ちから【力】
〘名〙
① 他に
作用する筋肉などのはたらき。人や生物のもっている物理的な
エネルギーの作用をいう。
※古事記(712)下「爾に力(ちから)窮(きは)まり矢尽きぬれば」
※
平家(13C前)四「ちからのつよさ、うち物もっては鬼にも神にもあはうどいふ、一人当千のつは物也」
※玄武朱雀(1898)〈泉鏡花〉六「
小手に
腕力(チカラ)を入れて拭巾
(ふきん)をぐいと緊
(し)め」
② 人の精神的なはたらきをさしていう。
気力。精神力。
※
万葉(8C後)一七・三九七二「出で立たむ知加良
(チカラ)を無みとこもり居て君に恋ふるに心神
(こころど)もなし」
※あこがれ(1905)〈石川啄木〉マカロフ提督追悼の詩「生と希望と意力(チカラ)を呑み去りて」
③ 物事に作用するはたらきかけや、その結果をさしていう。
(イ) ある目的に向かっての集中したはたらきかけ。
骨折り。
尽力。努力。
※竹取(9C末‐10C初)「玉の木を作りつかうまつりし事、
五穀を断ちて千余日に力をつくしたる事少なからず」
(ロ) 何らかの期待をもって、よりどころとするもの。頼みとなるもの。よりどころ。
恩恵。
※
源氏(1001‐14頃)
夕霧「こなたにちからあるここちして慰めしだに世には心もゆかざりしを」
※風姿花伝(1400‐02頃)五「
亡父のちからを得て人となりしより廿余年が間」
(ハ) あるはたらきかけをした影響、結果。おかげ。効果。ききめ。
※観智院本三宝絵(984)中「即知ぬ、願主の恩をむくいむと思ふ心のねむごろにまことをいたせるちから也」
④ そなわっているさまざまな
能力を具体的にさしていう。
(イ) 総合的な能力。
※平家(13C前)一「今は世末になって、国の力も衰へたれば」
(ロ) 事に当たっての勢力。いきおい。
※平家(13C前)六「此国にも平家のかたうどする人ありけりと、ちからつきぬとて、勇みののしる」
※千曲川の
スケッチ(1912)〈
島崎藤村〉八「力のない月の光に朦朧
(もうろう)と影のやうに見えた」
※文明田舎問答(1878)〈松田敏足〉学校「其子能(よ)く読む器力(チカラ)なければ」
(ニ) 身につけた地位や立場による威力。
※蓬莱曲(1891)〈北村透谷〉二「
権勢(チカラ)つよきものの
繋縛(なはめ)をほどく『自由』てふものを」
(ホ) 身につけた
資財による勢力。「家をもつ力がない」
※
三国伝記(1407‐46頃か)四「寡貧を救んと欲ども志のみ有て力無し」
⑤
静止している
物体が
運動を開始し、
等速運動している物体が
加速度を生ずる
原因となる作用。加速度を表わす
ベクトルと質量との積に等しい。また、エネルギーまたは仕事率を表わす語につけることもある。
※春六題(1921)〈寺田寅彦〉一「力やエネルギーの概念がどうなった処で、建築や土木工事の設計書に変更を要するやうな心配はない」
りき【力】
[1] 〘名〙
① 仏語。能力。また、神秘的なちから。すぐれたはたらきをもたらすちから。作用発動の根源にあるもの。
※今昔(1120頃か)六「忽の難を救ふ力、不思議也」
※法華義疏(7C前)一「如来。無礙力無畏禅定解脱三昧諸法皆深成就故」
③ 仏語。十如是
(じゅうにょぜ)の一つである如是力の称。→
十如是。
※正法眼蔵(1231‐53)諸法実相「この相・性・体・力等を、果・報・因・縁等のあひ罣礙するに一任するとき、八九成の道あり」
④ からだや腕のちから。体力。腕力。また、精力。ちから。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※洒落本・芳深交話(1780)「『ムム力(リキ)の有る女郎だ』『わっちゃ大力さ』」
⑤ ねばり。
※滑稽本・大わらい臍の西国(1861‐64頃)「さかな食てゐると、垂れる小便までりきがあって、よう肥(こえ)がきく」
⑦ 車力(しゃりき)のこと。また、その人の受ける労賃。
⑧ 小間物商の符丁で、数の五をいう。
[2] 〘語素〙 人数を表わす語に付いて、その人数分のちからがある意を表わす。
※浄瑠璃・信州川中島合戦(1721)一「疵を請ては手負獅子の千人力」
りき・む【力】
〘自マ五(四)〙 (名詞「りき(力)」の動詞化)
① からだに力を入れる。
