精選版 日本国語大辞典 「抱」の意味・読み・例文・類語
かか・える かかへる【抱】
〘他ア下一(ハ下一)〙 かか・ふ 〘他ハ下二〙
※書紀(720)天智即位前(北野本訓)「唐の兵、膝を抱(カカヘ)て哭く」
※竹取(9C末‐10C初)「人々あさましがりて、寄りてかかへ奉れり」
② ある範囲内に入れる。かこむ。
※狂言記・舟ふな(1660)「浦山をかかへまして、上下の船などを眺め、ことの外、景の多い所でござりまする」
③ 中に込めて出られないようにする。閉じ込める。
④ 自分の勢力範囲に入れてかばう。庇護(ひご)する。
※平治(1220頃か)下「山門の大衆あげて流罪せられよと公家に申ししかども、君かかへ仰せられしを」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四「私が代に抱(カカヘ)た女だと、おもいれ仕置の仕法もあるが」
⑥ ものを所有したり支配したりする。維持する。
※石山本願寺日記‐顕如上人文案・(年未詳)(室町)卯月一八日「然共各依油断、当寺あいかかへがたく候」
⑦ 自分に課せられたもの、責任をとるべきもの、また、負担になるものとして持つ。
※平家(13C前)一一「これほどの大事をまへにかかへながら、同士戦(どしいくさ)候者(さうらはば)」
⑧ じっと控えめに内にこめて、外に出ないようにする。控えめにする。うちわにする。
※花鏡(1424)比判之事「風情よそをいを少々(すくなすくな)とかかへて、見物の人の目・心をやすめて」
⑨ ⇒かかえる(香)
かかえ かかへ【抱】
[1] 〘名〙 (動詞「かかえる(抱)」の連用形の名詞化)
① 祿や給金などを与えて召しかかえること。また、そのかかえられた人。
※比企文書‐永祿四年(1561)五月二二日・太田資正判物「小室矢沢百姓分、如二前々一可レ有二御拘一候」
※浮世草子・世間娘容気(1717)三「呉服所より抱(カカヘ)にござったござったお大黒の殞子(をとしご)」
※浮世草子・好色二代男(1684)五「三浦四郎左衛門抅(カカヘ)の太夫若山に」
③ 「かかえおび(抱帯)」の略。
※浄瑠璃・心中天の網島(1720)橋尽し「泣てつきせぬなごりのたもと見すえてかかへをたぐり寄せ」
※洒落本・古契三娼(1787)「ふか川じゃァかかえをしてやるといふが客のはでさ」
⑤ 菊の花弁の狂い方や変形の仕方の称。追抱、褄折抱、丸抱、乱れ抱、自然抱、管抱、露心抱の七種がある。かかえ咲き。
[2] 〘接尾〙 両手でかかえるほどの大きさを示す語。
※改正増補和英語林集成(1886)「ヒト kakae(カカエ)ノ マキ」
だ・く【抱】
〘他カ五(四)〙 (動詞「いだく(抱)」の変化した語)
① 腕にかかえて胸の前に支えもつ。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「いづれの宮をかまづだき給ふと」
② ある考え・感情を心にもつ。ひそかに思う。
※蘇悉地羯羅経寛弘五年点(1008)上「終に捨離退心を懐(タカ)ず」
③ 他人に、自分と同じ考えや行動を無理にとらせる。特に、悪事や罪を自分とともにさせる。だきこむ。
※雑俳・柳多留‐八(1773)「だいてはいるとは二位どのか言はじめ」
※洒落本・箱まくら(1822)上「抱懐(ダイている) たいこもちとわけあるをいふ」
⑤ 男女が抱擁する。交接する。
※歌謡・松の葉(1703)一・錦木「去り難いとてだかりょうか」
[補注]イダク→ダクの変化については、音韻論的には、語頭狭母音の脱落説や濁音前の入り渡り鼻音のイ表記省略説等がある。
むだか‐・う ‥ふ【抱】
[1] 〘他ハ四〙 (動詞「むだく(抱)」に反復・継続の意の上代の助動詞「ふ」の付いてできたもの) =むだく(抱)
※東大寺本成実論天長五年点(828)一五「炎摩天の抱(ムダカハル)て欲を成し」
[2] 〘他ハ下二〙 ((一)の下二段化したもの) =むだく(抱)
※釈日本紀(1274‐1301)一八「其父(そのかそ)を抱(ムタカヘ)て死(まかり)ぬ」
だき【抱】
〘名〙 (動詞「だく(抱)」の連用形の名詞化)
① 抱くこと。
② かかえること。また、両手でかかえるほどの大きさを示すのに用いる語。
※浮世草子・新御伽婢子(1683)五「真黒なる大木、太さふた抱(ダキ)計なるが」
③ 衣の袖の前の部分。
※名語記(1275)四「袖のまへをばだきとなづけ、うしろをばそてといへり」
かか・ゆ【抱】
〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段動詞「かかふ」から転じて、室町時代頃から用いられた語。多くの場合、終止形は「かかゆる」の形をとる) =かかえる(抱)〔天正本節用集(1590)〕
※虎明本狂言・骨皮(室町末‐近世初)「此寺をかかゆる事はなりまらすまひ程に」
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉三「乗合一同旅の苦をわすれて腹を抱(カカ)ゆるほどに」
いだき【抱】
[1] 〘名〙 (動詞「いだく(抱)」の連用形の名詞化) だくこと。
[2] 〘接尾〙 両手でかかえる程の大きさ。かかえ。うだき。
※書紀(720)推古三年四月(岩崎本訓)「沈(ぢむ)水淡路嶋に漂着(よ)れり。其の大さ一囲(イダキ)」
いだか・う いだかふ【抱】
〘他ハ下二〙 腕にかかえこむ。
※竹取(9C末‐10C初)「女ぬりこめの内にかくや姫をいだかへてをり」
[補注]「いだく」の未然形に動作の継続、反復を表わす古い助動詞「ふ」が付き、下二段化したものか。また、「いだきかかふ」の変化したものとも考えられる。
うだき【抱】
〘接尾〙 (動詞「うだく(抱)」の連用形の名詞化) 両手で抱えるくらいの大きさ。
※書紀(720)仁徳六二年五月(前田本訓)「大きなる樹有りて〈略〉其の太さ十囲(とウダキ)」
だか・える だかへる【抱】
〘他ア下一(ハ下一)〙 だか・ふ 〘他ハ下二〙 いだく。かかえる。だきかかえる。だく。
※玉塵抄(1563)三四「琴をだかえてかきをくぐってにげたぞ」
だか・る【抱】
〘自ラ五(四)〙 胸の前にかかえもつようにされる。抱かれる。
※雑俳・柳多留‐四(1769)「おはぐろの尻へだかってだだをいふ」
かい かひ【抱】
〘接尾〙 「かかえ(抱)」の変化した語。
※玉塵抄(1563)一「両の手でだきあわすることぞここらに一かい二かいと云ことぞ」
だっこ【抱】
〘名〙 だくこと、また、だかれることをいう幼児語。
※雑俳・歌羅衣(1834‐44)七「抱っ子いやだとだだを踏む泥」
かか・う かかふ【抱】
〘他ハ下二〙 ⇒かかえる(抱)
だか・う だかふ【抱】
〘他ハ下二〙 ⇒だかえる(抱)
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