ1ヵ月ほど前に,あらかじめ行程をはかって造営されるのがふつうであった。似た語句に〈行在所(あんざいしよ)〉がある。養老令の儀制令に,行幸中の天皇のことを〈車駕(きよが)〉といい,車駕の所に赴くことを,行在所にもうでるといえ,と規定している。また《続日本紀》神亀3年(726)10月10日条に,〈行在所に供奉せる者〉と,〈行宮の側近の百姓〉のごとく,行在所と行宮の両語句を使い分けている。これらのことから考えると,行宮が,付属の諸建物をも含む広い範囲を指す語であるのに対し,行在所は,行宮の中での天皇の御在所のみを指す語ではなかろうか。しかし律令制度の衰退とともに,その区別は厳密でなくなった。これは盛時のごとく,付属建物までは建設されず,既存の建物を利用するに至ったことによるものであろう。また南北朝時代に,南朝方の後醍醐天皇以下4代の天皇の居処である吉野,天野,賀名生(あのう)なども,一般に行宮といっているが,これは南朝方が,名分上,地方行幸という形式をとったことによる。なお天皇に代わって伊勢神宮に奉仕する斎宮が,京より伊勢国に下向する間の宿泊施設をも〈頓宮〉という。これは斎宮が神宮奉斎の点で,天皇の代理という性格を持っていたからであろう。
→行幸
執筆者:今江 広道
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…転じて,宮廷,本営,後宮の意味にも使われる。原義は〈中央〉を意味するといわれ,中国文献には遼代から現れて,行宮,行帳などと漢訳される。君主権力が強化されるに従い組織・規模が整備されていった。…
…後世では行在所(あんざいしよ)という。行宮(あんぐう)ともほぼ同義であるが,滞在が比較的長期にわたる場合とくに行宮と呼ぶことが多い。斎宮(さいぐう)の京都~伊勢間の休泊所をさしてもいうことがあり,奈良~平安時代の記録にみえる。…
※「行宮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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