※舞正語磨(1658)上「この扇おもしろしとて、りきみ弾みたる小癪をするほどに」
② ことばや態度で力を示す。力のありそうな様子をする。威勢よくふるまう。威張る。
※評判記・満散利久佐(1656)大夫「せいひきく、りきみたり。利発者也。こうざい者也」
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)二「コレ彌次さん、おめへりきんでもはじまらねへ」
③ はりきる。着飾ったり格好をつけたりする。きばる。
※咄本・聞上手(1773)薦かぶり「『ヒャアわれゃりきんだものをきたな』『ヲヲサ今ひろったが、ちっとはで過る』」
④ 張りがある。きりっとひきしまる。
※人情本・春色恵の花(1836)二「しかしいい女だぜ。眼つきのりきんだ、はなのしゃんとした、口元のかはゆらしい」
りきみ【力】
〘名〙 (動詞「りきむ(力)」の連用形の名詞化)
① からだに力を入れること。また、力のはいった様子。
※承応神事能評判(1653)加茂「大夫は尚癖多し。りき身、ゆるぎ、腰ふるひ、さしかた、腕首折れて」
② ことばや態度に力を入れること。
※詞林拾葉(1739)正徳四年三月八日「大善院もその方の歌もりきみありて、それ故に歌心よからず」
③ つよがり。また、負けん気。
※評判記・役者評判蚰蜒(1674)「天神八まん、まいてくれんと、りきみ有は波屋のなみの、よるかたわかぬうらみにしつみて」
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デジタル大辞泉
「力」の意味・読み・例文・類語
りき【力】
1 体力。腕力。また、精力。ちから。「力がある」「栄養のある物を食べて力をつける」
2 人数を表す語の下に付けて、それほどの力がある意を表す。「十人力」
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力
ちから
物質間の相互作用が、物質の速度あるいは運動量を変化させる場合、この相互作用を力という。微視的世界では、物質粒子は位置と運動量が同時に定まるような状態をとることはない。したがって、微視的世界では、ある位置における粒子の運動量の変化を考えることはできない。この意味で力は巨視的世界の物理量である。
粒子と粒子との間の相互作用はさまざまな仕組みを通って現れる。たとえば、原子間には量子的効果に基づく原子間相互作用があり、原子核を構成する中性子、陽子などの核子の間には中間子を媒介する相互作用が現れる。これらの相互作用をそれぞれ「交換力」「核力」とよぶことがあるが、この場合の力の意味はあいまいであり、相互作用というほうが近い。
力はもともと仕事の際の筋力感に発した用語であって、運動の法則が定式化される以前にはさまざまな意味に用いられた。現在でもエネルギーという意味で用いることもある。「原子力」はその一例である。
[田中 一]
力は
(質量×長さ)/(時間×時間)
の次元をもち、MKS単位ではニュートン(N)、CGS単位ではダイン(dyne)を用いる。これは、それぞれ1キログラム(または1グラム)の質量の物体に加えたとき1m/sec2(または1cm/sec2)の加速度を与える力であって、1ニュートンは1ダインの10万倍である。1キログラムの物体に作用する重力を1キログラム重という。これはおよそ9.8ニュートンである。
[田中 一]
向きが同じ二つの力が図Aのように1個の粒子に同時に作用する場合、粒子が得る加速度は、個々の力が作用したときに粒子が得る加速度の和である。力は大きさとその作用する方向をもつ物理量で、数学的にはベクトル量である。二つのベクトルの和は、図Bの(1)のように二つのベクトルを引き続いて描いて得られる三角形の新しい辺で与えられる。加速度はベクトル量であるが、もし前述の加速度の和をベクトルとしての和に置き換えれば、方向の異なる二つの力が同時に作用したときの粒子の得る加速度およびこの加速度を与える単一の力を求めることができる(図Bの(2))。このようにして力の三角形を作成して、二つの力を合成した合力を得ることができる。力の合成は、その見方をかえれば、図Cが示すように力の分解とみることもできる。また力の合成は、合成にあずかる個々の力が他の力に妨げられず独立に作用することを示すといってもよい。このことを力の独立性の原理とよぶことがある。剛体に力が作用したときの力の効果は、力の作用する点にも関係する。1点に固定された剛体の場合には、固定点からみた作用点の位置ベクトルrと力fとのベクトル積N(N=r×f)が剛体の角運動量の変化を与える。これを力のモーメントとよぶ(図D)。
物体外から物体に働く力を外力といい、物体内部間に働く力を内力という。内力は物体全体の運動には関係しない。そのほか、力の種類や作用の仕方などによって、保存力、摩擦力、偶力、引力、斥力、遠心力、求(向)心力、慣性力などがある。
[田中 一]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
力
ちから
force
物体の運動状態を変化させる作用で,物体に加速度を与える。質量 m の物体に働く力 f と加速度 a との関係を表すのがニュートンの運動方程式 ma=f であって,この方程式によって物体の運動が決定される。力の単位は SIではニュートン,CGS単位系ではダインであり,重力単位系ではキログラム重である。力はベクトル量で,複数の力のベクトル和を合力といい,合力がゼロとなる複数の力は釣合っているという。複数の力が作用するとき,質点が釣合って静止しているためには合力がゼロであればよいが,大きさをもつ物体が釣合うためには合力だけでなくて力のモーメント (トルク) のベクトル和もゼロでなければならない。これらがゼロでないときには,物体の重心の運動は合力によって,またある点のまわりの物体の回転運動はその点に関する力のモーメントのベクトル和によって決定される。ニュートン力学では,慣性系で現れる力を真の力といい,非慣性系で観測されるこれ以外の力のようなもの (質量と加速度との積で力とは考えない) を見かけの力または慣性力という。遠心力などは見かけの力である。力には手で押したり引いたりする力,ばねの力,摩擦力などのように直観的に知覚できるものもあるが,最も基本的な力は質点の間の万有引力,荷電体の間のクーロン力,陽子や中性子の間に働いて原子核を形成させる核力の3つであって,これらの力から地球の重力,荷電体に働く電磁気力,原子や分子の間に働く化学結合力や分子間力などが導き出される。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ちから【力】
一般に,自己,他者,他物に対して作用を及ぼす可能性の総称。作用者と被作用者とがともに個人もしくは社会であり,その作用が人間的価値をめぐる意志的な性格をもち,しかも制度を伴って発揮される場合は〈権力〉と呼ばれる。その不当性が強調されるとき〈暴力〉ともなる。〈能力〉〈学力〉〈戦力〉あるいは〈魔力〉や〈神通力(じんづうりき)〉なども力の一種であるが,最も抽象的に理論化されているのは,自然学の領域における力の概念であろう。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の力の言及
【エネルギー】より
…英語ではエナージーenergyという。
【エネルギー概念の発展】
[仕事と力学的エネルギー]
エネルギーの概念が確立したのは19世紀後半であるが,これと深いかかわりをもつ仕事の概念の歴史はずっと古く,すでに紀元1世紀ごろ,アレクサンドリアのヘロンは,てこや滑車などの機械による仕事について,力に関する利得が速さまたは移動距離に関する損失で帳消しにされるということを述べている。これは現在仕事の原理と呼ばれるもので,詳しくいうと次のようになる。…
【輸送現象】より
…したがって,逆にいうと,輸送現象を起こすためには,なんらかの方法で熱平衡を破る必要がある。この熱平衡を破る原因になるものを一般的な力と称している。例えば,前述の豆電球に電流が流れる場合,電流を流す原因となるものは体系に外部から加わる電場である。…
【力動説】より
…機械論に対立する考え方。ダイナミズム(ディナミスム)ともいい,力本説とも訳される。事物の原理のうちに,質量と距離の関係としての運動には還元されえぬダイナミックな力の存在を認める哲学説を指す。…
※「力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報